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4 毎回のごとくダメになるデート




 二人の間にバチバチと火花が散っている気がした。

 野次馬もいつのまにか私たちを囲むように集まっていた。


 前にも似たような事があったなあとぼんやり思い出し、しかし、その時とは比べものにならないぐらい人が集まっていた。




(確かに、橘さんもイケメンだけどね……肩書き的にはただの編集者だし……)




 こんなことを考えている時点でかなり失礼なのだが、遊園地でも夏目と橘さんは私を挟んで色々言い合っていた。あの時は、まだ私は夏目の彼女とはなかったのだが、今は状況が違う。


 二人の火花はこっちにまで飛んできていて正直鬱陶しかった。よそでやって欲しい。

 そう思っていると、周りにいた野次馬達が声を上げる。




「えぇ!春夏秋冬君ってこの人のことが好きなの!」

「私、春夏秋冬君の事好きなのに、ショック!」

「春夏秋冬くぅん!」




と、野次馬が騒ぎ出す。


 それを聞いた相葉はきょとんとした顔をした後、次の瞬間には笑顔で女性達に、違う違う。と弁解し始めた。




「俺は皆のことが好きだからな!そんな心配しなくても大丈夫、大丈夫!」




 そう彼は笑顔で答えていた。


 俳優じゃなくて、アイドルの方が稼げるのでは?と思ったが、あの一瞬で夏目への殺意を消し笑顔を貼り付けられるところを見るとさすがは俳優だと思った。

 一般人にはまねできない所行である……ただ、一人感情を殺して私の仕事を手伝ってくれる編集者はいるけれど。




「それに、彼女は俺が敬愛する人気作家の連城冬華先生!俺のちょー好きなラノベ作家」




 相葉はそう言うと、私を指さしてきた。 

 野次馬達の視線は一気に私に集まる。




(え、何この状況。どうすればいいの?)




 私は内心かなり焦っていた。まさか、こんな展開になるとは思っていなかったのだ。

 しかし、ここで何も言わなければ変な噂が立つかもしれない。それはそれで面倒だった。

 なので、仕方なく口を開く。




「あはは……よく、相葉さんにレビューやらなんやらで取り上げて貰ってる、恋愛作家の連城冬華です」




 私は愛想笑いを浮かべ、自己紹介をした。

 人前で作家として自己紹介したこと無かったためかなり緊張したし、今すぐ逃げ出したい気持ちで一杯だった。




(これって、なんかの罰ゲーム?)




 すると、相葉の表情がぱぁっと明るくなる。そんな彼の様子に周りの人達からは歓声が上がった。




「もしかして、連城先生ってあの『暴君な彼を落とす方法』の著者ですか!?私、あの本めっちゃ好きで」

「今人気の乙女ゲーム『召喚聖女ラブラブ物語』のシナリオも担当してましたよね!」

「私は、続編の『それでも暴君を愛しますか?』が好きで。皇太子のエスタスとか、勿論騎士のイェシェインも格好良くて!」




と、女性達は目を輝かせながら私に話しかけてきた。


 その勢いに押され、私は一歩後ずさった。

 自分が書いた本を褒められるのも面白かったと感想を貰えるのも嬉しいのだが、今日はそのモデルになった……というか、本人がいるのだ、目の前に。


 エスタスが格好いいとか、イヴェールが可愛くて可哀相とか……それはもう、本人に言っているようなものなのだ。


 私は怖くなり夏目を見たが、彼は早く終わらないかといった感じで興味なさそうに明後日の方向を見ていた。



 こんなことになるとは思いもよらず、今更ながらに何で自分をモデルに……前世の出来事を(私は覚えていないが)そのまま書いてしまったのかと後悔している。


 私は、夏目にごめんと思いつつも質問攻めしてくる女の子達に対応し続けた。

 それから暫く経ってやっと解放された私は疲れ切った顔で夏目を見た。




「随分と人気だな」

「……私も吃驚……こんなに多くの人に読んでもらっていたんだなって……ああ、でもきっとこれは相葉君のレビューのおかげかな……」




 私がそう言うと、夏目は気にくわないなあと言ったように口をムッと上に上げた。そして、私の手を掴む。夏目の体温は少し熱かった。

 そして、夏目はそのまま人混みをかき分けこの場を去ろうと手を引いて歩き出したが、それを相葉に制された。




「もう少し話しましょうよ。冬華先生」

「……えっと、私忙しいから」

「俺とのデートでな」




と、夏目は付け足すように言う。 


 それを聞いた相葉は、夏目を睨むようにして見つめていた。

 夏目は私の手を離さないし、相葉は私達の行く手を阻みそこを退く気はないと言った様子。


 野次馬はさらに増えており、このままでは収拾がつかなくなると思った私は二人の間に入った。


 しかし、二人は私を押し退けて言い合いを始めてしまった。

 私は、二人の会話を聞き流しながらどうすればこの状況を打破できるかを必死で考えていた。




(ほんと勘弁してよ……いつもいつも……)




