表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第八話 クラスメイト達と

「では、今日はこれまでとする。明日は午前は休み、午後から個人面談面接となるので、間違えて来ないように。その面談で学科の移動も出来るから、思うところがある者は今晩よく考えるように」


 そう言ってアイラ先生は教室から出て行った。


「じゃあ帰るか」


 そう呟き、席を立つ。


「待って。この後ちょっとお話したいんだけど」


 ティアナがそう言って俺を引き留める。


 まあ、この後別に用事が有る訳でもない、何か軽く飲みながら話すか。そう言えばミサキちゃんも後でって言ってたな、誘うか。


「ああ、良いよ。じゃあ、どっかのお店でお茶でもしながら話そうか。あ、ミサキちゃんも良いよね」


 俺がそう言うと、ティアナはミサキの方を見て、


「彼女の話も聞きたかったし、ま、良いか」とつぶやいて頷いた。


「じゃあ行こうか。ミサキちゃんも来るよね」


 こちらの様子を伺っていたミサキは、


「行く」と、頷いて立ち上がった。


「どこかいい店知ってる?俺学園地区に来るの初めてだからこの辺よくわからないんだ」


「私はここ育ちだからある程度知ってるわよ。そうね、最近できたオシャレなカフェに行ってみようかな。美味しいスイーツとお茶が楽しめるって評判になってるところ」


 そんなことを話しながらティアナと並んで歩く。ミサキは後ろをついてきていた。


「ファルモア君」


 教室を出ようとしたところで、誰かによび止められた。


 そちらを振り向いてみると、チカがこちらにとことこ走ってきた。


「あ、あの、さっきはありがとう。私、その、何もできなかったから...助けてもらって...」


 ドギマギしている様子がよくわかる。何か可愛い。


 あ、可愛いと言っても小動物のようで可愛いといった意味だ。あ、でも顔も可愛くないわけじゃないよ。好みの問題だから。ホントだから。


「それで...何かお礼を...」


 そんな感じのチカの言葉を待っていると、


「邪魔だ、どけよ!」と、悪態連中が話しかけてきた。


 ...まあ、確かに教室の入り口で止まっていたら邪魔だよな。


「おう、すまん」


 そう言って道を譲る。


「チッ」


 舌打ちしながら通り過ぎて行ったぞ。俺、何かした?


「何あれ、感じわるーい」

 

 通りずぎていった連中の背中に、ティアナが抗議の声を上げる。ミサキもコクコク頷いている。


「まあ、確かに此処にたむろっていると邪魔になるのは事実だから、さっき言ってたお店に行こう。チカちゃんもね」


 そう言ってチカを見る。


 首をかしげて、何の話?って顔をしていたが、俺たちが歩みを進めると後ろから付いてきた。


 廊下を抜け、正面玄関から正門広場に出ると、兵士・傭兵学科の生徒たちであろうか、精魂尽き果てた表情で至る所に転がっている。


 あ、ミュラーさんのしごきに耐えられなかったんだな。お疲れさん。


 心の中でそう思っていると、となりにいたティアナが、近くに転がっていた生徒の一人を突っつきだした。


「大丈夫~?」


 言葉ではそう言っているが、表情が言葉と合っていない。絶対面白がっている。


 突っつかれている生徒は、「や、やめ...」なんて言って、一応抵抗しようとしているが、思うように体に力が入らないようだ。


「こら、疲れてるんだから止めたげな」


 そう言って制止する。


「はーい」


 名残惜しそうにこちらに来る。


「兵士・衛兵学科って大変なのね」


「そうだな、でも羨ましい」


「何で?」


「将来は衛兵希望だから」


「じゃあ、何でアイラ研に?」


 ん?アイラ研?


