第十四話 学園生活二日目始まる
学園生活二日目、今日は午後から昨日の試験を受けての面接だ。
午前中に東の森で魔物退治をし、急いで学園へ来た。
本当は川で水浴びをして身支度を整えたかったが、思ったより東の森で時間を食ってしまったため、水魔法を自分にかけて汚れを落としてきたのだった。
「若干濡れているから気持ちが悪い」
火を起こして乾かしてきたかったが、そんな時間はなかったのでしょうがない。
教室に入って自分の席(昨日座った)に着くと、隣のティアナが話しかけてきた。
「おはよう!ってもう午後だね。挨拶はこんにちはかな?」
「ああ、こんにちは。って、昨日打ち解けて俺たち友達じゃん。こんにちはって何かよそよそしくないか?」
俺は椅子に座りながらそう返事を返す。
「じゃあ、なんて言うのよ」
「う~ん、よう!とかオッス!とか?」
「私、女の子なんですけど」
ちょっと睨まれる。
「じゃあ、う~ん」
腕を組んで考える。すると、反対隣のミサキが提案してきた。
「ごきげんよう、とかはどう?」
「う〜ん、ミサキは良いとしても、ティアナが言うと違和感が...痛て」
ティアナに頭を叩かれた。
「なんでよ、ってか濡れてない?」
ティアナは頭を叩いた手をローブで拭う。
「ほら、そういうとこ」
ティアナはムッとしてそっぽを向く。
「おはようさん、御三方」
「こんにちは」
ブルーとチカが連れ立ってやって来た。
「オーッス」
「ごきげんよう」
「おっはー」
三者三様で挨拶を返す。
「ミサキちゃん、ごきげんようだなんて、お貴族様みたいだね」
ブルーがミサキを弄りだす。
「ちょっと聞いてよ、ファルモアが私がごきげんようって言ったら可笑しいって言うのよ」
「まあ、ティアナちゃんは元気娘って感じでごきげんようは似合わないかなー」
ブルーも俺に同意してくれた。
「はー、ブルーもそう言うの?ムカつく」
ティアナは、またまたそっぽを向く。
「あれ?大将何か濡れてない?」
「ああ、午前中東の森に行って来たんだ。そこで魔物と戦って血まみれになったから、全身水浴びして来た。乾かす時間がなくて、この有様よ」
そう言って濡れた髪から水滴を取ってブルーに弾く。
「東の森って。冒険者でもないのに、まして一人でか?」
「ああ、そうだよ。ちょっとした好奇心で。でも、討伐した魔物は、そこで知り合った冒険者にあげた。一人じゃ運べなかったから」
「そりゃ勿体ないな、今度はみんなで行ってみようか。俺でも荷物持ち位にはなる」
そう言ってブルーが力こぶを作る。
「はは、ある程度鍛えてからな」
他愛の無い話を五人でしていると、アイラが入室して来た。
「はい、着席してください。これから面接をします」
そう言って面接を始めるのだった。
面接は別棟で行うようだった。
この学園の構造は、校舎がコの字がたになっており、4階建てである。
空から見ると、コの字の上と右側は本棟と呼ばれているが、下側は別棟と呼ばれている。
これは、本棟から直接別棟に入ることが出来ないためだ。
別棟に入るには正門広場から外に出て南側に行き別棟入り口から入るか、中庭から入るしかない。
こうなった背景は、過去に色々あったのだが、それは今は省く。
別棟へは、出席番号順に2名づつ呼ばれ、終わった者が教室に戻ると、次の者が別棟に行く。
戻ってきた者は、今日はこの後なにもない為か、荷物を纏めて教室を離れて行った。
「今日はもう終わりなのかな?面接終わった人達出てってるけど」
十名ほど様子を見ていると、ティアナがそう尋ねてくる。
「わからないけど、こんなに早く終わるなら昨日でも良かったんじゃないかな」
「だよね、終わったらこの後何しようかな〜」
「あ、言い忘れてたけど、今日の放課後はみんなでギルド地区に行こうって話になってる」
「何それ、聞いてない」
「いや、昨日の帰りにそういう話になってさ」
「朝ってか、来たらすぐ言いなさいよ」
二人でそんな事を話していると、ブルーがチカを連れてこちらに来た。
「ちょっと良いか?」
「何だ?」
ブルーが屈んで小声で喋る。
「どうも変だ、みんな教室から出ていく」
「ん?これで終わりだから帰ってるんじゃないのか?」
「いや、今日は面接の後、希望の学科を変更して軽い顔合わせ、そして今後のカリキュラムの説明などがある筈だ」
「つまり、今出ていっている人達は学科を転籍する為に出ていると?」
ブルーは頷き、
「正確に言えばまだ転籍じゃない。俺達はあくまでも希望学科にいるだけで、試験や面接をこなして晴れて所属学科を選ぶんだ」
「まだ授業をしてないから希望を変えれますよって事?」
「まあそんな感じだ。別に後で変えても良いはずだが、最初から授業を聞くほうが良いしな」
まあ確かに。
途中参加より最初から出ていたほうが良いに決まっている。
「で、面接が終わった奴らは皆移動している。これは面接で何かあるんじゃないかと思うんだ」
あの不良教師、難癖でも付けて追い出してるのか?
