小豆のフレンチトースト
あれは夜だった。
そう日付が変わる直前のことだった。
本当はずっと毎日心の隅で考えていたことが
偶然にも目の前にあらわれてしまったのだ。
僕はもう大丈夫、と半ば強引に納得していたから
とても悲しくて苦しくて
ああ、そうか、僕のことなんてもう忘れていて
僕が加害者で僕が悪くて
僕のせいで、
実はあの時にはすでに出会っていたのかもしれないなんて
思えば君はスカートなんて滅多に履かない人だった。
だからあの時君を見かけたときに
短いスカートに黒いタイツ、そしてヒール
だなんて違和感があったんだ。
そんな女らしい恰好するようになって
君はいったいどうしてしまったのか。
僕は君を目指して、君みたいになりたくて
生きているのに
君はそう簡単にかわってしまう。
君の媚びない性格とだれの手にも入らないような雰囲気が
大好きだった。
だけど好きなものがたくさんあって
何かに熱中することができる君が。
酒も煙草もたしなんでいて
おまけに珈琲が好きな君だった。
何一つ僕にはわからなかった。
やはり同じものが好きな人がくっつきやすいのだろうか。
僕はある種の疎外感を抱えながら
暗闇の中泣いていた。
髪の毛をむしってみても何も変わらないことは
とっくの昔に知っている。
心配してくれる人も、気づいてくれる人もいないことを
僕は知っている。
腕にほんの少し爪を立てて、ガリっとしてみても
もう数多の痕はつかない。そんな人間になったのだ。
ただ金と時間だけ消費して
迷惑をかけたまま生きていることも知っている。
僕はきっと模範的にならなければならない。
きっと
よかったね、これで肩の荷が下りたよ
お幸せにね。
なんて言えたらよかった。
だけど僕はずっと苛まれたまま
あの時の言葉が空気が表情が
僕を殺す。