女の子でも二刀流出来ますか
他であげてた物を修正書き足した物です。知ってる人、そんなには居ないと思うけど
拝啓お師匠様
お師匠様のような立派な剣士になりたいと剣の道を志し
いつかは本当に戦う日が来ると覚悟を決めてはいましたが…
まさか初戦の相手が人間ですら無いとは…
目の前に立ちはだかるのは2mを軽く超える巨体に長い腕、巨大な手には鋭い爪が生えている怪物だった。
「女の子でも二刀流、出来ますか?」
青年が振り返ると、そこには小学生くらいの女の子が立っていた。
「…君は剣士になる、と言うことで良いのかな?」
膝に手をついて視線を合わせて話しかける。
「…?」
「もし君に剣士になる覚悟があるのなら、出来る出来ないじゃなく、どうするかだろう?」
「どうするか…?」
「そう、もうやると決めているなら、考えなければいけないのは、実現する方法だ」
「例えば、どこかの流派に入門して極めるとか、大会に出るとか、だと、ルールや規定を守らなければいけないよね。でも、ただ強ければ良いなら細かい事は関係ない」
「別に大会とかそう言うのは興味ないです」
「一般的に二刀流と言うと、定寸の刀に脇差と言う組み合わせだけど、脇差2振りでも良いし、定寸より短い刀もある。もちろん君がムキムキになって、長い刀を2刀振り回しても良い」
「ムキムキ…」
師匠との出会いは小6の頃
その日たまたま日本刀を持って暴れている男に遭遇し、襲われた私の後ろに現れた。
「ちょっと借りるよ」
そう言って、ランドセルに刺さっていた定規とリコーダーを引き抜くと、男と自分の間に入って守ってくれたのだ。
そうだ、あの時も武器ですらない二刀流だった。
「一応、公認の剣士になるための規定もあるから一概には言えないけど、基本的には君次第だ」
10年ほど前、謎の敵性存在が都市を襲い、多大な被害をもたらした事件後、そのバケモノの能力を模倣したバリアシステムの技術が拡散して、銃器による中距離、遠距離攻撃が効かない犯罪者が急増した。それに対抗すべく接近戦特化の戦闘手段として刀剣が見直されるようになったのだった。
学園はそんな世界で剣士を育成し帯刀免許を交付するために作られた。
それはあくまで人間を相手に戦う手段を身に付けるためのものだが。
小さかった女の子は15になり、その学園に入学していた。
中学の3年間、自称弟子として青年の指導を受けていたから、剣の腕は学園の中でも上位に入るくらいにはなっていた。あくまで試合などではなく、実戦形式での実力だが。
「私がなんとかするしかないっすね」
呼吸を整え姿勢を正す。
ここは通学路の途中にある緑地公園。
周りには突然襲われて怪我を負った人、なんとかしようと立ち向かった人たちが既に大勢倒れていた。
傷が酷い人に至っては、生きているかも定かではない。
緊張で膝が震える。
君は自分を誇って良い、何しろ僕の一番弟子だからね
師匠の言葉を思い出して苦笑する。
「私以外に弟子とか居ないっすよね…」
下に着ているセーラー服のカラーをダブルの上着の上に出した制服に、本来はブーツだが、かかとを潰したローファーと言う出で立ち。靴下は履いていない。
背中にクロスさせて背負っていた二振りの、2尺ほどの刀を上に引き抜く。
片方づつローファーを脱ぎ、その足で背後に滑らせる。
もはや戦う意思を示す者が他に無く、敵も真っ直ぐこちらに向かってくる。
次の瞬間、急速に加速する。
速い。
逆刃の刀が三振り付いたような手で引っ掻こうと襲いかかってくる。
思わず引いてしまう。
かろうじて防いだ刀が鈍い音を立ててしなる
物凄い衝撃が全身に響く。頭まで揺さぶられたようになる。
敵の追撃をギリギリで避けてさらに大きく下がる。
姿勢を低くして足の裏を滑らせて、止まる。
衝撃と恐怖で手が震える。
相手の攻撃を凌ぐのは防御の為ではなく、自分の間合いに踏み込むためだ
師匠の教え。
再び姿勢をただし、深呼吸。
相手を睨みつけ、刀を構えて、スッと左足を滑らせて前に出す。
巨大な爪が目の前に迫るが今度はこちらから踏み込む。
右の刀で爪の軌道をそらしつつ、同時に敵の懐に潜り込む。
敵もすかさず次の攻撃を仕掛けてくる。
今度は左の刀の凌ぎで攻撃をそらしつつ鋒で斬りつける。
硬い。並みの剣士では傷つけることも出来ないか、下手をすれば刀を折るほどの硬さ。
二刀それぞれで敵の攻撃をそらし、斬りつける。
始めこそガチガチと鈍い音がしていたが、キンキンと甲高い音に変わり火花を散らす。
心なしか、場所により硬さが違うことを感じ取り、右の刀で大きく切りつけ、左の刀を突き刺す。
突き刺した方も、切りつけた方も引き抜くのは困難と判断して手を離し間合いを取る。
大きく息を吸う。
いつの間にか呼吸が止まっていたらしい。
心臓がバクバク言う。
人間の力で切れる相手とは到底思えなかった。
ダメージで動けない者、恐怖に怯えている者、身動きが取れない者が何人もいる。
自分が逃げたらどうなるか分からない。せめて時間稼ぎをしなければ。
そもそも逃げてどうにかなるのかも分からない。
背負った鞘の先を握り引き抜く。いざという時防御くらいは出来るように補強された特殊な鞘だ。
相手の攻撃をいなしつつ、殴る、避ける、間合いをとる。こちらの攻撃が効いている様子はない。
意識がある人たちの視線を感じる。
見た感じ、相手にスタミナの限界はなさそうだ。
手の感覚が既に無い。
目も霞んできた。
心臓が痛い。
どうすれば勝てる。どこまで頑張ったら勝ち?
