第二十二話 武器防具を買いに行くぜ!
別棟の見学もつつがなく終わり、今日は放校となった。
俺達は昨日行く予定だったギルド地区へ向かう。
「予定より少し早く終わったな〜、まずは俺とチカちゃんの武具を見に行こうぜ」
ブルーが張り切ってそう言う。
その言葉に、みんな同意してぞろぞろと歩き出した。
「どんな武具が良いかな〜。やっぱり俺も大将と同じにしようかな?」
「いや、刀は素人には扱いづらいし、この鎧もほぼフルプレートだから動き辛いぞ。俺の場合は、自分に合わせて可動部をカスタマイズしているからな、既製品のフルプレートメイルはオススメしない。最初は革鎧か魔物素材の鎧が良いんだが、ブルーの場合は立場もあるし、金属製の軽鎧が良いと思う。チカは革鎧が良いんじゃないか、軽いし丈夫だ」
俺はそれぞれに合うと思う物を提案していく。
「武器は、ブルーは両刃で軽めのロングソード、チカはショートソードと盾の組み合わせから始めると良い。体が出来てきたら徐々に武器も変えていこう」
「なるほどな〜、俺達はそういうの全くわからないから、大将がいて助かる。な」
ブルーはそう言ってチカに目線を送る。チカはそれにコクリと頷いて返した。
「なんかあんた達だけズルい。私とミサキも何か欲しいわ」
ティアナがそんな事を言ってくる。
「ティアナとミサキは護身用の短刀を持っておくべきだ。体内の魔力が少なくなると、体の動き、キレが悪くなる。魔力が回復するまで短刀で凌ぐことを覚えたほうが良い」
「そうね、そうする」
ミサキが俺の言葉にそう返す。
「じゃあ私もそうする」
そんな事を話しながら、ブルーおすすめの武具屋に着いた。
そこは商業ギルド直轄の高級武具屋だった。
「ここは良いものを扱っているっておじさんが言ってた」
そう言ってブルーが店に入っていく。
ちょっと待て、外観からして高級店だぞ。俺達学生の手が届く物は置いていないんじゃないか。
女性陣を見てみても、みな困惑している。
「どうする、一応見て見るか?」
そう声をかけると、みな頷いた。
俺も頷き返し、ぞろぞろと入店する。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、ロマンスグレーの店員さんがにこやかに声をかけてきた。
「本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
さすが高級店の店員さん、お金の無さそうな我々を見ても一流の接客をしてくれる。
逆に我々がソワソワしてしまった。
「あ、あの。先に入ったブルーの付き添いで」
そう言うのがやっとだった。
「そうでございますか、ではご案内いたします」
そう言って、ブルーの所まで連れて行ってくれた。
「遅いぞ、大将。それで、これなんかどうだ?」
ブルーは二階の刀剣が陳列されてある所におり、一本のロングソードを手にしていた。
いやいやブルーさん、その剣で戦闘するんですかいっとつっ込みたくなる。
長くて幅の広いブレード部分の真ん中縦に立派な彫刻が施されており、ガードの部分は金で意匠が施されている。グリップは見る限り綺麗な青色の天然石製だ。ポンメルのセンターにでっかい宝石が嵌っている。
「ブルーさんや、この剣は式典用じゃないかな?」
「そんな事はないぞ、店員さんもそう言っている」
ブルーについていた若い店員がうんうん頷いている。
俺達を案内してくれた店員さんが、その若い店員さんを若干睨んでいるが、奴は気づいていない。
「この剣は駄目だ、それを今から説明する。いいか、まず、剣の長さだが、お前はあまり力が無いからもう少し短いものにしろ、それに、その彫刻も邪魔だ。手入れが大変だぞ。あと、ガードがキラキラしている必要はどこにもない。金は意外と柔らかいから、ぶつけた拍子に曲がったりするぞ。それにそのグリップは駄目だ。お前はその剣に振り回される。そうすると、グリップが滑ってすっぽ抜けるぞ。ポンメルにはまっている宝石もどこかで落としそうだ。わかったか?」
ブルーはぐうの音も出ないようだ。
「俺が選んでやる。そうだな...」
ざっと店内を見渡してみる。
色々なタイプの剣が、所狭しと並んでいる。向こう側にはハルバートや槍なんかも見える。
剣のコーナーを一通り見て、一振りの剣が目に留まった。それを手に取ってみる。
バスタードソードよりブレードがやや短かいが、グリップは片手、両手に対応できるように長めになっていてガードも質実剛健な作り、ポンメルも余計な装飾はないが、滑り止めに適した形をしている。
「お、これが良い。これにしろ」
そう言ってブルーに渡す。
