第二十一話 一般教養の座学初日、色々勉強になる
今日はこのまま一般教養の座学となるようだ。
学園長は軽く挨拶をして教室を出て行った。
「では引き続き座学の講義とする。まあ一口に一般教養と言っても様々なカテゴリーがあるが、先ずは今わかっているこの大陸の歴史から始める」
そう言って先生はみんなに『リオングロード大陸の歴史』と書かれた本を渡す。
「この教本は授業が終われば回収する、汚したりせずに丁寧に扱うように」
俺達は頷いて答える。
「では、最初のページから始める。この大陸の成り立ちは...」
アイラ先生が授業を始める。
今回の授業をざっと説明すると、こういう事だった。
今我々が把握しているこの大陸の歴史は約百年程しかなく、それより前の歴史は誰もわかっていない。
これについては何か不思議な力が働いたとしか思えないそうだ。
今ある最も古い記録は、西方と東方を分けている壁『ギガントウォール』の隠し部屋になっていた所にあった粘土板に記載されていた通行の記録だ。
この記録によると、大陸歴十三年に魔術士を三名、東方に追放したとある。
今現在は大陸歴百十二年なので、九十九年前となる。
その次に古い記録は、シャイターン山地から流れる川の畔から出土した粘土板に記載されていた、西方の『カムーツハン』と言う国が滅び、その後に『デルヴェ』が建国されたというもの。
これは大陸歴四十年と記載されている。
しかし、現在のデルヴェ国王は十一代目で、在位二十二年だ。
この事からも、この歴史は捏造ではないかと言われている。
西方諸国で、粘土板や木簡や羊皮紙などに記載されている物で、遡れるのも約百年前までで、人の記憶や口伝でも約百年だそうだ。
しかし、歴史的な遺物は大陸に結構あるらしく、ギガントウォールや、西方にある迷宮神殿などは、もっと古い時代から存在しているらしい。
魔術士ギルドど冒険者ギルド、その他各国家でその辺の古い遺跡等を調査して、失われた歴史を研究しているそうだ。
東方の歴史は浅く、ここノーティスが今に至るまでの事をブルーの先祖が書き記している。
と言っても、五代ほど前までの話だ。
初代が西方を追われ東方に来てから、百年経っていない。
東方の開発が盛んになったのも、ブルーの祖父の代からだ。
「以上がこの大陸の歴史だ。まあ、要約したものだから、気になるものは各自調べろ。時間が余ったので、東方の事についてある程度突っ込んでみようと思う」
アイラ先生はそう言って語りだす。
「東方は人の住まない所とされていて、昔は罪人の流刑地となっていた。実際、ギガントウォールを超えるしか東方に至る道はなく、そこさえ抑えておけば問題はなかったのだ。しかし、ブルーの先祖がこの地で精霊に会い、魔術を発展させてから、流刑となった魔術士達がこの地で集落を作りそして、今日のノーティスを作っていったのだ」
ブルーがうんうん頷いている。
「質問良いですか?」
俺は手を挙げる。
「何だ」
「罪人の流刑地だったのなら、魔術士以外の罪人達はどうなったんですか?」
「いい質問だ。西方では、東方への流刑は死刑の次に重い刑罰だった。東方では人は生きていけないとされていたからな、実質死刑と同じだった。殆どの罪人は東方の過酷な環境で生きてはいけない。何せ着の身着のまま放り出されるからだ。魔物が跋扈する未開の地では、水や食料を調達するのは容易ではない」
着の身着のまま放逐されるのは、キツイな。首を刎ねられて死んだ方が幸せなのかもしれない。
「なるほど。武具も食料も無く、魔術も使えない者は、飢えて死ぬか魔物の餌食となるしかなかったって事ですか」
「殆どのものがそうだったろう。魔術が使える魔術士でも、十数日生存するのでやっとだったようだ。ブルーの先祖が東方で生き残れたのは...まさに奇跡だな」
アイラ先生はうんうん頷いている。
「では、ブルーの先祖が集落を作ってからはどうだったんですか?」
「基本的には、ギガントウォールからここまで自力で来れたものは、受け入れていたらしい。その殆どが、魔術士だったようだ。魔物もギガントウォールの周りには結構な数が生息していたようだし、自力で魔物討伐が出来る者しかたどり着けない。ただの罪人でここにたどり着けたのはほぼいなかったそうだ」
「ほぼ?中にはいたと?」
「ああ、暗殺者だとか、武術家、諜報なんかをやってた奴らはいたらしい。ここの教師の先祖もいるしな」
へぇー、罪人をルーツに持つ人も結構いそうだな。
「まあ、当時は魔術を使えると言うだけで罪人なんだ。罪人と言えど、色々なスキルを持っていた人達は、初期開拓には重宝しただろう」
確かに。
でも、犯罪なんかは起きなかったのか?
