それなのに
海を眺めていたい。私の存在など、ちっぽけに思わせてくれるから。歯止めなく広がっていく悲しみの、もっと先の端に、小さく佇んでいたい。そうすれば、世界の中心が私では無くなるから。
目を背けたい。私とは誰なのか、私とはどんな人間なのか。瞼を閉じて見えるものは、決して見無くても良かったもので、眠りを妨げるその光景こそ、私が私とはぐれさせるものにしてしまうものだから。失わないよう、言葉にして誰かに打ち明けようにも、誰がそれを知りたいのか。いや、私と他人の間がその言葉で満たされるだけで、すり減っていく個体は決して変わらずに居られない。でもそれは、生きているうちは至極ありふれた事なのだ。
なのに何故泣く。
嬉しくても悲しくても、愛を感じても、泣く。
けれどいつでも人を殺せるし、死と人格は遠い。
楽しそうで悩みなどなさそうな人に、幸せかどうか聞いてみたい。私はどうすればいいのか。人の幸せを真似しても、幸せになれるのならば、生きるのは怖くない。いつも自信に溢れていられるだろう。
でもそれならば、私は必要なのか。
心が磨り減るのに、人の言葉に傷付くのに、独りにはなれない。
私は一人で生きていきたい。
だがそこには幸せが無い。
生きることが怖い。