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付き人あらわる

 メイドさん数名に準備を手伝ってもらい、何とか荷造りを終えた私は、屋敷内のサロンにて紅茶で一息ついていた。今夜には家を出てアルバートの元に向かわねばならない。私が一服する間にも、メイド達の手で着々と彼の元に向かう準備が整えられていく。


 私は『ハリエット』としての記憶を掘り出す。この世界では一般的に、婚約してすぐに女性が男性の家に入ることになっている。


 普通は十七歳から二十代前半に婚約を取り決めるのだが、私はそれが格段に早い方なのだ。ファンブックによればフォーマルハウト家からの縁談が事の発端で、伯爵家の一人娘ハリエットは侯爵家からの縁談を断れるはずもなく婚約関係を結んだ、という流れだったはず──そこにどういう内情があったのかは、サブキャラ故に掘り下げられなかったが。切ないね! 


 まあ、でも今は当事者なんだし、そのうち知ることが出来るだろう……多分、きっと。



「失礼致しますお嬢様!」



 アルハリのサブキャラ故の不遇扱いに思いを馳せていると、なにやらハキハキした声が聞こえてきてちょっと驚く。そちらに目を向けると、すらりと背の高い、凛とした美人が佇んでいた。彼女は確か、ハリエットお付きのメイドさんの……


「私、本日よりお嬢様の身辺のお世話をさせていただきます、メラニー・アークトゥルスと申します。お嬢様の学院編入及びフォーマルハウト家へのお嫁入りにも付き添わせていただきます。この度、お歳が同じであることから、僭越ながらお付きとしてお選び頂きました」


 メラニーは綺麗なプラチナの髪をきっちりとシニヨンに纏め、涼し気な翡翠の瞳を顕にしている。その立ち居振る舞いは、まるで剣のようで隙がない。


 そうだ、メラニー……愛称は確かメリー。うん、ハリエットはそう呼んでいた。彼女は確かハリエットがプレイアブルになると一緒に使えるようになる隠れキャラで、拳で戦う系の白魔道士だったっけ。戦闘になると万能だから重宝してたなあ。


 私はそんな過去の経験から、最高最大の好感をもってメラニーに笑顔を向ける。



「お世話になります、メラニー。メリーって呼んでもいい?」

「……っ!……ええ、構いません。お好きにお呼びくださいませ」



 メラニー、もといメリーは一瞬照れ臭そうに目線をそらしたが、すぐにまたきりっとした表情に戻ってしまった。わりと照れ屋さんだったりするのかもしれない。


 こんなにしっかりしているけど、十五歳だもんなあ。仲良くなったら一緒にショッピングとか行けるだろうか。私は彼女がメイドさんである以前に可愛い女の子であることを目の当たりにして、勝手に女友達的な感情を抱き始めた。


 年相応にはしゃぎあったり出来ないものだろうか、私精神はそろそろ三十路だけど。


 他のメイドさんもなんとなく微笑ましそうな顔をして、メリーに「あとは私たちがやっておくから、お嬢様とお話してらっしゃい」的な事を言ってテキパキと動き始めた。


 こんなに若いメイドさんだから、他のメイドさんにとっても妹や娘くらいの感覚だったんだろうなあ。そう考えると、私もなんとなく微笑ましいような気持ちになる。



「編入って、ラクテウス・オルビス学園の? 確かアークトゥルス家は子爵家だったよね」



 ラクテウス・オルビス学園とは、貴族の子供たちが一堂に会し勉学に励むための学び舎である。貴族の子供たちは大抵この学園に編入し、十五歳から十八歳までをこの学園で、しかも寮に入って生活するのである。


 ゲーム設定的な観点で言うと、攻略対象を見つけて共に生活し、好感度を上げるという点で学園ってものは実にお誂え向きの場所なわけで。例に漏れず私とメリーもその学園に編入する手筈となっているのだ。


 メリーはこくりと頷いた。「お嬢様のメイドとして、付き添わない訳には参りませんので」などと付け足して。



「学園には我が愚弟が、麗しき姫君の護衛執事として宛てがわれております。愚弟のことでご不快な思いをされていないか、王女殿下にお聞きしなくてはなりませんし……」



 ああ、セドリック。私は脳裏に件の彼の顔を思い浮かべる。


 プレレガの主人公、シャルロッテのお相手候補の一人で、シャルロッテのお付きの執事だ。星の光の如き銀の髪を緩く三つ編みに纏め、隙のない笑顔を浮かべているエメラルドの瞳の青年。


 彼は確か、子爵家から修行として王家に遣わされているのだと、ファンブックに書いてあったような……なるほど、それがメリーの双子の弟と。確かにそっくりだ。しかし愚弟て。



「お嬢様、ところで、その口調は如何なものかと。伯爵家令嬢たるもの、もう少し上品かつ、可憐なお言葉遣いをなさるべきです」

「ぅえっ?」



 メリーにじとりと睨めつけられて、素っ頓狂な声が出てしまった。そ、そうは言われても、原作のハリエットもこれくらい砕けた口調だったんだけども……!?



「しゃ、社交界ではきちんとそれらしい口調にしているし、学園やフォーマルハウト卿の前では敬語で話すつもりでいるんだけど……」

「急な来客などの時にその口調では、社交界であることないこと言われます。教育がなっていないだとか、姫君のご友人なのにとか」



 あー、そういやシナリオ内でそんなこと、言われてた、か……? どっちかというと、「王女なのにお転婆して!」「口調が高貴じゃない!」「ハリエット嬢を見習え!」云々言われていたのはじゃじゃ馬ヒロイン・王女シャルロッテの方だった気が。


 私はとりあえずあはは、と笑って誤魔化した。そのうちねそのうち。そう適当に言い繕って、静かにメリーから目線を逸らすのだった。


 だってお嬢様口調、わざとらしくなりすぎて恥ずかしいんだもん……!

・メラニー・アークトゥルス

ハリエットの付き人のメイド。ハリエットと同い年の白魔道士。芯も気も強いが、そこには誰よりも主を信頼し心配する優しい一面が隠れている。

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