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第四話 共通試験

 中庭ではすでに式典が始まっていた。まあ、始まっていたと言っても、上級生による各学科の成果発表というか、アピールみたいなものだ。


 俺はサキ先輩にお礼を言って新入生が座る席に移動する。


 ぱっと見、俺より目立つ格好のやつはいないな。この次の実力試験はどんな内容かわからないけど、そこで目立ってやる。


 そんな事を考えながら上級生たちを見る。今は冒険者学科が何やらやっている。


「そして我々は実地研修でバモーより北を目指し、遂にはその先、未踏破の山脈麓までたどり着いたのだ!」


 ほうほう、結構本格的に冒険するんだね。まあ、引率の先生もいるだろうから、探索ルートは既知のルートだろうけど。それでも東方の冒険者の最前線まで行くのはすごいな。


 上級生冒険者集団の語りはさらにヒートアップして新入生を魅了している。時たま歓声が聞こえるくらいだ。


 そんな感じで式典は進行していく。


 おおよその新入生が席に着席したのを見計らってか、上級生の催しは終了し、何やら学園長挨拶、

来賓祝辞と続いていくようだ。


 学園長の話の中で印象にあった事は、ここの魔術士ギルドがこの大陸の総本部であること。そして、ここより東側の森を抜けていくと大きな川があり、今後第三の衛星都市を築く計画が、魔術士ギルドにあるという事だった。


 これには各国の来賓も驚いていた。


 そして、来賓の中でも西の大国デルヴェ王国の王太子が、西方諸国の有志でここと同じような学園を作る計画があると発言したことだ。


 これには学園職員並びにギルド職員が驚いていたが、ギルドの偉そうな人たちはしかめっ面をしているだけだった。


 まあ、そんなサプライズ発表もありながら、中庭での式典は滞りなく終了したのだった。




 「これより実力試験を行う。これは希望学科の適性があるかどうかも図るので各自気合いを入れて臨むように」


 試験官を務めるであろう教師が、大声を張り上げ周知している。女の先生なのに凛々しい。


 試験会場はそのまま中庭のようだ。


「まずは共通試験として各員の身体能力と魔術適性の試験を行う。今座っている縦列で左から身体能力試験、右から魔術適性試験の場所に向かうように。身体能力試験は正門広場、魔術適性試験はここ中にはで行う。各試験が終わったら希望学科の専攻科試験となる。朝正門で配った予定表の裏に各学科の教室の場所が書いてあるのでそこに向かうように。では、指示に従い行動せよ」


 ふむ、俺は左側だな。だからまずは正門広場か。


 中庭から正門広場までは校舎に入り正面玄関を抜けすぐだ。


 今朝は南側非常口付近まで大分迂回したからな~。サキ先輩が言っていたように、アイラ先生は大分自由にやってる様だ。さっき予定表の裏を見てみたけど、アイラ先生の教室は南側非常口に一番近い。


 正門広場に着くと、ミュラーさんが待っていた。どうも身体能力試験の試験官のようだ。

 

「よし来たな。これより身体能力試験を行う」


 ミュラーさんは張り切っているようだ。顔が真剣だ。


「なに、試験といっても簡単だ。まずはここから正門においてある木剣を走って取りに行く。そして木剣を持って北側の壁に沿って行くと打ち込み用の案山子が立ってるから、それに一太刀浴びせる。そしたらここまで走ってくる。そしてこの箱の中に木剣をおいて終了。それだけだ」


