魔法使いしっぺと歌を思い出したノベ姫
向こうでは、黒い帽子をかぶったおそろしい魔法使いが、巨人おっぺに戦いをいどんでいたのです。しっぺとは竜ではなく、あの気味のわるい魔法使いのおばあさんだったのです。
魔法使いの手には、黒い笛がにぎられています。トキは思い出しました。あの笛の音がきこえてきて、わたしは人形に変身してしまったのです。
「世界が狂ってしまったのは、あの魔法使いのせいなのだわ」
くらべると、たしかに巨人おっぺのほうがあつかいやすい相手に思えます。そこで空中をクルクルまわっている影法師にテレパスで、
「着地は、魔法使いの頭のうえよ」とサインをおくると、
「オーライ」の返事。
これで、すこしはおっぺにも勝つチャンスが生まれるでしょう。
トキと影法師とのうごきをよそに、巨人は立ちあがってしっぺにむかいました。しっぺは魔法の笛を剣のように頭上にかかげました。雷光がはしり、おおきな地ひびきがおこり、森のかなたから竜の仲間たちがぞくぞくとすがたをあらわしました。これでは、きずついているおっぺに勝ち目はありません。
しかし、決戦の火ぶたが切られようとしたとき、三角星人の城からうつくしい歌声が春風のようにながれてきたのです。
月よ 月よ 青い月
こよい今夜のふしぎの森を
おまえの光で照らしておくれ
水のめぐみのあの方を
わたしはお迎えいたします
月よ 月よ 青い月
こよい今夜のふしぎの森を
おまえの光で包んでおくれ
歌をわすれたノベ姫が、歌を思いだしたのです。
魔法使いの頭には黒猫の影法師が落下して、その目をはちまきのように縛りました。
「こりゃ。よせ!
よさんかい!」
おっぺは、魔法使いが目かくしをされてもがいているのを首をかしげて見ていましたが、その拍子に魔法使いの帽子がころげて、そのなかから青い月がひとだまのように空にのぼっていったのです。
「しまったあ!
シンジツが逃げたぞお!
逃げろや逃げろ!」
魔法使いしっぺは影法師をふりほどくと、すたこらさっさと逃げだしました。それにつられて竜たちもドンドンドンドンと太鼓の音がとおざかるように退却していきました。