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第十六話 魔術開発 普通はこんなに早く出来なんだからね

 学園長からのリクエストは、空を飛ぶ魔術若しくは浮き上がる魔術だった。


 これって今まで何人もの魔術士が研究開発に時間をかけて、未だに完成していないものだよな。廊下の掲示板にも泥チームが研究しているような掲示をしていたし。


「ちょっと早まったかもな」


 自分の弱気を声に出してみる。まあそれに応えてくれる者はこの部屋にはいないんだが。


「さて、まずはどこから手を付けようか」


 空を飛ぶイメージや浮かぶイメージはなんとなく出来るが、それだけで魔術になるとは思えない。空を飛んでいるものって、先ずは鳥を思い浮かべるよな。


 でも、鳥のように羽ばたく翼は人間にはない。


 鳥をイメージしても空は絶対に飛べない。


 じゃあどうする。他に空を飛んでいるものは何だ?


 次に思い浮かぶのは、偶に見かけるワイバーンなどの魔物だ。


 確かに空を飛ぶ。だけど、鳥と同じように翼をもっているんだよな~。


 う~ん、他には何がある?


 ゴーストやレイスなどのアンデットか。


 確かにあいつ等は浮かんでいる。でも、どういう原理で浮かんでいるのかはさっぱりわからない。そこがわからないと魔術にはできないだろうな~。


 あ~、やっぱ早まったかな~。


 早速煮詰まってしまった。


 気分転換に部屋の中を見てみる。


 部屋に入ってよく見ていなかったが、この部屋は教室程の広さは有るが、用途は違うみたいだ。


 まずレイアウトだが、書棚等は殆どなく一つだけ窓を塞ぐように配置してある。が、全ての窓を塞ぐほどの大きさではない。入り口から入ってすぐ目の前に何故かベッドがあり、その奥に机が並んである。


 今はその机に座っているのだが、机は他にもあり、その殆どに食べ物を食べた後の食器や容器が上っている。


 床には何かの資料なのか、紙束が乱雑に積まれており、さらにところどころに散らかっている。


「しかし、見れば見るほど汚い部屋だな」


 行き詰ったとき体を動かすに限る。


 いつもは、素振りやランニングなどをするのだが、ここではどちらも出来ない。


 ならばと、この散らかった部屋の掃除を始めた。


 無心で整理整頓をし、散乱していた紙束を一か所に集め、食器類などは空の桶が有ったので、それに魔法で水を張って浸けておく。


 書棚の本をタイトル順に整理し、紙束の内容を軽く見て分類し、浸けてあった食器を洗い風魔法で乾かす。


 その際、風に吹かれて埃も舞い上がってしまった。


「やば」


 急いで窓を開け、空気を入れ替える。


 ついでに風を部屋の中で循環するように魔法を使った。


「大分埃も外に出たな」


 食器を洗った桶の水を外に捨て、ベットにあった数着のローブを日干しにする。


 最後に絞った布で机を拭いて、掃除を終わる。


「こんなもんで良いか」


 椅子に座って一息つく。


「結構時間たったな、先ずは接着魔術からやっつけるか」


 アイラ先生に渡された紙に魔術の術式を書いていく。


 まあ、昨日の試験で書いたものをさらに詳細に書き出して、使用用途や解除の方法なんかを書き足しただけだけど。


 再び飛行魔術に取り掛かる。


 さっきの掃除で、埃が風で舞った時思ったんだけど、風で物を飛ばすのと、風魔法を飛ばすのは違うよな。風の力で飛ぶのは試した人が絶対いるはず。それじゃあ絶対に成功しない。


 今朝魔物に放った攻撃魔法は、俺の意思で飛んで行っているから、これを応用すれば飛行魔術を作れるかもしれない。


 まずは魔法で成功できるかだ。


 俺はライトの魔法を出してみる。


 右の掌から光を出すイメージをすると、丸い光の球がぽっと出て空中に浮かぶ。


「この浮かぶ現象を人で出来れば良いんだけど」


 魔力で出来た光が浮かんでいるって事は、体全体を魔力で覆えば浮かぶことが出来るんじゃないか?


 そう思って、体に魔力を纏わせるイメージをする。だけど、纏えているか良くわからない。


「...う~ん、よくわからん。母さんから貰った魔力可視化の魔術を先に練習するか」


 今朝は成功しなかった魔術だが、今は何となくできる気がする。魔術ではなく魔法で。


 呪文は『内に秘めたるその力を今ここに光となって現せ』だから、ライトのように魔力を光らせるイメージで...


