冒頭[プロローグ]
懐かしい場所、懐かしい風景が、俺の視界いっぱいに広がっている。穏やかで、渋さを感じさせる畳の臭い。そして、懐かしい人の声。俺の隣で笑顔を浮かべる一人の少女。俺はその少女へと視線を向けて、一言声を漏らす。
ーーああー…、ようやく会えた。
ようやく会う事が出来た。ようやく君に、伝えられる時が来た。俺は目尻から、大粒の涙を流す。目の前の少女は、ずっと笑顔でこちらを見ていた。俺は、嬉しさと悲しさがごちゃごちゃになりながらも、その少女と同じように、笑顔を浮かべる。
そして、俺は……、
その少女に寄り添おうとしてーー
□□□
救急車のサイレンの音が、俺の意識を覚醒させる。
ーーなにが起きたんだ?ー
そんな言葉が俺の頭の中で過ぎる。
俺の体のあちこちから、とてつもない程の痛みが生じる。そして、俺は気づく。
ーーあー…、そうだ。
俺は女の子を庇って、車に跳ねられたのか……。
ふと、目を横目に周りを見渡す。
周りには叫ぶ人の声や、俺に声を投げ掛ける人達の声が反響していた。その中には、助けた幼女の姿があった。俺はそれに安心して、その中に散らばる大量の赤い液体を視認する。それが自分の血である事は、容易に理解できた。
救急隊と思われる者が、俺に向けて呼びかける。
救急隊「大丈夫かい、君!?気をしっかり持って!」
重い瞼を必死に支えながら、俺はゆっくりと首肯する。
救急車に乗せられた俺は、車の振動により目を閉じてしまった。必死に俺の耳元で応答を要請する救急隊。だが、やがてそれは俺の中でだんだんと小さくなっていき。俺の意識も、深い闇の中へと吸い込まれていった。
ーーあぁ…、全く………。
ーまだ、誰も幸せに導いてあげれてないのにな…。
そこでようやく、俺は深い眠りについた。
ーそして、
ーそして、
………そして。
気付けば俺は、妖怪に転生していた。
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