第二十三話 魔術士ギルド本部初潜入!
魔術士ギルドを少し紹介すると、設立が今から三十八年前。同年西方の国ヴァダパートに支部を構えてから、徐々に浸透して行き、今では大陸全土にギルド支部を置いている。
主要な業務内容は、魔術の研究開発、魔術士の育成、魔術スクロールの製造販売、魔術士の斡旋や派遣等である。
その他、各支部、各地域で独自の業務を行っている。
例えば、西方の殆どの地域では、精霊信仰の宗教的側面があり、祈祷や治療なんかを行っている。
ここノーティスの本部では、宗教的な側面は殆ど無いが、林業や製紙業、学園の運営なんかが特徴だ。
俺たちはブルーと合流するために魔術士ギルドに来た。
「おーいこっちだ」
ブルーがこちらに手を振りながら呼んでいる。
そちらに近づいていくと、ブルーの傍に一人の魔術士が立っていた。
「すまん、待たせたか?」
「いやそうでもないよ、俺もさっき着いたばかりだ。お、チカちゃんカッコいい鎧だな~」
ブルーはチカに近づいていく。
お互い今日買った装備を見せ合う様だ。
「ちょっと、そんなの後にしてよ」
ティアナが文句を言う。
「あ~すまん、じゃあギルドに入るか。あ、そうだ」
ブルーはそう言って、先ほどの魔術士を紹介してくれるようだ。
「紹介しよう、今日ギルド内で案内なんかをやってくれるサイラスさんだ。サイラスさんは優秀な魔術士で、親父の秘書みたいな仕事をしている人だ」
俺たちは各々軽く挨拶をする。
「始めまして皆さん、魔術士のサイラスです。今日はギルドで魔術の勉強をすると伺いました。私も魔術士の端くれですので、皆さんの勉強の助けをできればと思います。どうぞよろしく」
サイラスさんはそう言って、優雅にお辞儀をした。
「じゃあここにいても何だから、早速行こうか」
ブルーの号令でぞろぞろギルド内へ入る。
そう言えば俺、魔術士ギルドの本部建物に入るの初めてだ。ちょっとドキドキわくわく。
ギルド本部の建物は、外から見ても相当大きかったが、中も結構広かった。
まず入口を入ると、めちゃくちゃ広い吹き抜けのエントランスがあり、そこに多くの人がいた。正面には上階へ上がる大きな階段があって、左右の壁には各業務の受付窓口があり、かなり忙しくしている。
ブルーは、勝手知ったる我が家と言わんばかりに、目的の場所へスタスタと歩いていく。
俺たちは、お上りさんよろしく、キョロキョロよそ見をしながらそれに付いて歩いた。
「ここはギルド本部ですからね、扱う業務も量も多いです。大体いつもこんな感じですよ」
サイラスさんがそう言って説明してくれる。
「そう言えば、今日はどうしてギルドで勉強を?学園にも魔術関連の図書室は有るはずですが」
サイラスさんが聞いてくる。
魔法とか魔力関連の本や資料を漁りに来ましたとは言えないもんな~。
「えーっと、ブルーからは何と?」
一応確認しておかないとな。
「坊ちゃんからは、ギルドには最新の魔術関係の資料があるだろうと。なんでも、いきなり研究開発をすることになったから、そういった開発関連で学園にない資料が見たいとおっしゃってました」
なるほど、上手い事言うもんだ。
「ええ、概ねそんな感じです。捕捉がある...と言いますか、裏の思惑もありまして」
「ほう、それは?差し支えなければ」
「はい、担任の鼻を明かしてやりたいんです。ちょっと変わった先生で、灰汁が強いと言いますか、独特でして」
アイラ先生に悪者になってもらった。先生ごめん、この借りは実績上げて返すから。
心の中でアイラ先生に謝る。
「担任の先生は...」
「アイラ先生です」
「ああ、それは何というか...何となく想像つきますね」
サイラスさんはそう言って、同情の目を向けてくる。
先生、本当にごめんなさい。
そんな事を話しながら目的の資料室?へ向かった。
目的の資料室は地下に有った...いや、半地下か?