 すると、ぼんやりとだが心臓の辺りが光る。


「出来た、このイメージか」


 それを何度か繰り返しやっていると、安定して光るようになってきた。


「よし、じゃあ魔力を纏ってみるか」


 魔力を光らせたまま全身に行き渡らせるイメージをする。


 魔力が広がっていくのが目で見えてわかる。


 ただ、所々斑が出来るので、そこを意識しながらゆっくりと光を纏っていき、ようやく全身を覆うことに成功した。


 この作業も中々大変だ。


 魔力を纏ったら、そこから魔力を放つイメージに変える。


 すると、魔力だけが体を離れて飛んでいき、霧散した。


「ウ~ン、魔力を放つイメージじゃ駄目か」


 次はどうしよう。


 また魔力を全身に纏い思案する。


 魔力で体を持ち上げるイメージならどうだろう?魔力に乗っている感じで。


 目を瞑って先程のイメージをする。すると、足が地面から離れる感じがして目を開ける。


「おっとととと、痛で」


 バランスを崩して尻餅をついてしまった。


 何か今行けそうだったかも。


 魔力の上に乗っているイメージだと、足を持ち上げられているようで、バランスを取るのが難しいかもしれない。慣れればそうでもなさそうだが。


 次は脇を持って持ち上げるイメージでやってみる。


 すると、足が地面から離れるが、今度は転ばない。精々拳二つ分ほどだが確かに浮いている。


 そのまま前に進むイメージをすると、ゆっくりだが前進出来た。


「これは成功したんじゃないか?」


 この浮かんで前進するイメージを固めるために何度か繰返し試してみる。


 大分スムーズに行えるようになった。


「よし、後はこれを魔術の術式にして、呪文を作れば良いな」


 早速ペンを持って机に向かう。


 魔術の術式と言っても、先ほどの現象を言葉にするだけだ。まあ、ただ言葉にするだけじゃダメなんだけど。この現象をゆっくり紐解いてそれらしい言葉で解説していくって事。


 先ずは魔力を全身に纏わなければこの魔術は成功しない。これをどうするか?まあ、そこは精霊さんに出てきてもらうんだけど。


 精霊の力を全身に纏う、これをどの精霊にやってもらうか。


 まあ、光の精霊にやってもらおう。この時に注意する点は、普段姿見などで普段確認しないところに意識を向ける事だ。脇の下や足の裏、お尻や、膝裏など。


 そして光の精霊に全身を包んでもらったら、脇の下を持って持ち上げてもらう。後は行きたい方向、とりたい行動を意識するだけだ。


 じゃあ術式を記していこう。これを読んでうまくイメージできるかが術式の肝だ。



 浮遊魔術術式


 前書きとして、この魔術は非常に力の強い光の上位精霊の力を借りる。故に力量のない魔術士には扱えない。また、使用後はもの凄い疲労感に襲われるため、実用的ではない。


『光を司る大いなる上位精霊を呼び寄せ、自身の全身を精霊力のベールで覆って頂き、光精霊の力を付与して頂く。(この時全身付与されなければ魔術を行使できない。) その後、腋窩に再び精霊力を集中付与して頂き、自身の体を持ち上げて頂く、そうする事で体が浮遊する。浮遊後の移動については光精霊に方向を指示することで可能である。また、浮遊を終了するのも同様である』


 

 こんなもんで良いか、後は口頭で捕捉しよう。


 次は呪文だな。


 呪文は術式を短く要約したものだ。


 呪文はギルド式の物にした方がいいのかな?ミサキなんかは、浮け!とか、浮く!とかで出来そうだけど、俺が開発した魔術以外をそこまで短くすると発動できないだろう。


 やっぱりいつも通りの俺流呪文にしよう。


 そうするとこんな感じか?


『我がファルモアの名において請う、光の上位精霊よ、我が全身にその力を付与し、我を持ち上げたまえ』


 う~ん、こんな呪文じゃ魔術を行使できない気がする。


 でも、口頭で上手くイメージを誘導できれば、どちらかは浮かぶことが出来るかもしれない。


「こんなもんで良いか。結構疲れた~」


 伸びをしながら日干ししていたローブを取り込む。


 窓の外を見上げ、日の高さを確認すると、真上から半分ほど傾いていた。


「掃除やらなにやらしていた割には意外と早く出来たな」


 面接の方はどうなっているんだろう?


 ちょっと気になったので、廊下に出て様子を見てみる。


 面接部屋からは、相変わらずピカピカ光が漏れていた。


「まだやってるのか。後何人だろう?」


 面接中にそんなことを聞きに入る訳にはいかないよな~。


 ふと、待機場所を見てみると、ミサキがちょこんと座っていた。


 暇だし、少し話をしに行こう。


「よう、次か?後何人くらいで終わるんだ?」


 ミサキに話しかけながら近づいていく。


 ミサキは俺を見てちょっと驚いているようだ。


「今までどこで何をしていた?戻って来ないからみんな心配していたぞ」


 驚き顔で聞いてくる。


「あ~済まん、ちょっと魔術開発をしていて戻れなかった。ってか、アイラ先生から説明なかったの?」


「何も。後から面接に行った人にも聞いてみたけど、何も知らかなったし、ブルーが行方を聞こうと随分粘ったけど、教えてもらえなかったそうよ。それでみんな心配してたし」


「ミサキちゃんも心配してくれたんだ?」


「ええ、西方絡みの話もあったから」


 そうか、それは申し訳ない事をした。


「心配かけてごめん、さっきも言った通り、魔術開発をしていただけで、特に何もされてないから安心して。あと、皆にもその事を教えておいて」


「わかったわ」


「あとどれくらいで全員終わるかな?面接終了後に魔術のプレゼンがあるんだ。あまり時間がかかると、放課後の予定が狂ってしまうから」


「多分後そんなにいないはず、私の後は七人くらいだと思う」


 七人か、それでもまだ掛かるなあ。


「全員の面接が終わっても、俺が戻れるのはしばらくたってからだと思う。もしあれだったら、みんなでギルド地区へ行っててもらっても良いよ」


「わかった。それじゃあみんなと相談する」


「お願いね、なるべく早く戻るから。開発した魔術を皆とも共有したいし」


 ミサキはコクリと頷く。


「じゃあそういう事で。俺は面接部屋の隣の部屋にいるからさ」


 そう言って部屋へ引き返した。


 さて、何をして時間を潰そう。


 机ではなく、ベットに腰かけてそのまま寝そべる。


「収納魔法でも練習するか...」


 別の空間をイメージするって母さんは言ってた。


 これが全然イメージできない。


 別の空間って何だ?


 う~ん、寝そべりながら考えていると、いつの間にかウトウトして寝てしまった。



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