火龍との交渉
「テメェ、いい加減にしろよ? 一人で行かせられるわけねーだろ」
「じゃあ何があっても、あの人に攻撃しないで欲しい。イヤならここで待ってて」
「……しねぇよ」
渋々だがちゃんとそう誓ったのに、さらに「何があっても、だからね!」と念を押される。さっきから、まるで信用されてないみたいに思えて傷つくんだけどな、実際。
そこに、笑いを堪えた声が割って入った。
「あー、そろそろ内輪モメは終わったかぁ? オレ様に話しがあるんだろ、上の個室に来な」
**********************************
そして今、俺の目の前には火龍が悠然と座っている。
見た目は20代後半に見えるが、実際は2000年以上は生きているだろう。火龍の特徴でもある真っ赤な髪は緩いウェーブの短髪だ。真っ赤な瞳、精悍な顔、浅黒い肌、190cmあろうかという長身、口調。全てがあいまって、豪快な印象を醸し出していた。
「で? 坊ちゃん達が二人して、一体何を話そうってんだぁ?」
火龍は試すような笑顔を向けてくる。
ちっ、完全に面白がってるな。……でも、俺も聞きたい、ゼロが一体何を考えてるのか。
散々街を歩き回って、ようやくゼロがこれまでとは違う動きを見せたんだ。きっと、これでゼロの目的が分かるだろう。
黙って見守る俺の横で、ゼロは大きく息を吸って、緊張した面持ちで話し始めた。
「え、と……はじめまして。僕、ゼロっていいます。昨日からダンジョンマスターする事になりました」
はあ!!??
な、な、何、普通に言っちゃってるんだ!? 俺は驚愕でのけぞった。
「へぇ、オレ様のギルドでそれをカミングアウトとは勇気があるねぇ。……殺されてぇのかぁ?」
ニヤリと口の端を上げて、火龍はあからさまに脅してくる。もちろん火龍にしてみれば、軽いジャブと言ったところだろう。それでも十分に肝が冷えた。
ゼロの顔も自然、引き締まる。それでも覚悟を決めたのか、ゼロは一息にこう言い切った。
「実はあなたにお願いしたい事があって来たんです。……僕のダンジョンを、このギルド専用の、低レベル冒険者用の訓練所に出来ませんか?」
それを聞いて、火龍は爆笑しだした。
「おまっ! いきなり核心から話したなぁ! 普通いきさつとかっ、もったいぶるだろー!」
町中に響き渡るんじゃないかという勢いで、火龍はまだ笑っている。どこがこいつのツボだったんだか知らねえが、ゼロもポカンとした表情でただただ火龍を見ていた。
「いやー、悪くねぇ!」
「はぁ」
テーブル越しにバンバンとゼロの肩を叩きながら、火龍はなおも笑っている。俺は……俺は、こっそりと息を吐きだした。とりあえず、問答無用で殺されるわけではないらしいと思えたからだ。
「お前が頼みたい事は大体分かった。そんで、だ。なんでそんな事考えついたのか、順を追って話してみな。話によっちゃあ力になるぜぇ?」
「え? えっと」
爆笑されて緊張が解けたのか、ゼロは、初めて俺と出会った時のように、ヘタレ感丸出しでポツリポツリと話し始めた。
俺に話してくれたように、記憶がない事も異世界から召喚されたようである事も……ダンジョンコアの事まで、洗いざらい話している。
そこまで話していいものかと内心ハラハラしっぱなしだが、ゼロが何をしようとしているのかが分からない以上、止めるわけにもいかない。火龍の機嫌を損ねても死に直結しそうなだけに、俺もおとなしく話をきくしかなかった。
「僕、いきなりダンジョン作って、侵入者殺せって言われても怖いしムリで……」
「なるほどなぁ。お前、戦闘経験なさそうだもんなぁ」
そして、なぜか目の前の火龍も、親身になってゼロの話を聞いている。
ダンジョンマスターと、そのダンジョンを攻略する冒険者たちを束ねるギルドマスターが、穏やかに話してるとか意味がわからねぇんだが。
俺の混乱を他所に、ゼロはボソボソとつぶやくように、それでも必死に話していた。
「でもハクは」
「ハク……? ああ、召喚したダンジョンモンスターってのがコイツなんだな?」
コクリとひとつ頷いて、ゼロが続ける。
「ハクは、龍に進化したいから経験値沢山欲しいみたいだし。僕、なんとか平和に、ダンジョン使って撃退ポイントだけで経験値が稼げないかと思って……」
その言葉に、俺はゼロを二度見した。
まさかゼロ、俺のために経験値を効率良く稼ごうって考えてたのか!?
驚きでゼロを凝視する俺を見て、火龍は面白そうにニヤニヤ笑う。そして、顎をさすりながら少し考えると、素朴な疑問を口にした。
「それで、なんでいきなり訓練所なんて思いついたんだ?」
「今、僕が欲しいから。安全な、駆け出し冒険者用の訓練所」
「なるほどなぁ。で、ギルドなら需要があると踏んだんだな? なぜ俺様のギルドを選んだ?」
「力が足りない依頼は絶対にやらせないって、さっき冒険者の人に言ってたから。他のギルドは、冒険者が怖がっててもキツめの依頼をやらせてた。初心者用の訓練所なんて、他のギルドなら鼻で笑われそうだったし……」
それを聞いた火龍は、またも豪快に笑い出した。