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第九十三話「エミリアの告白」

 翌朝、目が覚めると部屋の入り口にはエミリアと大臣が立っていた。


「エミリア様……勝手に勇者様の部屋に入られてはいけません……」

「いいのよ、サシャなら許してくれるはず」


 寝ぼけながら起き上がると、エミリアがベッドに腰を掛けて俺を見つめた。


「おはよう、サシャ」

「おはよう……エミリア。こんなに朝早くからどうしたのかな?」

「一緒にお城の周りを散歩しましょう! 話もしたいの」

「いけませんって……エミリア様!」


 大臣は慌ててエミリアを制止している。散歩か……。昨日、初めてエミリアと知り合ったが、彼女とはより深く知り合いたいと思っていた。仲間達はまだ眠っているが、ルナには声を掛けていこう。朝起きた時に俺が居なければ、ルナはきっと泣き出してしまうだろうからな。


「ルナ……エミリアと散歩に行ってくるからね」

「わかった……」


 気持ち良さそうに眠るルナの頭を撫でると、彼女は眠たそうな声を出して返事をした。俺は鎧は装備せずに、魔族のクリスを腰に差して部屋を出た。エミリアは何故か俺が作った盾を大事そうに持っている。気に入って貰えたなら光栄だ。しかし、こんなに朝早くから散歩とは……。まぁ、たまには良いだろう。


「勇者様。それでは私は陛下の元に戻ります。エミリア様を頼みますよ」

「はい。お任せ下さい」

「サシャ、表に出ましょうか」


 俺はエミリアに手を握られて城を出た。俺達が城から出ると、外で見張りをしていた兵士が二名、後ろから付いてきた。護衛のためだろうか。


 朝の町は静まり返っている。こんなに朝の散歩が気持ち良いとは。心に閊えていた魔王討伐や、本拠地探しの問題が一気に解決して、今はとても気分が良い。これからは王国の復興のために自分の力を使い、ある程度復興したら、陛下から頂いた土地に騎士団の本拠地を建てる。人生の計画は完璧だ。


 町の中を歩いていると、早朝だというのに、魔王軍に破壊された家や建物を修復している市民が何人かいた。俺達は町の中を見て回り、居住区にある公園に入った。


「サシャ、これからどうするつもり? まだ一緒に入られるんだよね」

「そうだね……暫くはアルテミシアに滞在しながら復興を手伝うつもりだよ。俺に何が出来るかは分からないけど……」

「そう……その後はどうするの? 居なくなっちゃうの……?」


 エミリアは俺の手を強く握り、上目使いで俺の顔を見上げた。


「そうだね、陛下から頂いた土地に騎士団の本拠地を構えるつもりだよ」

「そう……サシャは居なくなっちゃうんだ」

「エミリア、俺は居なくならないよ。勇者として、俺はこの地に生きる者を守る義務があると思っているんだ。生きている限り、エミリアともいつでも会えるさ」


 俺はしゃがみ込んでエミリアに視線を合わせた。宝石の様に透き通る青い目が美しい。早朝だと言うのに髪は綺麗にセットされている。金色の髪はシャルロッテさんの様に縦巻きのカールで、いかにも王女といった感じだ。


「サシャ。私ね……こんな状況だけどサシャと知り合えて良かったと思ってるの。もっとサシャと一緒に居たい……サシャの事を知りたいの。城での生活は毎日退屈だし……私、友達って居ないの。昨日のサシャを見ていると、本当に信頼できる仲間に囲まれて、幸せそうだなって思ったんだ……」

「そうだったのか。実は俺も冒険の旅に出るまで、友達は一人も居なかったんだよ。俺は田舎の小さな村の出身だから、同年代の子供も少なかったし、小さい頃から毎日、母さんと畑仕事をしていたから、遊ぶ時間も少なかったんだ」

「そうだったんだね」

「ああ。俺が最高の仲間に出会えたのは、冒険の旅に出てからだよ。旅は俺の人生を大きく変えた。もし、エミリアが友達が欲しいなら、俺がエミリアの友達になろう」


 俺がエミリアを見つめて言うと、エミリアは俺の手を握り、俺の手を胸に当てた。エミリアが随分女性っぽく見える。少しだけ心が高鳴るのは気のせいだろうか……。


「ありがとう。それから一つだけお願いがあるの、私も魔法を使ってみたい。魔法は危険だからってお父様が禁止しているのだけど、サシャから話して貰えないかな……? 魔王軍が町に攻めて来て、私はただ城の中から市民が殺されるのを見ていた。私は自分が無力だという事を初めて知ったの。王族として生まれて、幼い頃から裕福な生活をしてきたけれど、国民を守る事も出来ない私は生きている価値があるのかな。何のための王族なのかなって思ったんだ」


 エミリアは泣きながら俺に心の内を話してくれた。確かに、陛下も同じような事を言っていた。「勇者殿の様に命を懸けて戦ってこそ、真の統治者」だと言っていた。エミリアは城の中から、無残に殺される国民を見ている事しか出来なかった。十歳の子供には、耐えがたい苦しみだっただろう。他人を助けたくても、力が無ければ助けられない。いざ、敵が現れると、役に立つのは王や王女ではない。力のある冒険者だ。実際に敵と剣を交え、命を賭けて民を守るのは王族ではなく、冒険者や王国軍の兵士である。


 愛する人を守るためには力が無ければならない。俺は旅に出て、召喚の力を身に着けたが、毎日の訓練によって自分の力を最大限にまで引き出す方法を学んだ。自分を守るために、仲間を守るためには力が必要だ。どんな人間でも、睡眠時間を削り、徹底的に体を鍛えて、魔法と剣を学べば、大抵の魔物には勝てる様になる。訓練を積めば誰だって強くなれるのだ。


 エミリアが自分の無力さを嘆く気持ちは分かる。俺も長い間、非戦闘民である村人だった。俺は自分の弱さを克服するために、死に物狂いで鍛えた。陛下からエミリアの魔法の使用を許可して貰った方が良いだろう。自分で魔法を学び、訓練を積めばエミリアはきっと国民を守れる魔術師になれるだろう。


「エミリア、陛下には俺から頼んでおくよ。それから、民を守りたい気持ちは分かるけど、人を守るのは力だけではないよ。ゲルストナーの様に人を動かす力、ユニコーンの様に人を癒す力。魔法は相手を傷つけるため以外にも様々な使い方がある。その中から自分が一番、守りたい人の役に立つ魔法を覚えればいいんだよ」


 俺がそう言うと、エミリアは嬉しそうに俺に抱き着いた。


「ありがとう……サシャ。あなたなら私の気持ちを分かってくれると思ったわ。私の初めての友達」

「俺はエミリアの事をもっと知りたいと思っているよ」

「サシャ……」


 エミリア良い子だな。人生で初めて、冒険者以外の友達が出来たのかもしれない。リーシャ村ではサイモンおじさんがいつも遊んでくれたけど、年の近い友達は誰一人いなかった。幼少期の遊びと言えば、畑で土いじりをしたり、裏山に入って獲物を採ったり。それから、手ごろな大きさの木をナイフで削って工芸品なんかを作るのが好きだった。一人遊び好きなタイプの子供だった。


 俺にはエミリアの気持ちが何となくわかる。エミリアは王族として立場もあるから、それなりの身分の人間としか交際出来ないのだろう。歳も近く、勇者の称号を持つ俺が現れて、友達になりたいと思ってくれたのだろう。ありがたいな。エミリアの良い友人になれるように努力しよう。俺達はしばらく散歩を楽しんだ後、城に戻った。

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