過去
日常会です。気付いたら日常会になってました。
加賀山結が転校してきて早くも1週間が経った。
彼女はこの1週間で学内の男子生徒の羨望の的となり、女生徒からは妬み嫉みの対象になったりもした。
だが相手は祓魔師。手を出せる者など存在しない。
そう、同じ祓魔師以外は。
2人の国家祓魔師は、今日も並んで登校する。
「…銀。クラスでは、もうみんな受け入れてくれた…?」
「え、あぁ、はい。
受け入れてくれるかなとか、考えてた自分が馬鹿に思える程度には、みんなすぐに受け入れてくれましたよ。」
大御門銀。上級以上の魔に単騎で戦いを挑み、苦戦することなく勝利を納めることが出来る数少ない祓魔師。
国家特急祓魔師の1人である。
「…そう。よかった。」
加賀山結の上官に、一応は当たるのだが…
というより殆どの国家祓魔師の上官に当たるのだが、気にする様子もなく、2人は談笑しながら学校までの道を歩んでいた。
「そういえば、むすびさんも凄いですね。
まだ1週間しか経ってないのに、もう僕のクラスにまでファンが出来てますよ…。」
「………。
…正直どうでもいい。」
そんなあっさりと…。というふうにたわいの無い話。
傍から見ても、祓魔師には到底見えやしない。
実際、大御門銀はついこの間まで普通の学生として生活をしていた。
むしろ、普通の学生にしか見えなくて当然なのである。
「あ、それと今日から僕達のクラスの担任が変わるみたいなんです。」
「…この時期に?」
転校してきたばかりの結が言うのもおかしな話なのだが、そもそも彼女も季節外れな時に転校してきている自覚はある。
教師が変わるなんてことも、この時期には普通無いことだった。
「はい…。
…むすびさんは、何も聞いてないみたいですね…。」
ということは、僕関連じゃないんですかね。だったら余計に…。
と、異常性のある話に花を咲かせるふたりは、間もなく学校にたどり着いてしまった。
「…まぁ、私は何も聞いてないからもしかしたら祓魔師関連じゃないかもしれないけど。
おうち帰ったら、聞かせて、ね。」
そう言って学年の違う彼女は、一足先に自分の教室へと行ってしまう。
僕も自分のクラスに向かわなくちゃと、振り返った瞬間…
「ばぁ!!」
「?!?!」
後ろから誰かに突然驚かされる。
「あははは。
ごめんね大御門君。」
「む、紫さん?!
びっくりしたじゃないですか…」
振り向いた銀の視界に入ってきたのは、小柄な銀より更に小柄な女の子。
紫草乃その人だった。
「加賀山さんと登校して来たのが後ろから見えたから、つい驚かせたくなっちゃった。」
「もう。普通に声をかけてくださいよ。
…結構普通にビックリしちゃいましたから。」
ごめんごめん。と、数少ない友人と和気あいあい話をしながら自分のクラスに向かう。
「そうそう。
もうあの事件から1週間経っちゃったけど、お母さんまだ大御門君のことずっと褒めてるんだよ!
…一体何をしたの?」
「な、何をしたのってそんな…
僕はひいらさんには最初の頃とてもお世話になりましたから…。
親と幼なじみ。両方無くして、更に原因である魔すら見つかってないですからね。憔悴していた僕を慰めてくれたのは、試験立会人だったひいらさんだったんです。」
昔を懐かしむかのように話す。
たった1年で肉親と幼なじみの死を乗り越え、魔を討つことに力を注ぐ少年。
どうしても、草乃にはひどく脆く見えてしまった。
「…でも、そんな精神状況でよく100体切りなんてやってのけたよね…。」
「…そ、それは…。」
どうしてなんでしょうねとはぐらかされてしまう。
クラスについたが、授業開始まではまだ時間があった。
話は終わらない。
「大御門君が初めて祓魔師としての力を使えるようになったのって、その時だったんでしょ?
初めて力を使えるようになったばかりなのに、ロークラスだけじゃなくハイクラスまで、試験魔とはいえ単騎で切り伏せたんだ!あの子は英雄になる!
