お急がせ便
これは、通信販売が好きなある若い男の話。
「あっちゃー、また不在票か。」
その若い男は、アパートの郵便受けから紙切れを取り出した。
紙切れには「不在票」と書いてある。
通信販売の宅配が、不在の時にやってきたようだ。
「通信販売の荷物、いつも一回じゃ受け取れないんだよな。」
若い男はボヤきながら自室へと入っていった。
若い男は自室に入ると明かりを点け、カバンを置いて上着を脱ぐと、
すぐにパソコンのスイッチを入れた。
「再配達の申し込みをしておかないと。」
宅配便のページを開いて、馴れた手付きで再配達の申込みを終える。
「さーて次の荷物、頼んでおこう。」
若い男は通信販売のページを開くと、注文のボタンを押していく。
そうしていくつかの注文をしていると、ふと若い男の手が止まった。
「・・・ん?なんだこれ。」
その商品の注文ページには、受け取り方法に「お急がせ便」というものがあった。
「お急がせ便?お急ぎ便じゃないのか?
お急ぎ便は、通常の配送より早く届くあれ・・・だよな。」
しかし何度見ても、そこには「お急がせ便」とあった。
「・・・まあいいや。一番早く届くみたいだし、お急がせ便にしよう。」
ボタンを押して、お急がせ便を選択した。
「注文完了。ただいま発送準備中です。」
画面にその言葉が表示されると、ゾクッと嫌な感じがした。
「・・・なんか嫌な感じがするな。あれ?」
若い男はパソコンの画面を見て驚いた。
「発送完了。商品を配達しました。」
パソコンの画面には、そう表示されていた。
「今注文したばっかりなのに、もう到着?まさか。そんなの不可能だ。」
若い男は部屋の中をきょろきょろと見回す。
しかし当然、部屋のどこにも荷物は届いていない。
「部屋の前に置いてあるのかな?それにしても早すぎるけど。」
若い男は玄関のドアを開けて外を確認した。
しかしどこにも荷物は置かれていない。
「・・・間違いかな?」
そうして若い男がパソコンの画面から目を離している間に、
パソコンの画面が切り替わった。
パソコンの画面には、キャップを被った男の姿が映し出されている。
男の姿は、宅配便の配達員のようだ。
そのキャップの男の姿はどんどん大きくなり、
やがて画面いっぱいに映し出されると、そのまま画面から上半身を乗り出した。
キャップの男の上半身は、パソコンの画面から飛び出ると、
蛇のように伸びていく。
そして、玄関から外を見ている若い男に後ろからしがみついた。
「うわ!?なんだ!?どうして人が!?」
キャップの男は、若い男を捕まえると、そのまま引きずっていく。
「た、たすけ・・・!」
若い男は羽交い締めにされ、ずるずるとパソコンの方に引きずられていった。
そうして若い男は、そのままパソコンの画面に吸い込まれていく。
まずは足。
そして腰、お腹。
若い男は必死に抵抗するが、
もう体の下半分以上がパソコンの画面の中に入っている。
パソコンの画面の縁に腕をかけて抵抗するが、すごい力で引きずり込まれていく。
最後は指だけをパソコンの画面の縁にかけて抵抗したが、
やがて力尽きてパソコンの画面の中に吸い込まれて消えていった。
誰もいなくなった部屋に、キャップを被った男の声が聞こえる。
「荷物、やっと一回で受け取ってくれたよ。」
終わり。
ある短編アニメのような雰囲気を表現してみたくて、この小説を書きました。
通信販売でいつも急がされるのは、
配達する宅配業者ばかりのような気がするので、その逆で話を考えてみました。
お読み頂きありがとうございました。