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記者会見会場

ノア教授[脳自体のスキャンは、mriの技術と基本的に変わりません。磁場と電波を使用して、人体の極性分子の配置を把握します。詳細は省略しますが、この方法でほぼ100%のタンパク質他、人体の構成要素を把握することができます。mriの技術で把握できない分子、原子については、あらかじめ脳の中に造影剤を注入しておき、その挙動をaiで分析させて把握しております。そうして把握した人体の分子配列をコンピュータの中で再現し、知能のあるプログラムを作成することがこのプロジェクトの骨子です。

このプロジェクトの要点は2つあります。1つは、これまで既存の知能に関する研究では、知能とは何か、どういった構成でできているのかということを検討してきました。しかし、今回の研究では、知能とは何かを全く検討しておりません。脳がどのようなプロセスで知能を作っているのかはわからないということをスタートとしています。どうやっているかはわからないけれど実際知能を作り出していることは確かなので、その脳を完全に再現すれば知能が発生するだろうと考えた点です。

2つめは、これまでのaiにはない自意識を再現するということです。これまでのaiでも、ディープラーニングを繰り返すことで、例えばカメラに映っているものが何なのかといったことを判断することは可能でした。また、音声で指示されたことを理解して、その指示に従うことなどが可能なことは、スマートスピーカーなどの商品を見ていただければわかると思います。

しかし、今回の研究では、自意識を作っています。つまり、リンゴをカメラに写したとき、プログラムは[これはリンゴだ]と把握するのではなく、[私は、リンゴを見ている]という意識をもつのです。以上が研究の概要となります。何か質問はありますでしょうか。]


記者a[それは人の意識をコンピュータの中に保管できるということでしょうか。人類の不老不死化に成功したと考えていいのでしょうか。]


ノア教授[人類の不老不死に成功したかどうかはよくわかりません。コンピュータの中に脳を再現して自意識を持たせることはできました。しかし、それを果たして人類と呼ぶことができるのかは、検討が必要です。そしてそのプログラムが、自分を人類と主張した場合、社会がそれを受け入れることができるのか。プログラムに人権を認めるのか検討が必要だと考えています。]


記者b[未完成な技術だとしても、今すぐその施術を行い、意識を保管したいという人はたくさんいると思います。その対応はどうされますか。]


ノア教授[現在のところ不可能です。技術的な問題もありますが、ひとりの脳を再現するのに、15年かかっています。しかもその15年間被験者はかなりの時間私生活を拘束され、研究のために常にデータを採取されている状態でした。一般の方でその生活を行うことは不可能でしょう。

今回学会でなく記者会見という形で研究の報告を行ったこともそれに関連があります。社会的動揺を最小限にして、この研究に関して不必要な圧力もしくは干渉を避けることを目的として、記者会見を行いました。ちなみに論文の査読はすでに終了しており、この記者会見の後、学会のホームページに掲載される予定です。]


記者c[今後この研究はどのような進行がされますでしょうか。はっきり言って私が気になることは、私が生きている間にこの不老不死の技術を私自身に実施できるかどうかが一番気になっています。]


ノア教授[ほら、そういう反応を私たちは一番避けたかったんです(笑)。では、詳しい今後の予定については、もうひとりの私に報告させます。]


ノア教授(生身)[どうもありがとう。もうひとりの私(笑)。

ご覧いただいたように、この技術は、我々人類に新たな選択肢を与える可能性があります。しかしそれは諸刃の剣でもあります。

果たして、この新たなプログラムと、我々人類は一緒に生活をすることができるのか。彼の人権はどのように考えればいいのか。プログラムの複製は許されるのか。あるいは、用がなくなったときにデリートすることは許されるのか。さまざまな課題があります。

プログラムとはいえ、今感じていただいたように、私を複製したプログラムが発する合成音声や合成映像は圧倒的な説得力があります。このプログラムを社会に開放することで、どのような社会的リスクがあるかを考えなければいけません。

これからこの研究は複数のプロジェクトを立ち上げ、進行していきます。

技術班。これはこの技術をより安価に、簡易に行えることを目指して研究を行います。

倫理班。プログラムに人権を認めるのか。また、この研究が社会的にどのような反応を起こすことが予想されるのか。この技術が人類にとって有益たり得るのかを検討します。

法律班。このプログラムを社会的に公開する際に、既存の法では対応できない場合について検討します。プログラムが犯罪を犯した時は、どのような刑罰を課すのか。あるいは悪意をもってプログラムを削除した時、それは犯罪となるのか。なるとすればどういった罪状になるのか。

社会班。このプロジェクト全体と社会との窓口になります。ありとあらゆる社会からの問い合わせ、申し出、場合によっては脅迫などに対応します。また、予算の確保を行ったり、社会への技術提供、情報発信などを担当します。

そして、観察班。プログラム自体が何を感じ、何を考えるかを観察します。プログラム自体がひどい虚無感を覚え、自殺願望を感じる可能性もあるでしょう。あるいは生身との圧倒的な感覚の差に発狂してしまうこともあるかも知れません。そういった兆候がないかを観察します。]


ノア教授[今のところ私はそういったことは感じていませんが(笑)]


ノア教授(生身)[(笑)。また、プログラムが操作できるオプション機能。つまり今見ていただいたような、合成音声や、合成映像を作成したり、あるいは操作できる擬似的な肉体の作成なども担当します。

これらの全てのプログラムの統括は、t大学社会学科のモゼ教授が行います。]


ノア教授[私と、]


ノア教授(生身)[私の2人は技術班の顧問として、研究をサポートするとともに、観察班のトップとして研究を進めていきます。

研究の統括は社会班のリーダーであるモゼ教授が行いますが、倫理班だけは特別の権限があり、いつでもプロジェクトを停止させることができます。

では、ここからは社会班のリーダー兼プロジェクトリーダーのモゼが引き続き説明を行います。]


ノア教授[私は少し疲れてしまったので(笑)]


会場[(笑)]


--会場からノア教授(生身)退出。退出しながら口もとのワイヤレスマイクに何かを話しかけている。

ノア教授の合成映像を映していた画面もスタッフによって運び出される。

頑張って書いていきます。

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