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8 話すんじゃなかったって後悔してる




「他の男の匂いがする」

「……」




 家に帰って早々、夏目に抱きしめられたかと思うと彼は私の匂いに気がつき顔を歪ませた。


 確かに橘さんと会ったけど、そんなにひっついていたわけではないし……


 そう思いつつ、私は別に浮気をしているわけでもないのに、何故か罪悪感を感じてしまった。

 いや、実際これは浮気ではないのだろうけど…… 私が黙り込んでいると、夏目はずばり橘さんだと私が会った相手を当てた。




「何故、あの男と?」

「……仕事よ」

「仕事はないと言っていたはずだが?」

「急用」

「嘘をつくな」




 ぎゅっと強く抱きしめられ、少し苦しい。


 どうしよう、なんて言えばいいのだろうか。


 本当の事を言ったところで信じてもらえるか分からないし……でも、言わなければ余計面倒くさくなりそうだし。

 それに、正直に話せば、また機嫌を悪くするだろうし……そんなことを考えている間もずっと夏目は私を抱きしめて離さなかった。




「苦しい……」

「お前が俺以外の匂いを纏っているのが許せないんだ」

「マーキングしてるの?」

「かもな」




 夏目はそう言うと、私の首筋に顔を埋めて擦り寄る。

 犬みたいだ。




「……はあ、そうよ。貴方の言うとおり橘さんと会ってきたの」

「何のために?」

「それは言えない」

「俺に隠し事か?それとも浮気か?」




と、夏目は執拗に質問してくる。


 浮気なわけないだろうと返したが、彼はその答えに納得していない様子だった。


 だが、それ以上何も言えない。

 夏目を巻き込むわけにはいかないし、夏目を巻き込めばさらに面倒な事になりかねないからだ。この間だってそうだった。




「浮気じゃないわよ」

「断言できる証拠は?」

「……」

「証拠はあるのか?」




 夏目の問いに私は無言を貫く。


 すると、彼は不愉快そうに眉間にシワを寄せる。

 しかし、私は何も言い返さない。


 そもそも、恋人をすぐ疑う癖を直して欲しい。独占欲が強いのは分かるし、私のことが好きで好きで仕方がないってことも伝わってくるのだが、私のことをもう少し信じて欲しい。