…ってお母さん。
あれから1週間お酒入ったら毎日言ってるの。」
「は、恥ずかしいですねそこまで僕の知らないところで褒められているのを聞くのは…。
でも実際、僕自身どうして突然祓魔の力が出てきたのかもわからないんです。
…ただ、分かっていることは、この力で何とか今度は守り切ろうと。」
もう大切な人を失いたくないから。と、消えそうな笑顔で微笑む銀に、それ以上何も言えなくなってしまった。
そして、始業の鐘が鳴ったのだが、教師が入ってこない。
「あ、チャイムなっちゃった。
私席に戻るね。」
はい。頑張りましょうと銀。
草乃が席に戻った瞬間、ドアが開き、担任が入ってきた。
そう、変わった担任が。
「あー…えっと。皆さん。初めまして。
ホームルームの時間を借りて挨拶させてもらいますね。」
ざわつく教室に入ってきたのは、身長は180位だろうか。銀の頭一つ分、大きく見える。
シュッとした細い線、柔和な顔立ち。
見た目は25歳程度に見えるが、実際はもう少し上なのだろう。
みんながまだざわざわする中、自己紹介を始める。
「僕の名前は、碇武道満と言います。
…漢字で書くと、こんな感じですね。」
と言いながら、黒板に自分の名前を書く。
「…ちょっとした事情があって、前担任だった先生は職を辞されてしまったそうです。
言ってしまえば僕は変わりに用意された人間ですが、精一杯頑張るので宜しくお願いします。」
優しい笑顔でそう挨拶した男。
しかし、クラス全員がそれを聞き余計にざわつく中、1人だけ悟った顔をしているものが。
そう。銀。
「…ドーマンさん…そう言えば教員免許持ってるって…そゆことですか…」
と、ボソリと半笑いで。周りに聞こえない程度の声で呟く。
しかし、少し席の離れたクラスメイトはそれを見逃さなかった。
そのクラスメイトが、手を挙げる。
「…えっと…名簿名簿…
紫、草乃さんですね…。
…ん?紫…?」
決して多くない紫の苗字に、訝しげな顔をする道満。
気にせず質問をぶつける草乃。
「せんせー!先生も、祓魔師何ですか?」
途端、教室内は水を打ったかのように静寂が訪れた。
「…えっと、柊良さんの…?」
「はい。娘です。」
なるほど。と納得したかのように頷く。
「…こんな早くにバレちゃうとは思ってなかったですね。
そうです。実は僕、祓魔師なんです。」
続ける。
「前担任の先生が職を辞すことになったのは事実何ですが、まあ色々あって突然僕にお声がけがありまして…
そこに座っている銀くんとも、もちろん面識がありますよ?
ね?銀くん。」
みんなが一斉に銀の方を向く。
「…むすびさんにすら伝えなかったのは、アレですか。
ドーマンさんの好きな…」
「はい。サプライズ、ってやつです。」
思わず笑ってしまう銀。
それを見て同じく笑う道満。
おいてけぼりの草乃以下クラスメイト数十名。
「はい!ということで、申し遅れましたが私は国家一級祓魔師の、碇武道満と言います。
普通の教師として皆さんとお勉強していくので、よろしくお願いしますね。」
まだ戸惑い冷めやらぬクラスではあったが、それを無視するかのように連絡事項の伝達を始めた道満により、だんだんと静けさを取り戻すのであった。
その日の放課後、銀は結の部屋に呼び出されていた。
徒歩5秒。インターホンを押す。
「…入って。
…ご飯までしか時間ないけど。」
「失礼します。」
「…で、どうだったの。担任。」
ストレートに聞きたいことだけを、自分はベッドに転がりながら、銀は近くに座らせて問いかける。
「あー…そう、ですね。
晩御飯の時にでも、お話しようと思ってるので、それで待ってくれませんか?」
銀からの珍しいお願いに結は、いいよと一言返す。
「……。」
「…え、話は終わりですか?」
「…?
…もちろん」
どうやら本当にそれを聞くためだけに呼び出したようだ。
「あ、ならもうすぐご飯できるでしょうし、今日からドーマンさんも帰ってきましたし、もう下におりましょうか。」
そこで少し表情が変わった結。
しかし振り返ったばかりの銀は気付かない。
「…ドーマン、教員免許持ってた気が…。
…それに今日から…?
…帰ってきたのも今日だし…」
と呟く。
どうかしましたか?と振り返った銀の目に写ったのは、もういつも通りに戻った結の姿だった。
「…何でもない。早く行こう。」
ベッドから起き上がらない結を起き上がらせ、苦笑しながらも手を取り下の階へと一緒に降りていく銀。
結のある種当たり前な考えは、すぐに答えが出ることになるのだった。
とりあえずご飯の話は次で…(伸ばす意味がわからない)