 私がそう思っていたとき、相葉のマネージャーと思しき人が彼を呼びに走ってきた。

 どうやら撮影が始まるため準備をして欲しいとのこと。




「ええ~俺まだ冬華先生と話してたかったのに。先生がシナリオ担当した乙女ゲームについても話したいこといーっぱいあるのに」




と、相葉は駄々をこねる。


 しかし、撮影が押すからとマネージャーとスタッフさんに言われ渋々とその場を離れた。

 その別れ際、相葉は私の手を取って、耳元で囁いた。



 ―――また、お会いしましょうね?先生、今度はもっとゆっくり……


 私は背筋に冷たいものが走った気がした。

 そんな私の様子に気づいたのか、夏目が不機嫌そうな顔をして私と相葉の間に入ってきた。相葉はそれをひらりとかわし、じゃあまた。とひらひらと手を振って走って行ってしまった。




(今度も何もないわよ。あの男―――――ッ!)




 彼は俳優で、年下で……年下に口説かれたことになるのだが、もうこれ以上芸能人と絡むのはごめんだと思った。


 変に注目されるし……


 野次馬達は、撮影が始まるからと相葉の邪魔にならないようにそろそろと集まっていき、私達の周りには誰一人いなくなった。




「……はあ、もう疲れたわ。帰りましょう……夏目?」

「……」




 夏目は、無言のまま私の手を引いたまま歩き出した。

 これは完全に拗ねているなと思い、私は彼の手を握り返す。




「運が悪いの、私……本当は、貴方とので、デート凄く楽しみにしてたのに……」




 そう私は口が裂けても言いたくなかった言葉を口にする。

 勿論その言葉に嘘偽りはない。ただ恥ずかしくて言えなかっただけである。

 夏目は驚いた表情をし、私の手を離した。




「何よ」

「……これは、夢か?」

「はあ?」



 夏目はそういうと、口元を手で覆い激しく揺れるレッドベリルの瞳をこちらに向けた。

 耳が赤くなっているところを見ると、照れているらしい。


 だが、私は何一つ変なことは言っていないし、何で夢か?なんて言われなきゃならないのか。




「お前がそんなことを言うなんて……」

「私を何だと思ってるのよ!」

「血も涙もない女」

「もっかい、言ってみなさい!この俺様御曹司ッ!」




 私は怒りにまかせて夏目の胸倉を掴んでしまう。




(しまった……―――――)




 私はそこで頭が冷え、至近距離まで来ていた夏目の顔を見た。彼は、余裕と言った表情で私を見つめている。

 そんな夏目を見て私は恥ずかしくなり手を離そうとしたが、それを彼に制された。




「何……」

「この距離ならお前が手を離すより、俺がお前にキスする方が早いと思ってな。試してみるか?」

「……」




 私は顔を真っ赤に染め、口をパクパクさせながら、何かを言おうとしたが、何を言えばいいのかわからず一旦口を閉じた。

 夏目は私をじっと見つめたまま、動かない。


 私に拒否権がないのは明白だった。




「あんな奴じゃなくて、俺だけを見ろ」




と、夏目は私の唇に自分の唇を重ねてきた。


 最初は触れるだけの軽いものだったが、次第にそれは深くなっていく。

 夏目は角度を変え何度も私に口づけをした。

 そして、私が抵抗しないのを確認すると、夏目は私の首筋に舌を這わせ始めた。

 私は思わず身を捩り、彼の胸板を押す。




「ちょっと!ここ、外よ!」

「関係無いだろ」

「関係あるのよ!」




 私は全力で夏目を引きはがすと、肩で息をし夏目を睨み付けた。


 夏目は、流されてくれると思ったのに……見たいなことを呟いていたため、私はゾッとした。

 決して嫌なわけではない。確かに夏目のキスは強引で心も体も全て持っていかれそうになるけど、さすがに外ではまだ恥ずかしすぎるしハードルが高すぎる。




「じゃあ、何処ならいいんだ?」

「……家に帰るまで我慢しなさい」




 私はそう言うと、夏目は納得したのか大人しく引き下がった。


 それを確認し私は夏目に追いつかれないように早足で歩き出す。こうして、私達の水族館デートは成功したようで失敗したのであった。





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