銀色
新連載です!
楽しく書いていきまっしょい
僕の名は大御門銀。
ここ、自然に囲まれたしがない高校の2年生だ。
ブーッ…ブーッ…
机の中で携帯が震える。
「…上級か。厄介だなぁ。
場所は…
…え?ここ?」
刹那、校庭から凄まじい爆音とそれを伴った爆風が窓を打ち付け、窓ガラスが砕け散る。
突然の事態に阿鼻叫喚となる教室の中、僕は廊下に出て逃げようとするみんなの脇をすり抜けて窓を開ける。
「…みんなにバレちゃうけど仕方ない、か。」
腕に括りつけていた紐で髪を縛る。
瞬間、銀を中心に突如光が現れる。
光が収まった時、そこには銀色の帯の軍服を身につけた祓魔師が立っていた。
左肩にはたった一つだけ。黒い星が填められている。
「国家特急祓魔官。大御門銀。討伐任務に当たります。」
そしてそのまま、宙空へと駆け出した。
兵庫県神戸市。
山に囲まれたその学校に、その祓魔師は通っていた。
名を大御門と言い、身長はやや低め。
傍から見てもただの学生に見える。
ただ1点、男子生徒にしては伸びすぎている髪。
その髪は背中の真ん中より更に下まで伸びている。
長さは綺麗に均一に整えられており、前髪も目にかかるかかからないかのあたりで真っ直ぐ切りそろえられている。
成績は至って普通。
運動はかなり出来るほうだが、なにか一つに打ち込んでいるわけでもない。
ただ運動神経にものを言わせているタイプの生徒。
そんな彼にも、特別な点があった。
…昨日起きた、上級による学校の襲撃。
そこで学校の生徒に知れ渡ってしまう。
『大御門銀は、祓魔師である。』と。
ーーーー祓魔師。
世界に蔓延る魔を祓う、戦闘員。
前線に立って戦う者もいれば、他の者の回復に力を注ぐ者もいる。
多種多様な役割が存在する中、銀は戦闘に携わる。
それだけならまだよかった。
銀は『国家特急祓魔官』である。
五級から存在する祓魔師の中でも、特急は異色を放つ存在。
全国にも両手の指で数えられるほどしかいないとされている。
それに、銀の存在は世界に公表されていなかった。
一般教育の家庭を終えていないということで、銀の存在は世界に隠されていた。
だがしかし昨日の一件で世界は銀を知る事となった。
上級を単独で討伐。
紛れもなく特急という強さの証であった。
さて。その彼は今、昨日までと何ら変わりなく通学路を歩いていた。
周りから刺さる好奇の視線。
今まで仲良く喋っていた同級生ですら、恐れから一線引かれてしまう。
(…だからバレたくなかったってわけでもないけど…)
やっぱりバレないに越したことは無かったと誰にも聞こえない声で呟く銀。
否、1人聞こえている者がいた。
「何がバレちゃいけなかったの?」
眠たそうな声がすぐ後ろから飛んでくる。
「…あれ?
…結さん?どうしてここに?」
加賀山結。
違うところの女子高に通っていたはずの彼女は、今は銀と同じ学校の女子の制服を来ていた。
銀の制服の校章が紺なのに対し、結の校章の色は赤。
3年生の印だ。
「今日から転入。って形で飛ばされてきたんだよ。
…多分昨日の一件があったから。ね?」
彼女もまた、国家に所属する祓魔師である。
階級は一級。
相当な実力者である。
…が、普段の彼女からは想像出来ないだろう。常に眠たげな風貌をしており、放っておけば道端ででも立ったまま眠ってしまいそうだ。
むしろ1人でここまで遅刻せずに来れただけ凄いことかもしれない。
「…っていうか、それならそうと早く言ってくれたら良かったじゃないですか。
部屋。隣同士なんですから」
そう。銀と結は隣同士の部屋に住んでいる。
「だって、昨日の晩に突然言われたから…
そんなことより銀。眠い。連れてって。もう限界。」
「…はいはい。」
そう言うなり銀の服の袖を、きゅっ。と可愛らしく握る結。
その後も周りからの視線は未だ気になるもののままだったが、お陰で少し楽に登校できたように思える銀だった。
その日の全校集会。
昨日の『魔』襲撃のことを教壇に立った校長から一通り話をされる。
とはいえ、ほぼ全学年の生徒が知っているが討伐したのは銀である。今更な話ではあった。
そして、次に転入してきたという生徒の紹介に入る。