「う~ん、なんかシンプルでパッとしないな。もっとカッコいいのが良いんだけどな」
そう言いながらあれこれ構えを取っている。
「いやこれにしろ。この剣で腕を磨いて、一端に使えるようになったら次のを買えば良い...と言うか、この剣も一端になってから持つものだけどな」
「...そうか、大将が言うんだったらそうしようかな。すいませんこれください」
そう言ってブルーが店員さんの方を向く。
さっきの若い店員はいなくなったおり、俺達を案内してくれた店員さんだけになっていた。
「はい、ありがとうございます。他にご用命はありますか?」
「いや、またこちらで決めて呼びますよ。とりあえずこれはキープしておいてください」
「かしこまりました」
店員さんはそう言ってスーッと下がる。
「さて、チカちゃんはどれにする?」
ブルーがチカに声をかける。
「えーっと、ちょっとどれも予算オーバーかな?色々見てみたけど、この店じゃ手が出ないよ」
困り顔でそう答える。
確かにな。さっきブルーが持っていたゴチャゴチャした剣は、目が飛び出るほどの価格だった。購入を決めた剣だって、中堅の傭兵や冒険者にならないと手が出ない値段だ。
「そうか?なら俺が買ってやろうか?」
ブルーがそんな事を言う。
「それは悪いよ。それに、他のお店なら買えるものもあると思うし」
チカはそう言って遠慮する。まあ、チカの言うとおりだな。
「そうか、じゃあ俺の防具を買って他に行ってみるか」
その言葉を合図に、みんなでぞろぞろ移動する。
防具売り場は一階にあり、そこに色々なタイプの防具が並んでいた。
ブルーは迷わず、フルプレートメイルの方に歩いていこうとしたので、襟首を掴んで軽鎧のコーナーに引きずっていく。
「こらこら、お前一人ばかりに時間を割けないんだ。俺が選んでやるからこっちにこい」
「わかった、わかったから離してくれ」
軽鎧コーナーを色々見てみると、魔物素材で出来ていると思われる良さげな鎧があった。
「お、あれ良いな」
その鎧の裏側や中の部分、可動域のの確認なんかをしていると、店員さんがこちらに来て、色々説明してくれた。
「こちらの鎧は、南部の森に生息している土竜の鱗と皮で作られています。素材は軽いですが、竜の鱗だけあって非常に頑丈です。並の金属鎧よりお勧めできます」
見たことの無い素材で出来ていたから何かと思ったら、土竜の鱗か。それは凄い。竜狩りが出来る冒険者がこの町にいるって事か、その時の話を聞いてみたいな。
「それは凄いですね。土竜の素材って結構入ってくるものなんですか?」
「いえ、そんなには入りません。こういった素材はその殆どが西方の王侯貴族へ流れていきます。これはたまたまキャンセルが出て、浮いていた素材を当店で買うことができ、鎧に仕立てることができたものです」
「そうですか。土竜自体はそこそこハントされるものなんですか?」
「いえ、一年に一回あれば良い方です。そもそも南部の森で活動している冒険者も少ないですし、土竜を狩れる冒険者が非常に少ない。出回る土竜の素材の殆どが、たまたまあった死体からはぎ取ってくるのですよ」
なるほど、このクラスの魔物になると、死体あさりするしかないのか。
「ブルー、これなんかどうだ?」
ブルーにこれを勧めてみる。
ブルーは手に取って、感触を確かめてから、
「俺の趣味じゃないな」と言って鎧を戻す。
「それより、あっちにミスリル製の鎧があったんだよ。俺はそれにするぜ」
そう言って俺を引っ張っていく。
確かにミスリル製だ、結構出来がいい。意匠もあまり派手ではないがシンプルすぎもしない。
手に取って確かめてみる。
可動域も十分あるし、購入予定の剣とも相性が良さそうだ。
「良いやつ見つけたじゃないか」
そう言ってブルーに渡す。
「だろ?すいません、これもお願いします」
ブルーはそう言って店員さんに鎧を渡した。
「ありがとうございます。他にご用命はありますか?」
「兜を見たいな」
ブルーがそう言うと、店員さんが「あちらでございます」と案内する。
店員さんについて行くブルーに、声をかけた。
「ブルー、俺たちは冒険者ギルド近くの武具屋に行ってるから」
「じゃあそうだな...魔術士ギルドで集合しよう」
ブルーがこちらを向いてそう言う。
「わかった」
そう返事をして俺たちは別の店に向かった。
冒険者ギルド近くの武具屋は、俺も何度か行ったことがある。
まあ、親父に連れられてだがな。
あそこの店主は、自分で鍛冶仕事もするが、その殆どが修繕だ。なので、新品の武具は他の鍛冶屋から仕入れている。
うちの製品は、そこでは高級品だぞ。
サクッと移動して店に入る。
「おっちゃん、こんちは〜」
