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1 そんなことも出来るのね




「冬華、準備出来たか?」

「うーん、もうちょっと……」




 翌朝、私はどうしても髪型が決まらなくて化粧台の前に立ってはあれこれ模索していた。


 腰まで伸びた髪をどうアレンジすれば良いのか……ただ、私の髪は痛んでおりかなり枝毛も目立つ。もうこの際、ショートカットにしてしまおうかと、方に垂れている髪を見て思った。


 服も、化粧もいつもより気合い入れたし、自信はある。なのに、どうしても髪型が決まらない。

 きっと、夏目なら何でもかんでも可愛い可愛い言ってくれるだろうが、彼の隣に立って歩いても恥ずかしくない自分でいたいという気持ちが勝ってしまい、いつもならどうでもいい髪型を弄っているのだ。


 そのせいで、夏目を待たせている。早く、行かないと……と焦りつつもなかなか髪型が決まらず、今度こういう機会があるならショートにしようかと思ったその時、コンコンとノック音が聞こえた。




「冬華」

「うわッ……!何で入ってくるのよ、夏目!」




 だって、お前が遅いから。と文句を言いつつ私の格好を上から下へと見た。




「何よ。似合ってないって言いたいの?」

「まさか……何でお前はそんなに自分の事を卑下するんだ。似合ってるぞ」

「お世辞はいいから」




 背伸びして着た淡い紺色のサロペットスカートに、白のブラウス。前見た春音さんの赤いふんわりとしたスカート、シルエットを参考にしている。


 夏目と出会う前は服装なんて、どうでもいいと思っていたのに。夏目と出会って、春音さんとであって……自分の容姿を気にするようになった。

 自分磨きを密かに続けたため、少しはマシになっただろうかと鏡を見る。


 でも、矢っ張り自信はない。


 ちらりと夏目を見ると、彼はいつも以上に輝いて見え、服装だって……シンプルで動きやすそう。安さが売りの洋服店の広告に載っているような服なのに、私なんかより全然大人っぽくて、何だか悔しい。いや、きっと彼のことだからブランド品なんだと思うけど、それすら庶民の私には分からない。 


 ただ、言えることは格好良くて眩しいと言うだけ。


 その金髪もいつも以上に輝いて見える。寝癖1つ、枝毛1つ見えない。




「はあ……俺が可愛いと言っているんだから、可愛いんだ。お前が卑下しようか関係無い。その評価は間違っている」




と、夏目は自分の意見を述べて首を振った。


 嬉しいような、むかつくような……良い方は相変わらず俺様で鼻につくが褒めてくれているんだろうと私は割り切りため息をついた。


 その様子が気にくわなかったのか、夏目は何だ。と怒ったような表情で私に聞いてきた。




「別に」

「髪型が決まらないんだろ。俺がやってやろう」

「は?貴方出来るの?」

「俺を何だと思ってるんだ」




 失礼な奴だと言わんばかりに眉間にシワを寄せながら、彼は私の後ろに回った。

 本当に出来るのかと半信半疑で椅子に座った私だったが、夏目は意外にも優しく髪を触り始めた。




「あっ、ツインテールはやめてね。さすがにこの年で……」

「そもそも似合わないだろ」

「……」




 やって貰う立場であったが、さすがにツインテールだけは似合わないからやめて欲しいと頼んだら、夏目はきっぱり似合わないといい髪をクシでとかし始めた。

 さすがに、即答は傷つくと思いつつむすくれていると、あっという間に綺麗に編み込みされ、サイドの髪も可愛らしくアレンジされていた。




「どうだ?」

「す、すごい……」




 鏡を覗き込むといつもとは違った自分が映っており、驚きの声をあげた。


 そして、私は無意識に夏目の手を握りしめていた。

 今まで、こんな風に髪型を整えてくれた人などいなかったし、ましてや男の人に。

 夏目にこんな才能があったなんて……と、感心したがそれと同時に今まで女性の髪に触ったことでもあるのだろうかと、慣れた手つきで私の髪を結った夏目に疑いの目を向ける。




「昔付合ってた女の人にもこうやってやってたの?」

「嫉妬か?」

「私は、付合っていたかと髪の毛を結ったのかと聞いているの」

「そんなわけないだろ。俺はお前しか好きじゃなかったんだから」




 そう言い切った夏目の言葉に嘘はないと思う。

 落ち着いて考えればそうなんだが、それでも疑ってしまう。だって、夏目はモテるから。




 そんなことを考えてると、それまで後ろで黙っていた夏目がいきなり笑い出したのだ。




「ハハハッ」

「何よ、いきなり笑い出して」

「いや、お前も嫉妬するのかと思って」

「……嫉妬じゃないわよ」

「いや、嫉妬だろ。嬉しいな……それだけ、冬華も俺の事を」

「分かった、分かったから。行きましょう!待たせた私が言うのも何だけど、水族館早く行きたいの」

「フッ……そういうことにしておこう」




 これ以上話しても無駄だと思い、私は立ち上がり夏目を急かした。

 すると、彼は満足そうに微笑み私に手を差し伸べてきた。




「似合ってるぞ。冬華」

「貴方もね」




 そう言って、私は彼の手を取った。




(そうよ、今日は水族館を楽しむって決めたんだから!) 




 今日は待ちに待った水族館デート。夏目にはバレないようにしていたけど、私はずっとこの日が来るのを楽しみにしていた。


 数ヶ月前に色々あっていけなかったデートだから。


 夏目が思っている以上に、私は夏目とデートしたかった。恥ずかしいから言葉にもしないし、表情にも行動にも出さなかったけど。


 それに、バレたら色々と面倒だし、絶対に夏目は調子に乗るだろうから。

 まあ、少しぐらい……乗らせてあげても良い気がするのだけど……




 私はそう思いながら夏目の手を握り返し、家を出るのであった。





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