正面の入り口から入って建物内をしばらく進んだ所に、記録保管庫というプレートがさがっている部屋があり、その中に入るとすぐ、下り階段があった。
サイラスさんがライトの魔術で明かりをつけてくれる。
人の背丈ほどの階段を下がると、通路になっており、その通路なりに歩いていくと、広い部屋に出た。
その部屋には、六人掛けのテーブルが四つと、左右の壁側に人の背丈ほどの上り階段、正面に下り階段がついていた。
上り階段の上には扉があり、作業室と書かれたプレートがぶら下がっている。
俺たちは一つのテーブルに腰かける。
「今日はここで勉強や調べ物をしてください。左右の階段の上は作業室となっていて、ギルド職員が記録書を作成したり、複製したりしています。正面の階段の下には、今までギルドで記録した資料が保管されています。この中でライトの魔術を使える人はいますか?」
サイラスさんの問いかけに、俺、ティアナ、ミサキが手を上げる。
「ここは明かりがありませんから、ライトの魔術で明かりを確保してください。決して火の魔術などは使用しないように」
俺たちは頷く。
「ライトが使える君たちは、下の保管室に入って自由に閲覧して構いません。あ、作業室には入らないように。坊ちゃんとあなたは、私が魔術を指導しますね。先ずはライトを使えるようにならないといけませんから」
そう言って、ブルーとチカに笑顔を向ける。
「えー、俺も大将達と一緒が良い」
ブルーが駄々をこねる。
「坊ちゃん、この部屋に入る条件は、私の指示に従う事ですよ。それができないなら、退出して頂きます」
サイラスさんは有無を言わせない感じだ。
「ブルー、大人しく言う事を聞きなさい。チカと一緒なんだから、休憩中はお互いの装備の話なんかしたらいいでしょ」
ティアナがそう言ってブルーをたしなめる。
俺とミサキ、チカも頷いて同意した。
「ちぇ、わかったよ。資料探しはまかせる。頼んだよ」
「ああ、任された」
そう言って、俺とティアナとミサキは階段を下る。下りながらティアナがライトの魔術を詠唱して明かりをつけた。
「ちょっと、あなたたちも明かりつけてよね」
「ああ、保管室に入ったらつけるよ。詠唱するのがめんどいから、そこまではよろしく」
ミサキも俺に同意して頷いている。
「仕方ないわね」
ティアナはブツブツ言いながらも同意してくれた。
階段を下がり、数メートル歩くと、金属製の丈夫そうな扉があった。
俺はその扉の取っ手に手をかけて引っ張る。
重そうな印象があったが、意外と扉は軽かった。
「じゃあここからは三人別行動で」
俺がそう言うと、二人は頷き、それぞれバラバラに散る。
俺はライトの魔法で明かりをつけ、二人とは違う方にある書棚を見て回った。
保管室の中も結構広く作られていて、書棚が所狭しと並べられている。
書棚は年代順に並んでいるようで、古い記録はアスールの時代からある。
ざっと流して見てみたが、まだ半分ほどは空の棚だった。
「へぇ、この保管室で約二百年分くらい保管できるんだ」
この建物を設計した人は、そう言ったところまで計算したんだなと思うと、ちょっと感心してしまった。
他の二人の様子を見てみる。
ミサキは古い記録から見ているようだった。ティアナは適当にパラパラ見ている。
俺は新しいところから年代を遡ることにした。
「どれどれ」
目当ての書棚に行き、記録簿の背表紙を見る。
背表紙には『町の記録七十七年春』とか、『ギルドの記録三十八年春』とか、記録した対象と年数、季節が書かれている。
俺が興味を惹かれたものは、『事件事故』と『魔術』と『外交・国際情勢』という三つのものだ。
先ずは『事件事故』から見ていく、中身は、事件事故があった日時と内容が記録されていた。その中で、魔法や魔力が関係していそうな記事を探す。
いちいち細かく読んでいると時間がかかるので、パッパと流し読みしていく。そりゃそんな直ぐある訳ないよな。
特にめぼしい記事も無いので、次に移る。
次は『魔術』と手に取る。
『魔術』の中身は、新しく考案された魔術の術式、呪文、使用用途などが記載されている。