カウンターに座っているおっちゃんに声をかける。
「おう、ファル坊じゃないか、どうした?納品はないはずだが」
おっちゃんはこちらに笑顔を向けてくる。
「いや、この子に武具を誂えたくてね」
そう言ってチカを前に押す。
「お、客を連れてきたのか。そりゃ殊勝だな」
おっちゃんがカウンターから出てこちらに来る。
「で、どんなのが欲しいんだ?」
「えっとだな...」
俺はチカに合うであろう武具をおっちゃんに伝え、いくつか見繕ってもらう。
おっちゃんはチカにあれこれ説明しながら選んでいた。
「おっちゃん、言わなくてもわかると思うけど...」
「ああ、わかってるよ。任せとけ」
そう言って仕事に戻る。
俺とティアナ、ミサキは護身用の短刀を色々見て回った。
「護身用で懐に隠持つのが良いから、あまり大ぶりなものより軽くて振り回しやすいのが良いんだけど、ここにはパッとした物がないね」
「そうね、いかにも冒険者が使っていそうなナイフしか無いわね」
ちょっと残念だ。さっきの高級店でも見てくれば良かった。
「本当は長物の刃物も持っていた方が良いんだよね。でも、ローブ姿で帯剣するのは変だしな。いっその事、杖とか持ったりしない?」
俺は二人に聞いてみる。
「杖ねぇ。冒険者やってる魔術士は結構持ってるよね。でも、魔術士ギルドの魔術士は持ってないし、あれは何故なの?」
ティアナが聞いてくる。
「それは、冒険者になった魔術士は、魔術だけ使うわけじゃないからだよ。杖で獲物を撲殺したり、それこそ護身用だよね。後は見た目の問題かな?魔術士ギルドの高位の人たちは、式典なんかで持ってたりするし、西方諸国の宮廷魔術士は権威の象徴で持ってるらしいよ」
「「へ~」」
二人とも感心したようだ。
「冒険者魔術士の中には、仕込み杖にしている人もいる。ちょっと重くなるけど、いざという時に役に立つ。二人もそうする?」
俺の問いかけに二人は悩みだした。
「その仕込み杖はここにありますか?」
ミサキが聞いてくる。
「多分無い。細工が細かいから、こんな安物武具屋にはおいてないと思うよ」
俺がそう言うと、おっちゃんが背後から近づいてきて、
「安物武具屋で悪かったな」と言って俺の頭に拳骨をくれる。
「痛て!」
俺は頭を摩りながら振り返る。
「まあ確かに今は欠品しているがな。だが、この前までは有ったんだ。あれは扱いを間違えるとすぐ折れる。それはそうと、嬢ちゃんの武具は見繕ったぞ。おーい、こっち来な」
おっちゃんがそう言ってチカを呼ぶ。
カウンターの奥の部屋から着替えたチカが出てきた。
おお、一端の冒険者に見えるぜ。
鎧はやはり革鎧になったようだ。それにしてもカッコいい。チカの顔が幼いからそこはミスマッチだけど。頭も革の兜だ。首元を守るシコロの部分が異様に長く見える。あれじゃ首を振るとき邪魔だな。
武器はショートソードでやや細身のブレードだ。剣の重量を加味してこれにしたんだろう、さすがおっちゃん。盾は楕円形の小さ目な木製だ。小さ目と言っても、小柄なチカには十分な大きさがある。木製だけど重いだろうな、鍛えてやらねば。
俺はおっちゃんに向けてサムズアップしてやる。
おっちゃんもおれにサムズアップしてくる。
それにしても、これだけ揃えてお金は足りたのだろうか。
「おっちゃん、チカの予算内でこれ全部まかなえたの?」
一応聞いておく。
「...いや、本当は足りないな」
だよねー、結構したと思うし。
「まあ、いつもお前たち親子には世話になってるし、あれの殆どが下取りした中古品だ。元手はタダみたいなものだから別に構いはしないよ」
そう言ってガハハと笑う。
おっちゃんがそう言うなら良いか。
ティアナとミサキは、チカのそばに行って褒めたりからかったりしている。
「じゃあそろそろ行くよ、おっちゃん今日はありがとう」
おっちゃんにお礼を言う。
「良いって事よ。また遊びに来いよ」
「わかったよ。さあお三人さん、そろそろ行こうか。ブルーと合流しよう」
俺がそう言うと、チカはおっちゃんの傍まで行きお礼を言っている。
「チカにとっては良い買い物が出来たみたいね」
ティアナがそう言いながらチカを見ている。
「そうだな、ここに来て正解だった」
「ファル坊って言われてたし、ちょっとおもしろかった」
ミサキが俺にそんな事を言ってくる。
「うがー、忘れてくれー」
俺は恥ずかしくなり、一人で店を出た。
「ちょっと待ちなさいよ」
ティアナがそう言って、三人で追いかけてくる。
「待てって言ってるでしょ、ファル坊!」
くぅー、からかわれている。後でお返しするからな。
俺は心にそう決めて、三人に先行して魔術師ギルドに向かうのであった。