 拍子抜けするほど簡単だ。


「戻ってくる時間が早ければ優秀となる。ただし、不正ができないように各ポイントに学園職員がいるから、彼らに名前を申告するように。わかったか」


 全員うなずいて「はい」と返事をする。


「では十人ずつ組になるように」


 そう指示されたので、近くにいた鎧装備の人たちと組んだ。


「では始め」


 ミュラーさんの号令で一組目が走っていく。一組目が戻ってくる前に次が出発する様だ。 


 そして四組目が出発してすぐに一組目が戻ってきた。


「よし、ここに木剣を置いていけ。置いたらすぐに魔術適性試験に向かうように」


 冒険者などの肉体鍛錬系志望の人たちはすぐに次に向かって言ったが、魔術系の人たちは息も絶え絶えで座り込んでいる人もいる。


「ほら、すぐに向かうよに」


 ミュラーさんが容赦なく追い立てている。ちょっと可哀そうだ。


「では次」


 おっと、俺たちの組の番だ。


「始め」


 号令とともに走り出す。


 まずは正門だ。


 距離はそんなに無いし、身体能力試験なので身体強化魔法は使わないでいく。


 朝の走り込みより少し早いくらいで走り出したが、それでも他のメンバーをおいて行くことに成功した。


 いや、計らずもだよ偶然。たまたま足の遅い人達と組みになっただけだから。


 正門に着いて職員に自分の名前を申告して木剣を木箱から取る。


 おや、ただの木剣じゃない。芯に鋼でも入っている重さだ。素振りに良さそう。


 そんな事を思いながら北塀沿いを走っていくと案山子が見えてきた。いっちょ前に鎧を装備している。


「ファルモアです」


 職員に名前を申告する。


「では案山子を切りつけるように」


 そう指示されたので、


「どう切ればいいですか?」と聞いてみる。


「好きなように」


 そう言われたので少し思案し、鑑定魔法を発動させた。


 鎧の脆い箇所、弱点を鑑定し、その部分を複数切りつける。


 すると、ガシャガシャ音をたてて案山子が崩れた。


「こんなもんか」


 驚いた顔をしている職員をしり目にミュラーさんが待つゴールへ向けて走っていった。




 次は魔術適性試験だ。


 早々に中庭に着いた俺は、試験の様子を観察する。


 どうもランダムに引いた紙に書いてある魔術の呪文を詠唱し発動するか見ているようだった。


「火か雷系なら得意なんだけど」


 そう呟いて列に並ぶ。


 前に並んでる人は、まださっきの身体能力試験が尾を引いているのか、肩で息をして辛そうだ。


 俺は結構余裕があるので、どんな魔術の種類が試験に出るのか観察してみる。


 魔術が発動しない人もいるが、発動している魔術を見てみると、火、水、土、風の魔術が手の上に少し発現する程度の魔術のようだった。


 でもよく見ると、魔術系志望だと思われるローブ姿の人でも魔術が発現しない人もいる。


 結構難しい課題も入っているのかもしれない。


 そうこうしていると、前の人が無事手の上に土塊を発現させていた。


「おめでとう」


 ついそう言ってしまった。


「あ、ありがとう。君も頑張って」


 そう言って立ち去った彼はまだぜーはー言っていた。


「ではこの箱の中から一枚紙を引くように」


 職員からそう指示を受けて箱に手を突っ込む。


 一枚紙を引いて職員に渡す。


「あー、これは災難だね。魔術が発現しなくても大丈夫だから心配しないで」


 そう言いながら紙に書いてある課題と呪文をみせてくる。


「治癒魔術」

 

 そう書かれていた。


「治癒魔術は高等魔術だから気を落とさずチャレンジして」


 職員の男性がやさしくフォローしてくれる。


 治癒魔術ってなんだよ。あの不良教師も行使できないって言ってじゃないか。今まで治癒魔術を使える人は母さんしか会ったことがないっての。


 でも、せっかくだし、さっき切った左前腕が治癒出来たら儲けもんだから試してみるか。


「あのすいません」


「なにかね」


「さっきケガしたところがあるので、そこにこの治癒魔術を試していいですか?」


 一応良いか確認する。


「ん、ああ、いいとも」


 許可がもらえたので、鎧を外して左腕を出す。アイラ先生に巻いてもらったハンカチを取ってみると、血は止まっているが、痛々しい傷が現れた。


「結構ひどい傷だね、大丈夫かい?」


 職員さんに心配された。


「はい、大丈夫です。ではやってみますね」


 そう言って呪文を確認し唱える。


「治癒を司る精霊よ。過去にはあり今は失したこの短所を、時を戻すかごとく蘇らせたまえ。そしてその大いなる力で、大いなる慈悲で癒したまえ」


 随分大仰な呪文だが、一応唱えた。


 すると先ほどまであった切り傷がスーッと消えたのだった。


「「!!?」」


 職員さんが驚いている。因みに俺も。


「まさか治癒魔術が発現したのか。これはすごいぞ」


 今度は興奮しだした。


「いやー、たまたまうまくいったみたいです」


 そう言って頭をかく。


「君の歳でこれは偉業だ。ぜひ魔術士になっていただきたい」


「はあ、ありがとうございます?」


 一応俺はこの町の衛兵志望だ。


「では専攻科試験にいくように」


 職員の指示に従って、俺は中にはを出るのであった。




 『魔術研究・開発学科』


 そう書かれている教室の前まで来た。この中に学園卒業まで一緒のクラスになる人たちが集まっているのだ。


 ...たぶん。


 いや、いるはず。


 まさか俺一人って事はないだろう。


 でも、教室の前だというのに、中からは物音ひとつ聞こえない。


 あの不良教師は大分変わり者だから、みんなこの科に見切りをつけたか...


 そんなことはないはず。サキ先輩も最初は人気が高く人が集まる学科だと言っていた。


 意を決して扉を開く。


 すると普通に人はいた。しかも結構みんな雑談している。


 廊下には物音ひとつ漏れ出てなかったのに、どういう事だ?まあいいか。


 一番後ろの空いている席に座る。別に他意はない。


 いや、たまたま両隣と前の席の子がめちゃくちゃ可愛いだけで、ほんと他意はないから。


 他にも空いてる席は有るけど、この席が一番最初に目に入っただけだから。ほんとだから。


 心の中で誰かに言い訳していると、アイラ先生が入室してきた。この学科志望の生徒は全員集まっているようだ。


「このクラスを受け持つアイラだ。このクラスと上級生のクラス、ふたクラスを受け持っている。他に臨時講師の先生もいるので後日紹介する。では、この学科について説明する。魔術研究・開発学科は基本的に卒業するまでの期間が長い。なぜかというとモノになるまで私が卒業させないからだ。それと、一年は魔術の基礎をこのクラスでみっちり学んでもらうが、来年上級に上がれば一クラスしかない。基礎は一年、研究・開発は何年でもだ。だから来年は今の上級生と一緒になって研究・開発を行ってもらう」


 卒業がアイラ先生の胸三寸だということはわかりましたよ。


「そのため、途中で脱落するものも少なからずいる。今から覚悟しておくように」


 なぜ俺を見て言うかな。


「では今から専攻科試験を行う。学科試験で内容は魔術についての問題を解いてもらう。この試験の結果を受けて魔術基礎をどこからやってものになるか計らせてもらう。ちょっと魔術をかじっている者もいるようだが、私を落胆させないように」


 なんてこと言うんだ、この不良教師は。


 本気で解いてぎゃふんと言わせてやる。母さん直伝の魔法魔術理論をなめるなよ!


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