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5 side夏目




「聞いてくれ、冬華が可愛すぎて辛い……」

「すみません、俺たち何で呼ばれたんですか?」




 真っ昼間から高級焼き肉店の個室に男三人は集まっていた。


 眩い金髪の男は頭を手で押さえうなだれ……惚気、それを見た一人の男は呆れたように何故自分たちがここに呼ばれたのかと尋ねていた。




「メロンソーダ1つ」

「すみません、メロンソーダはメニューにはありません」

「おい、お前は何でこんな状況で注文が出来るんだよ。後メニュー見てから注文しろ!」




 ダークブラウンの髪の男は、隣に座っていた艶のある黒髪の男に文句を言う。しかし、隣の男はメロンソーダがなかったことにショックを受けていたのか、それじゃあジンジャーエールでと注文をしていた。

 その様子に、ダークブラウンの髪の男、日比谷灯華は呆れてため息をつく。


 ここは都内にある高級焼肉店だ。


 そして、今日ここに日比谷灯華とその親友、朝霧遥輝を呼びつけたのはかの有名な財閥の御曹司、久遠夏目である。

 夏目は個室にはいってそうそう、冬華が可愛い。と惚気始めたのだ。

 全くどういった用件で呼ばれたのか分からない二人……灯華は頭を抱えた。




「それで、何で俺たちは呼ばれたんですか」

「従兄弟の顔を久しぶりに見ようと思ったからだ。優しいだろ?」

「……遥輝はそうかも知れないですけど、俺は久遠さんの従兄弟でも親戚でもないです」




 日比谷灯華は夏目の事を嫌いではないが苦手だった。


 見た目も中身もいいが、とにかく押しが強い。財閥の御曹司であるが故に、大抵のことは財力でなんとかできる。手に入らないものは無い。

 そして、ただ話すためだけに高級焼き肉店のそれも良い個室を取って一般人の自分たちを呼びつけたのだ。


 そんな事を考えながら、呼ばれた理由を理解しているのか理解していないのか、運ばれてきたジンジャーエールのストローを弄り出す遥輝に、灯華はもう一度溜息を漏らした。


 朝霧遥輝は、灯華の親友であり、また夏目の親戚で四つ下ではあったが頻繁に連絡を取り合う仲だったらしい。

 夏目は基本、無口で感情的にならない人間を好むため、親戚である遥輝はそれにばっちりあっていたというわけだ。

 だが最近は、音信不通になっており、夏目からの連絡もなくなっていたという。それを遥輝は気にする様子もなかったが。




「夏目さんも元気そうで、何よりです」




と、それまで黙っていた遥輝が口を開き小さく頭を下げた。


 遥輝は基本無口である。

 親友でありながら灯華は彼が時々何を考えているのか分からない。しかし、そんな彼にも最近心を動かされる出来事があったようで……


 夏目は運ばれてきた肉を網に載せながら、話を続けた。




「俺の彼女は恋愛作家なんだ。出会った当時は、冷たく氷のような女だったが今ではその氷が溶け優しくなった」

「……えっと、俺たちは惚気を聞かされるためだけに呼ばれたんですか?」

「俺も、彼女が出来ました」

「おい、遥輝!」




 夏目の話に混ざるように、肉をひっくり返しながら遥輝は口を開いた。

 個室には肉の焼ける良い匂いが広がる。




「ほぅ……お前にも、恋人が」

「はい、巡は凄く可愛いです」




と、どことなく嬉しそうに言う遥輝に灯華は内心イラつきを覚えた。


 灯華はリア充爆発しろと思いながら、自分の前に運ばれてきた肉を見て喉を鳴らす。




「遠慮せず食べろ」

「遠慮しますよ。俺マジで関係無いですし」




 自分の小遣いでは絶対に行けないであろう高級焼き肉店に連れてこられ、親戚でも何でもない自分がこんな良い肉を食べれる訳がないと灯華はグッと拳を握る。

 夏目は軽く食べればいいのにと、刻みネギをくるんだタンをサッとレモン汁に浸し、真っ白な白米の上にバウンドさせてから口に運んだ。 


 その様子を見ているだけでお腹が鳴る。と灯華は恨めしそうに見ていた。




「さすが、高級焼き肉店」

「少しぐらい遠慮しろよ。遥輝!って、お前は親戚だからいいかもしれないけどさ!」




と、何の抵抗もなく夏目と同じようにタンを食べる遥輝。


 それを羨ましそうに見つめる灯華。

 そして、目の前にあるタンや、霜降り和牛が灯華の食欲を刺激した。


 しかし、この場で食べる勇気はなくチラリと遥輝を見た後、再び夏目に視線を向けた。

 二人が食べている姿を見て、もうどうにでもなれと灯華は肉を口に運んだ。後から高額請求されるのではないかと内心冷や冷やしながら。




「うううぅん!?美味しい!こんなの今まで食べたことない!」




 思わず声に出してしまった灯華に夏目はニヤッとした表情を見せた。




(あぁ、やっぱり金持ちは違うわ)