友達のみんなの顔が浮かぶ。
どれだけ頑張ったら
みんなに
胸を張って、頑張ったよって言えるかな。
走馬灯か。
そんな事を考えつつも体は敵の攻撃を躱していた。
もはや、どうやって凌いでいるのか自分でも分からなかった。
何か、大切な事を忘れているような気がして来た。
もし、君の身に危険が迫ったら、迷わず私を呼んでほしい
友達の一人、さくらちゃんと呼ばれている長身の少女の言葉が脳裏に浮かぶ。
突然背後に気配を感じて防御姿勢を取るが、受け切れず吹き飛ばされる。
地面を転がりつつも受け身をとって素早く起き上がる。
敵は一体ではなかった。見て分かるだけで5体は居る。
鞘を落としてしまい、もはや敵の攻撃を凌ぐ術もない。
無駄だと承知しつつもその言葉が口から溢れでた。
「助けて、さくらちゃん」
鈍い音とともに血飛沫が空に向かって飛び散った。
「さくらちゃんさんは、なんでさくらちゃんって呼ばれてるっすか?」
「さくらちゃんさん?」
「さくらちゃんはねぇ、出現時に桜吹雪のエフェクトがかかるんだよ」
「出現?」
「エフェクト?」
視界をスローモーションで敵の爪が塞いでいくのを見つめていると、視界の隅を桜の花弁が横切って行った。
季節外れの桜の花びらが舞い散るその先で、敵の腕が斬り飛ばされ血のようなものが噴き出している。
地面をえぐりそのまま振り上げられた刀は、それを手にした少女の身長ほどもある大太刀だった。
「ありがとう、呼んでくれて」
切られた衝撃で吹き飛んだ敵に背を向けて、少女が礼を言った。
「いえいえ、こちらこそ…」
何が起こったのか、理解するまでにしばらくかかった。
「なんでさくらちゃんがありがとうなんすか…」
「もしも君が、知らずに楽しく過ごしているときに、友達がどこかで戦っていたら。迷惑をかけたくないと言って、一人で苦しんでいたら。ある日、遺体もない形だけの葬儀に行くことになったら。君ならどう思う?」
「そんなの」
雨の葬式の記憶が蘇る。
「そんなの、嫌だよ」
「でしょ?」
微笑むと、大太刀を振り上げその勢いで振り返って後ろから襲いかかって来た敵を切り捨てる。
「だから、ありがとう」
長身の少女、さくらちゃんが他の敵に向かっていくのを見ていると、後ろから知らない声が話しかけてくる。
「君は自分を誇って良い」
ハッとなって振り返るが、そこに居たのは知らない少女だった。
「アレと戦って無事だった人間は初めて見たよ。君は本当に強いな」
「そんな事はないっす。現にさくらちゃんは…」
「アレはもはや人の域ではないからな」
よく見るとさくらの周りを舞っている花びらが敵を切り裂いている。
振るう刀の動きももはや長大な大太刀のそれでは無かった。
「力が欲しいか?」
「いや、そう言うの良いっすから」
「ふふふ。まあ良い、彼女に手を貸してやってくれないか」
さくらの後ろに二振りの刀が刺さったままの敵が迫る。
考える間も無く駆け寄り、刺さった刀を握り引き抜くと、光る落ち葉が舞い散り、一瞬、長大な大太刀に変化したように見えた。
握り直すと再び元の2尺ほどの刀二刀に戻っていた。
だが元に戻ったのは見た目だけ、その刀は敵をやすやすと切り裂いた。
気がつくと見知らぬ少女は居なくなり、巻き込まれた人たちとは違う人たちも集まってきていた。
結界か何かが張られていたらしい。
刀を鞘に収めたさくらが近寄ってくる。
6尺はあった刀が3尺ほどになっている。
「えっと、これ…」
「君が持っていれば良いんじゃないかな。余ってたし」
「余って?」
いつの間にか二刀それぞれにイチョウと楓の装飾が入っていた。
聞くと、さくらちゃんの持つ大太刀も、この二振りも、数年前に封印を解かれた霊刀の一部らしく、今まではさくらちゃん1人であの怪物たちと戦って来たそうだ。
「もしも、さくらちゃんに危険が迫ったら、私のことを呼んでくれますか?」
「もちろん」
終わり
最後、どうシメるのが良いのかよく分からないですね、相変わらず