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第十一話 明日へ、それぞれの思い

 カフェリユンを出ると辺りは薄暗くなっており、遠くの山に太陽が隠れたばかりというところだ。


「じゃあ、また明日」


 ティアナはそう言って学園地区にあるという自分の家に帰っていった。


 ミサキとチカは、学園の寮に部屋を借りているらしい。一応門限もあるようだが、アイラ研の生徒だと、遅れても...いや、帰らなくても大目に見てくれるらしい。


 あの先生、過去に何をしたんだろう?


 学園寮へ向け四人で連れ立って歩く。一応女の子は送らないとね。


 あ、ティアナは近くだからと固辞されたんだよ。


 忘れてたわけじゃないから。ホントだから。


 そんな事を誰かに言い訳していると、ブルーがポツリと話しかけてきた。


「なあ大将、俺はどうしたら良いだろう?魔術が使えないのに、明日からこのローブを着るのが恥ずかしい...」


 とてもくだらない事だった。


「じゃあどうする?俺はアイラ研でも鎧と刀で出るぞ。お前もそうするか?」


「そうするかな〜。大将がその格好なら、俺も今から武具屋で一式揃えるか」


 そんな話をしながら歩いていると、今度はチカが呟く。


「私も上手く魔術が行使出来ません。やっぱり魔術士然としたローブ姿は恥ずかしいです。どうしましょうか...」


 そんなもんかね?


「なら、チカもお揃いにするか~?」


「...でも、剣術も出来ないです」


 消え入りそうな小さな声だ。


「剣術なんて俺も出来ないぞ」


 ブルーは堂々と宣言する。


 はあ、お前はもう少し謙虚にしろよ~。


「なら剣術は俺が教えてやるよ、これでも一応腕に覚えありだ」


 そう言ってニコッと笑って見せる。


「じゃあ、明日の放課後にみんなでギルド地区に行ってみないか?俺とチカちゃんの武具一式を揃えるのと、魔法の研究に役立ちそうな本とか探しに魔術師ギルドに行ってみるとか」


 良いねー、っとブルーの提案に皆賛成する。ティアナには明日言えばいいだろう。


 そうこうしていると学園前に着いた。学園寮は学園の北側に併設されているらしい。


 ここまでくれば大丈夫と言って、ミサキとチカは寮へ帰っていった。


 さて、後は家に帰るだけだ。


 ブルーと二人でギルド地区へ向かおうとすると、学園内から教師たちが出てきた。


「何だ、まだ残っていたの...か...」


 そう声をかけてきた教師が、俺の顔を見て驚いている。なぜ?


「ああ、ちょっと今後の学園生活について色々話をしていたもので」


 ブルーがニコニコしながら対応する。


「そ、そうか!それなら仕方ないな。でも、もう遅いから早く帰りなさい」


 ブルーを見ても一瞬驚いている。まあ、ブルーはしょうがないよな。


「はい、そうしま...」


 言い終える前に誰かが声をかけてきた...ミュラーさんだ。


「おおファル坊、まだいたのか。俺もこれから帰るから、西門まで一緒に行こうか」


「あ、ミュラーさん。お疲れ様です。いいっすよ、一緒に帰りましょう」


「こら、学園ではミュラー先生と言え」


 そう言って俺に軽く拳骨をくれる。


 その様子を見て、教師たちはまた一瞬ビクッとなっていた。


「じゃあ行くか。では先生方お疲れさまでした」


 ミュラーさんがそう言って俺たちは帰路に就いた。


 しばらく学園の塀沿いに歩く。


 その間、ブルーとミュラーさんがお互い自己紹介をして、ミュラーさんが驚くなんて展開もあり中々退屈しなかった。


 学園の南塀の端まで来てその後南進する、すると、朝にゴロツキ?共を懲らしめた辺りまで来た。


「そういえば今朝、ここで変なのに絡まれて衛兵送りにしたんすよ」


 いつもの口調でミュラーさんに話しかける。


「...やっぱりお前か。式典中に衛兵が来てな、何事かと思ったら、学園生が襲われてそして逆に返り討ちにして衛兵に突き出したなんて話をしてた。一瞬お前の顔がよぎったが、お前は何も言ってなかったから違うかと思ってたらこれだ」


 ミュラーさんはそう言ってため息をつく。


「いやいや、言うも言わないも、ミュラーさんが有無を言わせずに他の学科へ俺を送致するからだろ」


「あー、そんなこともあったな」


「おかげで大変な目にあったんっすよ」


「いやー、お前があんなに暴れるなんて思わないだろ」


「暴れてません、お痛をしただけです。ちょっとあの不良教師に思うところがあったので」


「アイラ先生と面識があったのか?」


「いえ、今日までなかったですよ」


「不良教師ってなんで知ってんだ?」


「ああ、今朝色々あったんですよ。ミュラーさんに会う前と後に」


「??」


 ミュラーの顔に?が浮かぶ。


「ところで、何で俺のお痛を知ってるんですか?」


「ああ、職員会議で報告が上がってな」


 ほう、職員会議ではどんな報告が上がったのやら。


「で、どんな報告が上がったんですか?」


 率直に聞いてみた。


「詳しくは言えんが、お前のことは高く評価されていたよ共通試験の結果でな」


 ほうほう、中々見る目があるねぇ。


「ただ、専攻科試験の報告を聞いて、いたたまれなくなったよ、俺は」


 なぜ?そんなに変な事はしていないはず...いや、思いっきりしたか。


「お前の他にも二人ほどいたな、規格外の怪物魔術士が」


 ブルーも話を聞いてコクコク頷いている。


 ええいますねぇ。でも、俺は魔術士じゃないよ。


「一人は精霊否定論者、もう一人は大火力爆発娘、そしてお前は教師を弄ぶ鎧野郎と。その誰もが我々教師たちより魔術レベルが上で、しかも常識範囲外の魔術を行使する。あの映像を見た教師たちは全員ドン引きだったよ」


 ん?見た?えいぞうってなんだ?