「何?アイラ研って」


「二、三年前位からかな?アイラ先生が魔術研究・開発学科の責任者になってから、この学科の私物化が酷くなったって噂で。それで今ではアイラ先生の魔術研究・開発クラス。略してアイラ研って巷で呼ばれるようになったみたいだよ。学園地区ではみんな知ってる話」


「へーそうなんだ、みんな知ってた?」


 ほかの二人にも振ってみる。フルフルと首を横に振っている。


 良かった、俺だけ知らないのかと思った。


「で、何でアイラ研を希望したの?」


「ああ、それは色々あってさ。たらい回しにされて、行き着いた先があそこって感じ」


 顔に?の表情が浮かんでいる。


「まあ、俺の希望じゃないけど、将来衛兵になるにはここに来るしかなかったってとこ」


 そんな話をしながら正門に来ると、何人かの生徒が楽しそうに喋っていた。


 お、あれは悪態連中じゃないか。それと、ブルーと...執事っぽい服装の人ががいるな。


 そちらの方を見ていると、ブルーがこちらに気づき、


「よう、大将たちじゃないかー」と手を振って近づいてきた。


 大将って誰だ?ん、俺を見ながら言っている...ってことは、俺のことか?


「よう、大将。可愛い子連れてどこ行くんだ?」


 ブルーは馴れ馴れしく俺の肩に手を回し、ティアナ達を見ながらそう尋ねてきた。


「大将って何だよブルー」


 そう言って肩に回っている手を退ける。


「いや、お前の魔術が凄かったからさ。俺の中では将来の大将軍って感じでビビッと来たんだ。だから、大将軍、略して大将だ」


 ほう、中々どうして見る目があるじゃないか。


「じゃあ、こっちの女性陣はどう見えた?」


「そうだなぁ」


 すこし考える素振りをして、三人を評価する。


「ティアナは天上天下唯我独尊って感じだったけど、公開採点中に何か感じが変わったな。将来は遊撃隊隊長って感じ?」


「はぁ?何それ?」


「ミサキは御上りさんだな。気持ちが浮ついてて詰めが甘かった感じだ。将来は筆頭宮廷魔導士って感じ」


「御上りさんって、失礼な」


「チカは...そうだな...」


 何を言われるんだろう。って顔で、チカはブルーを見つめる。


「マジ天使だ、こんな子は今まで会ったことがない。将来は俺の嫁になってくれ」


 何かとんでもない事を言い出した。


 チカは顔を真っ赤にして、


「な、なななな、何を言い出すんですかー」とティアナとミサキの後ろに隠れる。


 ブルーは、「あはははー」と頭を掻いて苦笑いを浮かべている。


「お三人さんはブルーをどう思う?」


 一応聞いてみた。


「軽薄~ないわ~」

「唯のバカですね」

「皆に同じこと言ってそうです」


 あらら、三人からは酷い評価だね。


 その評価を聞いても、まだ、「あはははー」を続けている。


「じゃあ、俺たちは行くから」


 先を急ごうとすると、


「え、俺も行くよ。良いよな、な、な、な」と確認してくる。


 俺は悪態連中の方を見て、


「でも、友達が待っているんじゃないのか?」と尋ねる。


「ああ、大丈夫だ。あいつ等は」


 と言って、悪態連中に向けて


「じゃあまたな」と手を振った。


 ...何か滅茶苦茶睨まれてるんですけど、俺が。本当に大丈夫なのか?