 そんなことを思いながら、次々と運ばれてくる肉に灯華は舌鼓を打った。


 その間も、夏目や遥輝は自分の恋人自慢をし続け談笑していたが、俺は無関係ですといった感じに灯華は肉を食べるのに専念した。



 すると、そこまで存在感を消していた灯華に夏目は話題を振った。




「だが、最近俺と冬華の邪魔をする奴が現われたんだ。あのオレンジ色の髪の若手俳優が……」

「ぶ―――――ッ!」

「おい、灯華。汚いぞ」




と、むせてしまった灯華にゴミでも見るような目を向けてくる遥輝。


 灯華はむせ込みながら夏目を見た。夏目のレッドベリルの瞳は鋭く、怒りの色が見え隠れしている。その瞳を見て、灯華はキュッと縮こまるように頬をひくつかせた。




「相葉春夏秋冬……お前の兄だ。俺と冬華の邪魔をするけしからん輩の名は」

「ハハ……でも、俺んとこ離婚してて、今は春夏秋冬と一緒に暮らしてないので……」

「お前、頻繁に連絡取ってるだろ」

「だーッ!余計なこと言うなって遥輝!」




と、慌てて遥輝の口を塞ぐ灯華。遥輝はモゴモゴ言いながらも灯華の手を外そうと必死になっている様子を夏目は黙って見ていた。

 だが、目が笑っていない夏目を見て灯華はさらに小さくなる。



 日比谷灯華と相葉春夏秋冬は兄弟である。


 しかし、数年前両親が離婚し、母親と春夏秋冬は家を出ていってしまった。その時既に春夏秋冬は俳優として世に出ており、その関係で両親が揉め離婚……といった感じだった。

 だからといって、灯華は春夏秋冬を恨んでいるわけでもなく、遥輝の言ったように二日に一回、多いときは一日に何度も連絡を取り合う仲なのだ。




「あーだから俺、呼ばれたんですね」




 灯華は、今日自分が呼ばれた理由にようやく気づいた。




「物わかりが良くて助かる……そうだ。だから、忠告しろ。お前の兄に、俺と冬華の邪魔をするなと」

「……はい、分かりました」




と、灯華は渋々と言った感じで返事をした。


 だが、実際連絡をしたところであの兄が諦めるとは思わない。灯華は春夏秋冬のことをよく知っている為、彼が一度欲しいと思ったものは何が何でも手に入れる性格であることを。

 確かに、既に人のものだと分かっているなら少しは諦める余地はあるかもしれないが……


 そう灯華は考えつつ黒焦げになった肉を口に運んだ。

 それからまた、夏目と遥輝の惚気が始まり灯華は存在を消していた。





「はあ……きっと、もう一生これない」

「またこれば良いだろ」

「遥輝は簡単に言うけどさ……」




 夏目と別れた後、灯華は遥輝と共に電車に乗っていた。

 遥輝は当たり前のように灯華の隣に座っている。灯華は、隣に座った遥輝をチラッと見る。すると、遥輝はそんな灯華をジッと見てきたのだ。




「何だよ」

「いや、夏目さんの彼女って連城冬華さんだったかと」

「ああ……そう言ってただろ」

「巡が好きな乙女ゲームのシナリオ担当もその人だった気がして……今度、夏目さんにサイン貰ってきて貰おうかと」




 そう話す遥輝の口元は緩んでいた。大方、恋人である天馬巡のことを考えているのだろうと灯華は察しため息をついた。


 また、ここでも惚気出すつもりかと。


 しかし、そんな遥輝の表情もすぐにまた無へと変わりボソッと何かを呟いた。




「俺は、夏目さんに嫉妬しているんだな……」







夏目の親戚に当たる朝霧遥輝君と、春夏秋冬の弟である日比谷灯華君は……


『乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います』


に出てくるリースと、ルーメンです。


はい、実は繋がってたりしました。時系列的には少し前になるのですが……

冬華がシナリオ担当したゲームをプレイしているのがエトワールちゃんになります。


それでは引き続き、本編をお楽しみ下さい。

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