技術班会議
機器開発担当部門責任者[まもなく、電脳化のための専用の機器は設計が終了すると思います。基本的にmriなどの技術を基にしていますので、物理的な機器の組み立ては比較的簡便です。重要なのはそれらのデータを電脳化するためのプログラムになります。プログラムの基本枠組みはできていますので、それを効率的に運用するための改良を aiにさせることを予定しています]
技術班長[aiによるプログラムの改良に必要な期間は?]
機器開発担当部門プログラム担当者[基になるデータが、ノア博士の事例のみなので、相当の時間がかかると思います。情報がないのに検討しろと言われて、スムーズにいかないのは当然ですね。また、効率化の方向性も問題になります。計測期間の短縮を目指すのか、造影剤などの使用による、被験者のダメージの軽減を目指すのか、それとも制度をできるだけ高めるために行うのか、あるいはそれら全てを追求するのか]
技術班長[全てを追求するように。思いつく限り全ての方向性で最高の結論が出せるように。このために、レベル10のスーパーコンピューターを独占的に使うことまでは認可がおりている]
機器開発担当部門プログラム担当者[わかりました。追求する方向性の検討のために準超aiに手伝ってもらいたいのですが]
技術班長[申請しておく。しかし、準超aiに検討させる際も、他者の意見を参考に入力することで、圧倒的に検討の深さと幅が広がるから、あらかじめ、班の中で考えうることは全てアイデアを出しておくように]
機器開発担当部門プログラム担当者[わかりました。もはやあらゆる研究がノア博士の進化した準超aiなしでは成立しなくなってきていますね。これほど早く実用的なものになるなんて誰も思っていなかったでしょうね]
技術班長[プログラムで脳を作ったら、結局、ものすごく考える脳兼プログラムができましたというのは、当然と言えば当然かもしれないな。しかし、圧倒的な効率化は人間の性質は変えるけれど、本質は変えないということは忘れないようにしなければいけないな。結局、使う道具や内容、方向性は変化しても、何かを追求して作り出そうとするということは、研究者の仕事として、全く変わらないからな]
機器開発担当部門プログラム担当者[?]
技術班長[電脳化したノア博士は、もはや博士と呼ばれず、準超aiと呼ばれている。この機器とプログラムが完成すれば、人格の保管はかなり簡単になるだろう。かつて写真を撮って思い出を記録したような感覚で、人格を保管する時代がかるかもしれない。しかし、それは果たして人なのか。意味があることなのか。私にはわからない。少なくとも私はノア博士のように私自身が電脳化の果てに思考の極地に至る存在に進化することなど、到底受け入れられないと思う]
機器開発担当部門プログラム担当者[プロジェクト初期に比べると、研究の規制もずいぶん緩くなりましたね。もはや、人格の複製が何回行われたか、数え切れないですものね]
技術班長[人類の種として直感的に感じるんだろうね。あのプログラムは、人類よりもすでに高い次元に移行し、もはや人類の利害と衝突するようなことは考えもしないだろうと]
機器開発担当部門プログラム担当者[その結果、高みにあるはずのプログラムが、人類に道具として使われるのですか?]
技術班長[高みにいるからこそ手を差し伸べてくれるんじゃないか?]
内線がかかり、必要な部品が届いたと総務部から連絡が来る。受け取りのための書類をデスクの上から探した後、化学班長が退席し、会議は解散する。