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第二話 ギルド地区から学園へ

 西門をくぐると半円状の広場になっていてそこから放射状に道が続いている。中央の道は石畳になっていて馬車が楽にすれ違えるようにずいぶん広い。また、各道には名前がついていて、その通りを示す看板が道の入り口についている。


 ここギルド地区はその名の通り複数のギルドがある。まずは西門から入ってすぐ右手にあるのは傭兵ギルドだ。商人や旅人など、野心街道を西進する人が護衛の傭兵を雇ったり、ここに来るまでに雇った傭兵との契約の履行確認をしたり、なにかと都合がいいようだ。


 中央の石畳を中ほどまで進むと商業ギルドがある。ここもまた広場になっていて、さながら停車場のように商人の馬車が並んでいる。その光景を横目に進んでいくと、正面に出てくるのが魔術士ギルドだ。


 ここ都市国家ノーティスを事実上運営しているのは魔術士ギルドなんだそうだ。そして、学園も魔術士ギルドが運営しているらしい。なんでも魔術士はその昔あまり人々からの受けが良くなかったらしい。それで、辺境の地のここ東方へ続々流刑になったそうだ。だけどそこで昔の魔術士達が頑張って魔術を磨いて、今では大陸全土に魔術の有用性を認めさせたんだと。


 そして誰も手を出さなかった東方のこの地でいつの間にか都市国家として独立し、西方諸国に認めさせたんだと。

 

 まあ、俺もちゃんと勉強したわけじゃないから、ほんとのところはよくわからんけど、大まかにはそういう事らしい。


 今では学園まで作って各国の魔術士育成に積極的になっているから、昔のわだかまりもないんだろうけど。


「ここまでくればあと少し」


 魔術士ギルドを右に曲がって、少しすると、左手にクラブル川が見えてくる。その川沿いに少し行くと橋が架かっているのが見える。


 クラブル川の川幅は大体三十メートルくらいあり、しかも水深が深い。流れは穏やかなので、泳いで渡れないこともないが、大体の人はこの橋か渡し舟を利用して行き来をしている。


 橋の袂には冒険者ギルドがある。そして冒険者ギルドには船着き場があり、北のバモーからの物品と南で探索した冒険者の物品が運ばれる。そして、物資を運んでいく。東へは橋を渡って城壁の東門を通って探索に行くそうだ。


 俺は橋を渡って学園地区へ入り、川沿いにある学園へ向かうために左へ曲がる小道に入った。


 学園の正門は城壁東門からまっすぐ西へ向かうとある。魔術士ギルドが西門からまっすぐなのと同じだ。そして、学園の講師たちは公務員なのでここ学園地区から出勤する。東へ探索に出る冒険者は、橋を渡ってまっすぐ行ったほうが東門に近いためこの道を通らない。で、この道を使うのはギルド地区から学園に向かう生徒がほとんどだ。


 と、いう事で出ました。いかにも俺は悪党ですという顔をした集団。


 進路を塞ぐように前に七人、後戻りできないように後ろに五人、そして、道に面した潰れた商店風の建物から四人、二階から見てるの三人。


 建物の対面側は川べりで葦やら何やらがが茂っている。足場は悪そうだ。


「いようお兄さん、こんにちは~。随分ピカピカの鎧着ちゃってるねぇ~。俺もそれ欲しいから脱いで行ってよぉ~」


 そう言って仲間と思しき連中とケラケラ笑っている。


「はぁー、断る」


 ため息をつき、七人居るほうへ歩いていく。


「おいおい、断っちゃっていいのぉ~?あまり反抗的だと建物内にいるお友達と同じことになるよぉ~」


 頭の悪そうな連中、いや、確実に頭が悪いだろう連中は、各々色んな刃物を出してこっちを威嚇したりケラケラ笑ったりしている。


「あー、こっちも刀持ってるんだけど、ケガじゃすまないかもよ」


 一応警告した。どうせ無駄だけど。


「いやいや、武器持ってても一人でしょぉ~。こっちはえぇーっと...いっぱい居るんだよぉ~」


 建物の中には学園生が何人捕まってるかわかんないし、建物内に何人頭の悪い連中が居るかわからない。けど、今見えてる十九人は雷属性の斬撃波で昏倒させて、その後建物内に突入して学園生を確保。それと、上空に花火打ち上げて衛兵に連絡すれば良いか。