「じゃあ行こう」


 と、ブルーが俺たちの背中を押して進もうとする。


 すると、執事風の人がいつ間にか近くにいて、


「坊ちゃま、この後の予定が」と、声をかけてきた。


「セバス、坊ちゃんはやめてくれって言ってるだろ。それに、俺の予定じゃなくて親父の予定だ。今日、この時を逃したら俺は一生後悔すると思った。だから良いだろ」


 セバスと言われた人は、ほんの少しの間逡巡すると、


「わかりました、旦那様には私から伝えておきます」と下がっていった。


「じゃあ、今度こそ行こうか。それで、どこ行くの?」


 俺たちの背中を押しながら聞いてくるのであった。




 学園地区のメインストリートを五人で歩いて目的地に向かう。


 同世代と町を闊歩するが初めてな俺は、一人で気分が上がっていた。


「なあ大将、ちょっと。」


 ブルーがそう言って俺を引っ張る。


「何だ」


 女子三人の後ろに回って俺の肩に手を回し、


「で、誰狙いなんだ、好みは?」と小声で聞いてきた。


「あ~、これが青春か~」


 うん、こういうの何か良いよね。


 俺はしみじみ噛みしめる。


「で、どうなんだ」


 ブルーは更に追及してくる。


「ちょっと、何してるの。置いてくわよ」


 ティアナがこちらを振り向いて声をかけてきた。


「あー、男同士の話をちょっとね」


「何よそれ、早くしなさいよ」


 ティアナさん、ブルーにちょっと冷たいですよ。


「店は『カフェリユン』だろ。場所はわかるから先行ってても大丈夫だよ」


 ティアナに手を振りながらブルーはそう言う。


「まったく」


 女子三人はキャッキャウフフと笑いながら先に行ってしまった。


「で、大将。そろそろ聞かせろよ」


 ブルーがしつこい。


「そうだなー、あの三人も可愛いしとても魅力的だけど、今日学園であった中ではサキ先輩が一番好みだったな」


 素直に告白する。


「サキ先輩?うーん...あ、密偵のサキさんか。お前凄いところに目を付けたな。いや、さすが大将と言っておこう」


 そう言って、ブルーはうんうん頷いている。


「何がだ。顔の好みの話だろ?」


「いや、俺は誰狙いか聞いたんだ。それがサキさん狙いとは...」


 あーあれか、惚れた腫れたの類の話か。


「いや、俺はそういうのは...よくわからん。それより、そういうお前はどうなんだ?」


 ブルーに聞き返す。


「よくわからんって、俺たちもう成人だぞ。結婚して所帯を持っている奴らもいるというのに」


 何だか残念やつを見る目でこちらを見ている。


「俺のことはもう良いだろ、それより早く答えろよ...あ、あれか。さっきの感じだとチカちゃん狙いか?」


 冷やかし半分でそう聞いた。


「ああ、そうだ。今日見て一目でビビッと来たぜ」


 堂々とそう言い放った。


 おお、男らしい。


 その態度に敬意を表して、チカちゃんとのロマンスは自重しよう。そうしよう。


「でもなぁ~、サキさんか~、そうか~」


 二人で並んで歩いているとブルーがブツブツ言っている。


「うるさいぞ、それより店はどこなんだ?」


 この話をあまり引っ張りたくない。


「ああ、あそこの路地を右に入っていって、すぐ左に入る路地を曲がったところだ」


 へー、人気店なのにメインストリートじゃないんだ。


「メインストリートは歴史や格式なんかの色々なしがらみがあって、おいそれと店を構えることが出来ないんだよ」


 俺の考えを読んでか、ブルーはそう言い、続ける。


「今日行くカフェリユンは、本店がギルド地区にあるんだが、花街通りにあってさ。それでオーナーが元娼婦なんだよ」


 なるほど、花街通りは聞いたことがある。色々な水商売の店が軒を連ねる眠らない町だ。


 そこ出身のお店ではメインストリートできないことも、先ほどの説明で納得だ。


「でも、女性ならでは気遣いがあって、内装も料理もオシャレ。花街通りには入りずらい人たちにとっては、学園地区のお店が気兼ねなく通えるところって事さ」


 ブルーの話を聞きながら路地に入る。


 さらに左に入ったところで行列が出来ていた。


 行列の最後尾にはティアナ達が並んでいた。


「ようやく来たね。これどうする?結構並んでて入るまで時間かかるけど」


 確かに二十人弱は並んでいる。


「別のお店にする?」


 ティアナ達はそれでも良さそうだ。並んでいるときに話し合っていたに違いない。


「違うとこでも良いよ」


 俺はそう答えたが、ブルーがそれを止める。


「いや、ちょって待って。カフェリユンにはVIPルームがあるはず。そこなら空いているかもしれない」


 そう言って一人店の中へ入っていった。


「VIPルームって俺たちみたいな庶民が入れるの?」


 みんなに聞いてみる。


「お金を払えば入れるって部屋じゃないと思う。それこそVIPの人だけだと」


「商会のお偉いさんとか、ギルドの幹部とか、外国の大使とか、それなりの肩書がある人じゃないと入れないと思う」


 チカとティアナは口をそろえてそう言う。


 そんな話をしていると、ブルーが店から出てきた。


「やっぱり空いてたよ。じゃあ行こうか」


 そう言って俺たちを案内しようとする。


「大丈夫なのかよ」


「そうよ、私たちお金もそんなに持ってないし」


 その言葉に皆頷いている。


「大丈夫、俺って結構町に顔が利くから」


 ブルーはそう言って俺たちの背中を押す。


 そんなブルーに案内されて、裏手にあるVIPルーム専用の入り口から店に入るのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