「あ、専攻科試験は時写しの秘宝を使ってたんですか?」


 ブルーがそう尋ねる。


「ああ、これは内緒だ。誰にも言うなよ。特に西方諸国に知られると戦争になりかねない秘宝だからな」


 何だか俺の知らない話をしている。


「ええ、わかりました」


「ファル坊もいいな?」


「俺には何の事かもわかりません」


「なら良い」


 しばらく立ち止まっていたが、歩き出した。


「いいか、明日はアイラ先生にちゃんと謝るんだぞ。やりすぎてすみませんでしたって」


 ふむ、そんなにドン引きでしたか...まいったな、こりゃ。


「アイラ先生泣いてたぞ」


 ミュラーさんがぽつりとそう言う。


 俺とブルーは顔を見合わせて、そして空を仰ぐのだった。




 『学園長室』そう書かれた部屋に老齢な男と妙齢な女が入る。


 学園長とアイラだ。


 学園長は自身の机に、アイラは応接用の椅子に腰を下ろす。


「ああ、アイラ先生、リラックスしてください」


 学園長はそう言って、机の中から葉巻を取り出し火をつける。


 アイラも自分の煙草を取り出して火をつけようとするが、つけずにテーブルに置いた。


「学園長、どうしましょう?あれはギルドの伝説にある、『顕現した精霊』そのものではないかと思ってしまって...」


 アイラはそう言って俯く。


「『顕現した精霊』か...ノーティス家の初代が見たという」


「ええ、魔術士は精霊の力の代行者。それが、精霊の力を必要としないなら、彼らそのものが精霊だと思うしかなくて」


「しかし本人たちは精霊ではないと言っていると」


「はい、少なくともティアナとファルモアは人間だと」


「では、本当に精霊の力は必要ない。となると...」


「魔術士ギルドは混乱の極みになるでしょう。ここら辺の東方はまだ良いとしても、西方の魔術士ギルドは精霊御名において祈祷をしたり、治癒を施したりと、精霊信仰に頼り切って資金集めをしていますから。これが精霊なんかいない、精霊の力は関係ないとなると」


「ギルドが割れる...最悪戦争にもなりかねん」


「ええ、だから、彼らを精霊とするしかないんじゃないかと思うんです」


 二人は頭を抱えてうーんと唸る。


「しかしまあ、まだ世間に知られているわけじゃない。こちらで上手くコントロールして、彼らを導けば...精霊信仰と相対するものではないと」


「そうですね、それと並行してギルドの方も意識改革できれば、うまく共存する事が出来るかもしれません」


 アイラはそう言って、テーブルに置いた煙草に火をつける。


「それでは具体的にどうするかですが、何か案はありますか?」


「先ほどの会議でも言いましたが、彼ら三人と他の生徒を分けます。彼ら以外は他の学科に移ってもらい、私が彼らを囲って外に出さないうちに、この世界の歴史やらギルドの方針やらを叩き込んで、落としどころが見つかるまで手元に置いてコントロールします」


「では、私はギルド側に働きかけるように動きますかな。でも、それには何かしらの成果がなければ聞く耳をもってくれないでしょうが」


「ファルモアが私に使用したあの魔術、あれを私にくれるそうです。あれには使い道があると言っていました。それを私やシエナ先生、学園長などギルド側の魔術士が有効に使用できれば、話を聞いてもらえる取っ掛かりにはなるかと」


「ああ、ファルモア君とアイラ先生がくっついたあれですか...」


 学園長にそう言われ、アイラは少し顔が熱くなる。


「どういう形になるか今後の成果に期待ですな」


「はい」


「それと...」


 学園長が少し言いよどむ。


「ミサキ君でしたかな、もの凄い攻撃魔術を放ったのは」


「はい」


「彼女は今のところ一番危険ですね、今のままでも即戦争に使えます。しかも、彼女一人で中隊規模の魔術士と同等の魔術を行使できそうですから」


 確かに。


 見たことのない魔術だったが、もの凄い火力と手数だった。それに、その後は何でもない涼しい顔をしていた。


 通常、大きい威力の魔術を行使すると、体力が削られ、フラフラするものだ。


「そうですね。西方からこの学園に来たものは、殆ど魔術一般に行っているので、まだ知られてはいないはずです。お恥ずかしながら、私も高威力魔術には自信があります。あれを見た生徒には面接で、まだまだ私の方が上だと吹聴して、他の学科に送り出します」


「そうですね、それが良いでしょう。不本意でしょうが、学園でもアイラ先生の数々の伝説を利用させていただきます。よろしいですね?」


「はい、私のことはどうとでもお使いください」


 アイラは大きなため息を吐く。


「しかし、西方の動きもきな臭くなって来たタイミングで、こちらにも大きなリスクを抱えるなんて」


「リスクなのか、あるいは恩恵となるのか...は、今後の我々次第かもしれませんな」


 学園長はそう言って葉巻を燻らせるのだった。


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