「俺たちの中で、一番先に順番が回ってくるのはチカだ」
そう言われてチカの表情に緊張が走る。
「何を言われて何をされるかわからないが、ここに残ることを強く希望したほうが良い。でないと追い出されるかもしれない」
チカはコクリと頷く。
「他に何か対策出来れば良いんだか」
ブルーは顎に手を起き悩みだした。
それを見て、みんなで考える。
あの不良教師はなぜ生徒たちを追い出すんだろう?
何か理由があるはず。
昨日の試験が原因か?
何かあったか?
...うーん。
......うーむ。
.........んあー、わからん。
みんなで悩んでいると、いよいよチカの番が来てしまった。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
チカは決意の表情でそう言って別棟へ向かおうとする。
「チカちゃん、先生に無理やり学科を変えられそうになったら、ブルーがバックに付いていると言え。それに、俺達とも魔力の研究をする約束をしたと。何ならついて行こうか?」
そう言うと、ちょっとはにかんで、「大丈夫」と言って、教室を出ていった。
「俺がバックに付いてるって、あんまり効果無いかもよ」
ブルーがそう言って、ミサキの前の席に座る。
先に面接面接をして出ていって空いていた席だ。
「全員追い出すつもりならそうかもな。でもまあ、使えるものは何でも使うさ」
そう言ってお互い笑い合い、チカが戻るまで他愛の無い話をしたのだった。
「おかえり、どうだった?」
戻ってきたチカにティアナが声をかける。
「うん、結論はとりあえず保留だって言われた」
保留ってなんだ?
「面接に学園長がいて、今期の魔術研究·開発学科は高いレベルで授業を進めるとかで、私の試験成績じゃついてこれないって」
へー、ちゃんと試験成績で生徒を振り分けてるんだ。あの不良教師の事だから、てっきり適当に試験でもして、才能ある者がいれば良いな〜くらいのものかと思ってた。
いや、スマンねアイラ先生。
「高いレベルって、どれだけ難しいんだろう」
ミサキが珍しく発言する。
「何でも、安定した魔術行使の為の呪文開発とか、攻撃魔術に偏りがちな魔術開発を生活に応用する研究とか、究極には空間や時間を操る魔術の開発とかをしていきたい見たい」
なんじゃそりゃ、前半二つは何となくわかる。でも、空間や時間を操る魔術ってのはまず無理じゃないか。
あ、でも母さんがやった収納魔法は空間を操るものかも。
「それって基礎が終わってから取り組むことじゃないの?」
ティアナがご尤もな意見を言う。
「私もそう思って聞いてみたけど、学園長もアイラ先生も何か時間がないとか何とかで、研究開発を重点的にやって行くって。今期は、魔術基礎や魔術応用なんかは全部魔術士一般学科で授業するって」
「なら今期は完全に研究開発しかやらない、即戦力しかいらないって事か」
ブルーはそう言って何か考え込む。
「それで、チカはここに残るって言ったんでしょ?」
「うん、みんなと研究する約束をしたって。そしたらファルモア君達と何を話したのか聞かれて、昨日のお茶会の話をしたの」
「それで?」
「その話を聞いた学園長とアイラ先生が何か相談しだして、みんなの話を聞いてから結論を出そうって事になったんだ」
「それで保留か」
チカはコクリと頷く。
うーん、昨日の話を聞いて、即戦力しかいらないって所から保留になるって事は、俺達が何かのキーになってる可能性があるな〜。
考え事をしていると、順番が来たティアナが「次私だから」と言って教室を出て行った。
「もしかしたら俺達が何かこの状況の原因になってるかも」
「どういう事?」
ミサキが尋ねてくる。
「例えば、ティアナの精霊批判とも取れる宣言と魔術行使。あれは魔術士ギルドを揺るがしかねない」
「まあ、それはわかる。わかるけどそれとこの状況に何の関係があるんだ」
ブルーが尋ねてくる。
「何でも西方の魔術士は独自で西方魔術士ギルドを設立させる準備をしているって噂がある。このギルドが二分しかねない所に精霊批判や魔力と言う概念で東方が混乱すると、結構やばそうじゃないか?」
「なるほど、ギルド分裂の噂は俺も聞いたことがある。魔術士の質は東方が優位だが、魔術士の数は西方の方が多い。そこに昨日のデルヴェ王太子の爆弾発言。ギルド本部は、分裂を阻止するために魔術研究で東方独自の魔術を開発して西方を繋ぎ止めたいが、新しい概念でギルド自体が混乱すると、分裂が早まる可能性がある。西方に余計な情報を掴まれたく無いからこの学科から人払いをしていると言う事か」
俺はブルーの説明に頷いて答える。
「私も一応西方の出身だけど」
チカが青い顔で答える。
「情報が漏れるのが不味いんだ、喋らなきゃいけない大丈夫」
そう言って安心させる。安心したかどうかはわからないけど。
「それなら俺達は五人で残れる可能性が高い」
ブルーがそう言う。
「何でだ?」
「多分大将とティアナちん、ミサキちゃんが残ることになってたと思う。凄かったからね。でも、俺たちは昨日カフェで色々聞いて知ってしまった。なら、俺達を今更離してもリスクが分散するから、 一緒に管理する方が良いと思うだろう」
「成程」
「ティアナちゃん含め、まだ面接をしていない俺たちは、昨日何の話を何処まで聞いて知っているかの確認をされると思う。そこで大将達には大げさに、あることない事話してもらえれば、五人纏めてアイラ研で管理する方向になると思う」
俺たちはお互いに見合って頷いた。