アイラ先生は俺の思考を読んでか、続ける。
「まあ一口に罪人と言っても、色々な罪があって、凶悪な犯罪者もいれば、言いがかりで流刑になったものもいたようだ。運良くここにたどり着いて、良からぬ事を企んだり、実行した者もいるにはいたらしい。ただ、生きていく為に協力しなければならない環境だ。集団生活が出来ない人間は自然と淘汰されたんだろう。ある時から記録に出て来なくなった名前も何名かある。人が亡くなったら、その記録も残っているのだがな」
なるほど、犯罪は起きたかもだが、そこは何とかして乗り越えたんだな。
「さて、どうやって集落を大きくしていったかだが」
これは気になる。
「ブルーの祖先...名はアスールと言うが、アスールは精霊から土の住居をもらったらしい。その中には、武具や農具、食料などがすでにあったそうで、そこを拠点に徐々に開拓していったそうだ。因みにその場所は、今の魔術士ギルドがある場所だ」
へぇ、そうなんだ。
「そこに一人二人と流刑になった人たちがたどり着く。元々森だった場所だから少しづつ広げていったそうだ。流刑になったものには女も居て、まあ、じゃなかったら子孫なんて残せないわけだが。子をなして少しづつ規模を大きくしていった。そして、代替わりしていき、ブルーの祖父の代でギガントウォールに交渉しに行ったわけだ」
「どういった交渉なんですか?」
「最初は、東方のこの地で集落を作って生活をしていると知らせたそうだ。そして、西方に戻ることもないと。ギガントウォールを管理していた役人は驚いたそうだ。まさかだったろう、東方で生きている人間がいるとは思っていなかったろうから」
まあそうだろうな。今で言えば、未開の地、例えばバモーの北の山脈から人が来るようなものだ。
「ギガントウォールに接している西方の国ヴァダパートは、軍隊の派遣も検討したようだが、当時は西方諸国の中で戦争をしていたこともあり、ギガントウォールを超えて来ないのであれば良いと言う事にしたようだ」
西方諸国で戦争か、西方って物騒だな。
「ギガントウォールとの交流は徐々に頻度を増していったようで、東方の珍しい食べ物や、魔物の素材なんかと交換で、農具や生活に必要な金物、衣服などを交換していたようだ。情報交換も自然と起こるようになり、西方諸国の戦争はヴァダパートの陣営が押し込まれていて、すでに数国が蹂躙されている事、戦火がヴァダパートに迫っている事なんかを聞いていたようだ」
戦争が迫っている話は嫌だよな。
「そこで、有志百名ほどが魔術士隊としてヴァダパート陣営に助太刀すると申し出たそうだ。最初は魔術を忌避していた西方の人たちも、デモンストレーションで見せた魔術の火力で有用性を知り、東方の魔術士隊は前線に送り込まれた。食料や資材などの物資の支援も積極的に行ったそうだ。その結果、侵略国家を押し戻して戦争は終結。魔術の有用性も戦場で嫌というほど見せつけ、また、物資等の支援も戦後復興に大いに貢献したらしく、東方はもはや流刑地ではなく、一地域としての地位を確保したそうだ」
東方で独自に発展している人々がいると認知させた訳か。
「ところで、その後西方からの調査や侵略はなかったんですか?」
「西方は戦後処理でそれどころではなかったのだろう。無償の物資支援もあったし、下手に刺激して東方魔術士隊の反撃に合うのもバカらしいだろうからな」
「なるほど」
「この一件で魔術の有用性が大陸全土に証明された。戦後処理で西方がバタバタしている隙に魔術士ギルドを立ち上げ、独立宣言をして都市国家となり、冒険者や商人がどんどん入植してきて現在に至るという訳だ」
確かに今は冒険者と商人の割合が多い。魔物の素材関係は冒険者ギルドが一手に行っているし、それを買付て、加工や流通等は商業ギルドが行っている。
鉱物以外の資源生産量は、東方が大陸で一番多い。
「因みに、この教科書や配布しているプリント等に使っている紙だが、大陸全土でここノーティスでしか生産されていない。学園では気軽に使用しているが、西方では飛んでもなく高価なものだ。ノーティスの特産物でもあるから、覚えておくように」
へぇ~、そうなのか。でも何で西方では生産してないんだ?
「他で紙の生産をしないのは何故ですか?」
アイラ先生はニコッと微笑んで、
「製紙の技術は、精霊様より賜ったものだ。よって、魔術士ギルド本部でしか生産出来ないように情報統制されている。精霊様の技術だから、魔術を使って作るとは思うが、私も詳しいことはわからない。学園で気軽に使えるのも、魔術士ギルド直轄の組織だからだ。お前たちには、この様な素晴らしい魔術開発を期待している」
なるほど、魔術を使って生産しているから、西方では作れないと言うことか。
でもまあ、その内誰かが製紙技術を開発しそうだけどな。
「と言う事で、座学はここまでとする。西方との関係も今は友好的だが、戦争が好きな連中だから、いつどうなるかわからない。ギルドの分裂が引き金になるやもしれないから、くれぐれも情報漏洩は無いようにな」
そりゃそうだ、戦争なんかたまったもんじゃない。
「次は休憩を挟んで、別棟の見学をする。呼びに来るから、ここで待機しているように」
そう言ってアイラ先生は教室を出て行った。
その直後、終業のベルが鳴る。
いやはやなんとも、一般教養と言っても知らないことが多い。
この学園に来たのは正解だったな。
俺はそう思いながら体を伸ばして脱力するのだった。