壇上に上がった女生徒を見て、男女問わず息を呑む声がチラホラと聞こえてくる。
それもそのはず、その女生徒の容姿はかなりレベルの高いものだ。
だが、次に放った言葉が皆を黙らせた。
『…加賀山結。
国家一級祓魔官としてこの学校に転入することになりました。
学年は3年。宜しくお願いします。』
皆が通うここは退魔に携わる学校では、ない。
昨日の襲撃の時、命を落とした者が居なかっただけで奇跡とも言えたのに、その上もう1人祓魔師が赴任してくるとなると、皆疑い始める。
『何かが起こるのではないか』と。
実際問題、こんな辺境の自然に囲まれた地に上級が現れたという話はあまり聞かない。
タダでさえ、今まで共に過ごした友が実は祓魔師だったのだ。
疑心暗鬼になるのも当然。
混乱を抱えたまま全生徒はクラスへと戻り、いつも通りではない空気のまま、いつも通りの授業が始まった。
(…とはいえ、どうしてこうなったかなぁ。)
銀は、今。自分のクラスの教壇に立っていた。
昨日のこと、そして自分が何者なのか。
話してほしいとの声が多かった為である。
今はホームルーム。それが許される時間でもあった。
「…みんなには黙っていてすまなかったと思っています。
本当に、申し訳ありませんでした。」
開口一番。頭を下げた銀に皆が驚く。
それもそのはず。
自分たちは命を救われた立場。
頭を下げなければいけないのは、むしろ自分たちである。
「頭をあげてくれ」「大御門は別に悪くねえよ」「銀くんは私たちを助けてくれたんでしょ?」「こっちこそごめんね」
クラスのみんなから、一様に暖かい言葉を浴びる。
頭をあげる。
「僕は、去年入学するまではみんなと同じでした。
去年の夏。みんなも知る事件がありましたよね。
『魔』による一家殺害事件。
…あれは、僕の家です。」
息を呑む声が聞こえる。
それはそのはず。
昨年の夏。とある一家が『魔』に殺害されるという事件が起きた。
『魔』が現れた場合、すぐさま祓魔師がそこに駆けつけ、討伐にあたる。
しかし、この時『魔』は、その一家を手にかけた後、姿形も残さず消えたのだ。
後には何故か1人生き残っていたその一家の長男が放心状態で膝をついていたという。
この事件。その一家は匿名の家族とされていた。
世に一人残された、彼の身を案じての事だった。
その一人残されたというのが、自分だと言ったのだ。
「…そして、ぼくは何も分からないまま祓魔師となるための試験を受けることになりました。
それが、去年の秋頃の事です。」
銀は、今までにない結果を試験で残した。
科学の力により生み出された擬似的な『魔』を、連続で100体切り伏せた。
『魔』の数が無くなった事で試験は終わったのだが、その中には低級だけではなく、上級も20体混じっていたという。
空前絶後、前代未聞の100体切り。
それは国に大きな衝撃を与えた。
政府は銀をすぐさま国家特急祓魔官に任命し、兵庫を守護する11隊のうちの7番隊を与えようとした。
が、祓魔師の総締め。祓魔局はそれを拒否。
彼はまだ若すぎる。20歳になるまで彼を『特異班』の班長に任命し、経験をつませる。と。
政府は渋々それを承諾。
銀の身柄を祓魔局に任せることにしたのである。
「…そういうわけで、みんなには隠す形になってしまいました。
本当に、ごめん。」
クラス内からは、誰もいないかの如く何も聞こえてこない。
しかしやがて、一人の女生徒が、声を上げた。
名を紫草乃。
親が11番隊の隊長の紫柊良。
その娘だった。
「私たちを守ってくれてありがとう。
…私のお母さんにも詳しく問い詰めなくちゃ。」
その一言にクラスは小さな笑いに包まれる。
草乃の母親が国家特急祓魔官というのは皆が知っている事だった。
こうして銀は、学内に自分の存在を否応なしに刻みつける事となってしまった。
…草乃が家に帰って柊良に問い詰めたところ、銀のことを話してくれたという。
柊良は、自分の娘以外で人のことを褒めないと有名だったが、銀の事を話す時だけは常に褒めていたというのは、また別の話。
読んでくれた方はありがとー!ありがとー!(手を振る)
頑張りますぞ