お、これは!という魔術も記載されているが、術式を見ると、絶対成功しないだろうなっていうのもあって、中々カオスな内容だ。成功事例だけ乗せているわけじゃなく、新魔術として申請されたものすべてのせいてる様だ。
成功した魔術だけを記載すると、滅茶苦茶薄い本になるんだろうな。
次は『外交・国際情勢』だ。
この分野は個人的に興味がある。
本を手に取ってみる、それなりに分厚い本だ。
俺は床に座り、パラパラと読み始めた。
半時ほど読みふけっていると、サイラスさんが様子を見に来た。
「どう?参考になるものあったかい?」
俺は顔を上げて答える。
「いや、外交関連の本が面白くて、そればっかり読んでました」
そう言って頭を掻く。
「へぇ、外交に興味があるのかい?」
「いや、俺の場合多分ですけど、卒業したらこの街の衛兵になるんです。やっぱり外の情報を知っておかないと、色々対応が後手に回るかなって思って」
「ん?魔術士になるんじゃないのかい?まあ、格好を見れば納得だけどね。でも、衛兵たちはそんなこと思っているかな?」
「まあ、一衛兵がそんな事を気にしてもしょうがないとは思います。でも、何かあってからでは遅いのも事実。好戦的な西方の国がここから遠いのも、気が緩む原因です。軍隊がギガントウォールを超えてくるのを想定していないといけないと思いますよ」
サイラスさんは顎に手をやり少し考え、
「...確かにその通りだ、西方では何やらありそうだし。私からギルドに釘を刺しておくよ」
そう言ってここから離れて行った。
ふう、さて休憩でもするか。
読んでいた本を棚に戻す。
半時ほどで二年分くらいの外交関係本を読んだ。この記録を読んでいると、真綿で首を絞めるように、西方諸国が圧力をかけているのを感じる。一回一回の外交は何でもないように思うけど、記録をまとめると、要求が強くなっているのがわかる。その事にギルドは気づいていないのかな?
まあ、今気にしてもしょうがない。
俺は気を取り直してミサキの方へ行く。
ミサキは集中して本を読んでいた。
「どうだい調子は?」
そう問いかける。
ミサキは顔を上げてこちらを見ると、また本に向いて、
「アスールが会った精霊は、魔術を行使する際、呪文の詠唱はしなかったそうよ。そして、最初はアスールと同じく流刑になった魔術士だと思ったってある。アスールは結局、『顕現した精霊』と思ったみたいだけど、私は、魔術じゃなく魔法を使える人間だったのではと思う。その方が自然」
おお、昔の記録も結構詳しく残ってるんだな。それに、ミサキの考察も面白い。
今から八十年近く前に、魔法を使える人間がいたことになる。その彼がどんな魔法を使っていたのか、それは我々でも行使できる魔法なのか、興味がある。
「じゃあ、その精霊関係の所を読んでるの?」
「ええ、そうよ。そこに何か今後のヒントがあるかもしれないから」
「じゃあ、ミサキはその精霊関係を後でまとめてくれ。おれはティアナのとこへ行く」
「わかったわ」
ミサキの返事を聞いて、ティアナの所へ向かう。
「どうだい調子は?」
俺はティアナへ声をかける。
ティアナはギルドが設立された辺りの年代を見ていた。
「これと言って特に何もないわ。ただ、魔術士隊が戦争で活躍している記録は、読んでいてスカッとして面白いわよ」
ティアナはそう言って、その記録が書かれている本を俺に渡してくる。
「そうなんだ。じゃあ、休憩がてらブルーの所に行って読んでみるよ」
そう言って本を受け取る。
「そっちはどうなの?」
ティアナが聞いてくる。
「いや、こっちも特に何も。ただ、ミサキが面白い記録を見つけたみたいで、後でまとめてくれる」
「そう、それじゃ私も頑張ろう。こっちはもう少し見てみるから、ファル坊は休憩してきたら?」
そう言われて俺は少しムッとし、
「へいへい、お言葉に甘えさせていただきます」
そう言ってティアナの所を後にした。
ったく、なんか腹立つ。ブルーだって坊ちゃんって呼ばれてるじゃないか、くそっ。
ブルーでもいじって気分転換してやる。
そんな事を思いながら保管庫を出るのであった。