 頭の中で行動を整理して、刀を抜く。


「おやおやぁ~、やる気なのぉ~」


 ニヤニヤしながらナイフやら剣やら斧やらをこっちに向けて近寄ってきた。


「我がファルモアの名において請う、大気の精霊よ、我が剣に稲妻を宿したまえ」


 魔術を行使するため詠唱していると、焦った連中が駆け寄ってきた。


「残念、遅い。雷撃波」


 まずは前後に刀を振るい雷撃波を放つ、そして建物二階へ一閃。その三撃が着弾と同時に建物に駆け寄り、四人に向け一閃。


 十九人に雷撃を浴びせ無力化すると、建物内に侵入する。


「誰かいるかー。おーい、いたら返事しろー」


 呼びかけながらドアを開けてゆく。


 厨房に入ると、猿轡をされ、手足を拘束された男女五人が隅で震えていた。


「大丈夫か?」


 拘束を解きながらやさしく声をかける。


「衛兵さんですか?助かりました」


 拘束を解いてやった一人が涙声で感謝をしてくる。


「いや、衛兵じゃないけど。俺も学園生だよ」


 そう言ってニコッと笑ってみる。


「外の連中はどうなったの?学園生じゃ敵わないはず。衛兵は呼んだの?」


「一応十九人は無力化したよ。連中は何人いたんだ?」


 二人目の拘束を解きながら答える。


「無力化した?そんな...」


 なんか絶句しているよ。


「何人いたかはわかりません。でも十九人は居なかったと思います」


 拘束を解いた二人目が答えてくれた。


「じゃあ後の人たちの拘束を解いてあげて。俺は他に人がいないか確認してくる。拘束を解いたら外に出ててくれ。何かあったら大声出してくれれば駆けつけるから」


 そう言って建物内を見回る。二階も見てみるが、さっきの連中が転がって呻いているだけで他に人は居なかった。


「じゃあ衛兵に連絡するか」


 バルコニーに出て空に向かって手を掲げる。


「我がファルモアの名において請う、火の精霊よ、我が呼びかけに答え炸裂の火花を上げよ」


 呪文を詠唱すると、空に火の玉が上がっていってそして炸裂した。


「きゃあ!」


 外から悲鳴が聞こえる。


 バルコニーから下をのぞくと、音に驚いたさっきの五人がいた。


「脅かしてごめん、衛兵に連絡しただけだから。それと、道に転がってる連中を建物前に集めてくれると助かる」


 そうお願いしてみるが、全員首を横に振って拒否してきた。


「あー、じゃあ連中の持ってた武器の類を拾っておいて」


 これには首を縦に振って素直に聞いてくれる。


「じゃあこいつ等一か所に集めるか」


 そう呟いて、ゴロツキを運ぶのであった。





「またお前か...いや、わかってたけども」


 疲れた顔をした衛兵が俺に向かって言う。


「そんな顔されても俺も困るんですけど」


 俺も困り顔だ。


「軽く彼らから話は聞いたよ。なんでも連中に捕まって身ぐるみ剝がされそうになってたって」


「ええ、そうなんです」


「そして六人目のカモだと思ってお前を襲って」


「はい、返り討ちにしました」


「そうだよな、ひ弱なカモだと思ったやつが、実は鬼に鍛えられた鬼子だったとは、こいつらも運がなかったな」


 なんだか不本意な二つ名で呼ばれたが、そこはまあいい。実際親父は剣術に関しては鬼だからだ。だけど、衛兵が犯罪者に運がなかったはだめでしょ。


「いや、犯罪の芽がまた一つ無くなったんだから良いでしょ」


「そうなんだがな、これをやったのがお前で、その犯罪を防げなかったのが俺たちだ。トータルでプラスなんだが、俺らの上役は自分たちの仕事を市民がやった事実に腹を立てるんだよ。お前たちは何をやってるんだってね。そして上役は巡回やら取り締まりやらの仕事を増やす。だが人員は増えない。その結果一人一人の仕事が増えて、体を壊す奴が出るし、家に帰ってこない旦那に見切りをつけて他の男と飛んでく女房もいる。その旦那は悲惨だよ」


 なんの話を聞かされているんだろう。俺のせいだけど、俺は悪くないだろ。


「なんかすいません。今後は見て見ぬ振りしますよ」


「いや、それはそれで困る」


 じゃあどうすりゃいいんだよ。


 お互い顔を突き合わせて「はぁー」っとため息をするのであった。


「お前さんの話は終わりだよ。他の五人は被害も有ったみたいだし、もう少し話を聞かなきゃならない。学園には衛兵隊から話をしておくからお前は学園に行きな」


「はい、わかりましたよ。お世話様でしたー」


 そう言って今度こそ学園に向かう。衛兵のおっちゃんは手だけをヒラヒラこっちに振って仕事に向き合ってた。


 



 さて今度は無事学園に着いたよっと。でも、着いたは良いけどやっぱりこの道は正規のルートではないのね。


 目の前には学園南側の塀がある。そして一応扉は有るのだが、非常口と書いていて鍵がかかっている。


 ここに来るまでに思ったより時間がかかってしまって、正門まで行ってると遅刻になってしまうかもしれない。だから俺にとっては非常事態だ。だから非常口を使っても良いはず。


 トンデモ理論で非常口の扉を破壊しようと刀の柄に手を置いたとき非常口が開いた。


「ん、何してるんだお前」


 中から出てきたのは魔術士ローブに咥えたばこのお姉さんだった。


「いや、扉を破壊して中に入ろうかと思いまして」


「お前新入生だろ。正門で点呼と今日の予定を配ってるからここからじゃなく正門に行け」


 そう言ってぷかーっと煙を吐き出す。


「お姉さんは何でここから出てきたんですか」


「あー、学園内は基本禁煙でねえ。だけど喫煙するには排煙の魔法陣がある学園長室か、敷地外に行かなきゃならない。だからここにいるって事」


「施錠されている非常口使っても良いんですか?」


「あー、私が煙草を吸いたくなったって事は、私にとっては非常事態だ。だから非常口を使っても許される」


 ぷかーっと煙を吐きながらとんでもないことを言い出した。


 でも、何だかとても気が合いそうなお姉さんだ。


「で、私は一応正規の教師でもあるんだよ。臨時の講師とは訳が違うんだ。だからこのことは誰にも言うなよ。お前の成績が心配だから」


 さらにとんでもない事を言ってきたぞ、不良教師め。


「そんなことしませんよ、先生。ただ、僕も先生の勤務態度がどうだとか、私的に非常口を使っているとか、誰にも言いたくないけど、言わなきゃいけない時が来ないように先生とは色々仲良くしたいもんですね」


 そんな事を言ってお互い見つめ合い、そしてニヤッと笑い合う。


「ほう、なかなかどうして。お前とは気が合いそうだな」


「全くです、先生」


 不良教師は吸殻を火の魔術を使って燃やし、非常口に消えていった。


 俺も正門へ歩き出した。


 なんだかとっても楽しい学園生活になりそうだよ。


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