 恋人なんだし……


 暫く、お互い無言が続き、さすがの私も気まずくなってきたため、はあ……とため息をついた後、口を開く。




「……きだから」

「聞えないぞ?」

「だから、その……」

「聞こえない」

「……貴方が好きだから、浮気なんてしない。するわけない。好きだって言ってるの!私には、夏目しかいない!」




 ああ、もう口が腐りそう。


 今の私は見るに堪えないぐらい顔を真っ赤にして目がぐるぐると泳いでいるだろう。ここまで言わないときっと彼は私を信じない。


 面倒くさいことに。


 私の言葉を聞いた夏目は、一瞬フリーズしたが次の瞬間ニヤリと口角を上げ私の顎を掴んできた。

 そして、そのまま私の唇を奪ったのだ。


 何度も角度を変え、深くキスされる。夏目の舌が私の歯列をなぞり、舌を絡めとられる。

 頭がぼーっとしてきて、力が抜けていく。


 ようやく、夏目は満足したようでゆっくりと離れていった。

 私はというと、完全に腰が砕けてしまい床に座り込んでしまった。そんな私を見た夏目はクスッと笑うと、私の頭を乱暴に撫でた。




「貴方……わざと……」

「フッ、悪い。つい虐めたくなってな」

「最低……」

「悪くなかっただろ?それに、お前は俺とのキスが好き」

「……調子乗ってんじゃないわよ。誰が、貴方との……き、キス、なんて」




 虚勢はっても意味ないぞ。と夏目は悪戯っ子のように笑った。


 やられた……だと思ったが、言わないといけない雰囲気だった。と私は床を思いっきり叩いた。


 私が夏目の扱いを覚えたように、彼もまた私の扱いに気づいたようだ。私が押しに弱いことも、何もかも……


 悔しい。


 嬉しそうに私を見下ろす夏目を見ながら、もうどうでもいいやと私は再びため息をつく。




「はあ……それはそうと、私明日出かけてるくるから」

「何?聞いてないぞ、俺は」

「言ったわよ。何日か前に」

「誰と、何処に行くんだ?」




と、夏目はまたもしつこく質問してくる。




 本当に鬱陶しい。


 しかし、ここで黙秘しても余計にややこしくなるだけなので、素直に答えることにする。

 私はスマホを取り出して、とあるサイトを見せる。

 スマホの画面に映し出されたのは、以前夏目と行ったことのあるテーマパーク、ジュエリーランドの公式ホームページだった。


 しかし、何故これを?といった感じで夏目は私を見てくる。




「勿論、男の人と行くわけじゃない。友達といくの」

「お前、友達いたのか?」

「失礼ね!いるわよ……二人……一人ぐらい」




 夏目は当然のように友達がいないだろ。と言った表情で私を見て言ってきたため思わず鳩尾を殴ってしまった。

 ぐっ……と腹を押さえながら夏目が睨みつけてくるが、自業自得である。


 確かに私は友人と呼べる人は少ないかもしれないけど、別にいないわけではない。

 いや、四捨五入したらいない。




「春音さんよ。春音さんに誘われたの。ジュエリーランドに行かないかって」

「一条にか?」

「ええ、友達としての思いで作りにって」




 そう、私は夏目に述べた。


 まあ、予定が入ったのは昨日の夜なんだけど……こう、金持ちって言うのはお金だけじゃなく時間もあるのかと。

 時間は皆平等なはずなのにな……と呆れたが、ちょうど、私も予定が入っていなかったため、平日と言うこともありすいているだろうという話になって明日行くことになったのだ。


 夏目は一条なら……とつぶやき、少し考えた後、いいんじゃないか。と言ってきた。

 意外にもあっさり許可が下りたので、私は拍子抜けしてしまった。

 いや、何故友達と遊びに行くのに恋人の許可が必要なのかそっちの方が不思議である。




「それじゃあ、私は明日の準備と執筆作業があるから部屋に籠もるわね」




と、私は夏目に背を向け彼から譲り受けた部屋へと向かう。


 その間夏目は何もいってこなかっため、可笑しいなと思いつつも、そういうこともあるかと片付け私は部屋の扉を閉めた。







 

 ――――翌日。 




「わー冬華さん、すっごく似合ってます!この間一緒に買った服を着てきてくださるなんて!」

「あはは、ちょっと恥ずかしかったけど……春音さんとせっかくでかけにいくんだしと思って思い切って……で――――」




 ジュエリーランドの前で待ち合わせていた春音さんと合流し、この間買い物に行った際お揃いと買った服を互いに褒め合っていたのだが、私はひとしきり感想を述べた後スッと私の後ろに立っていた男二人に視線を向けた。




「なんで貴方達がいるのよ!」




 私はそう言って後ろを振り向いた。


 そこには夏目と橘さんがいた。夏目には春音さんとジュエリーランドに行くことを伝えたのだが、何故橘さんまでここにいるのかと。

 私の声に反応して、夏目は悪びれもなくこちらに向かって歩いてくる。




「散歩がてらきてみたんだ」

「こんな早朝に散歩がてらジュエリーランドに来る御曹司が何処にいるのよ!」

「ここにいるだろ」




と、夏目はフッと笑う。


 ああ、もう話すんじゃなかったと思いながら私は、橘さんの方に視線を向ける。

 彼は驚く様子もなく、おはようございます。と挨拶をしてきたのだが、本当にこの人は謎である。




「橘さんは何でここにいるんですか」

「連城先生の護衛です」

「……」




 そう言って笑う橘さんに心の底から私は震えるのであった。

 私の平穏とは?





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