第七十七話「ルナとクーデルカ」
〈クーデルカ視点〉 メンバー:クーデルカ、ルナ、エドガー
扉から姿を現したのは魔王だろうか。魔大陸に上陸してから常に感じていた禍々しい魔力。きっとこの男が魔王に違いない。魔王が大広間に入ってきた瞬間、空間の雰囲気が一気に変わった。
「ルナ! クーデルカ! こいつが魔王に違いない!」
魔王は人間の見た目をしており、白髪で年齢は四十代くらいだろうか。右手にはロングソードを持っており、不敵な笑みを浮かべて私達の前に立った。三人で勝てるのかしら。
「ようこそ、我が魔王城へ。私が魔王だ……お前達も私に殺されに来たのか? 今日は来客が多い日だな」
魔王は笑みを浮かべながらも、強い魔力を放出し続けている。魔族の私には魔力の流れがはっきりと分かる。魔王は右手に持った剣にではなく、何も持っていない左手に魔力を溜めている。
「エドガー! ルナ! 魔王の左手に注意して!」
私は魔王に杖を向けて待機した。この部屋の広さならアイスフューリーね。アイシクルレインは狭すぎて使えない。
「ほう。貴様は魔族か? 魔力の流れが読めるのだな」
魔王は左手に溜めた魔法でどんな攻撃を仕掛けてくるのかしら。いいえ、攻撃ではなくエンチャント系の魔法かもしれない。兎に角、油断は出来ないわ。
「しかし、人間以外の訪問者は珍しいな……少しは楽しめそうだ」
魔王は右手に持ったロングソードをエドガーに向けた。エドガーはサーベルに魔力を溜めている。ウィンドブローを使うのかしら。ウィンドブローはエドガーの必殺技。サシャのグランドクロス程ではないけれど、驚異的な攻撃力を誇る剣技。
「お前を最初に殺してやろうか。私はドワーフの様な下等な種族は気に入らん」
「フン! 俺もお前が気に入らねぇ! すぐにあの世に送ってやるぜ! ルナ! クーデルカ! 手を出すなよ!」
「ほぅ。薄汚れたドワーフ如きが、私に勝てるとでも……?」
魔王がエドガーを挑発すると、エドガーはサーベルに込めた魔力を開放した。
『ウィンドブロー!』
エドガーがサーベルを思い切り振り下ろすと、剣からは魔力で作られた鋭い刃が飛び出した。エドガーのサーベルから放たれた魔力の刃は容赦なく魔王に襲い掛かる。魔王は魔力を溜めた左手を体の前に突き出した。まさか、ウィンドブローを片手で受け止めるつもり? おもむろに体の前に突き出した左手に、エドガーが放ったウィンドブローが激突した。
魔王の左手に触れたウィンドブローは、激しい破裂音を立てて一瞬でかき消された。魔王は左手一本でエドガーのウィンドブローを消滅させた。信じられない……。エドガーのウィンドブローはサシャのグランドクロスでやっとかき消せる威力の必殺技。エドガーは自分自身の必殺技をいとも簡単にかき消されて愕然としている。
「下らない技だな。いかにも下等なドワーフが考えそうな品の無い技だ。剣に溜めた魔力を飛ばすだけの簡単な技。そんな攻撃で俺を殺せるとでも思ったか?」
魔王はそう言って、エドガーのウィンドブローそっくりの構えを取った。魔王は右手に持ったロングソードに信じられない程の膨大な量の魔力を込めた。魔王が剣に込めた魔力は、サシャのメテオ、キングのサンダーボルトやヘルファイアと同等な魔力だわ……。
「確か、こんな感じだったな」
『ウィンドブロー!』
魔王がロングソードを振り下ろした瞬間、ルナはレイピアを構えてエドガーの前に立った。
『ウィンドカッター!』
ルナが咄嗟に放ったウィンドカッターは、空中で魔王のウィンドブローと激突して消滅した。凄いわ。私では対処できなかった……。今の攻撃はルナの反応の速度をもってして初めて出来る芸当。エドガーは魔王にウィンドブローをかき消されてから戦意喪失しているみたい。目が虚ろになっている……。まずいわね。実質二対一。実力はきっと魔王の方が上に違いない。
「ルナ! 二人で戦うわよ!」
私とルナは船での移動期間中に常に一緒に行動してきたし、ルナと私の相性は完璧。ルナはウィンドアローやウィンドカッターを使って強制的に相手に防御をさせて、私が防御中の相手の隙を突いてアイシクルレインやアイスフューリーで止めを刺す。ルナは一人でもヘルフリートと渡り合えるほどの剣の達人。私が居なくても十分に強いけれど、ルナが本領を発揮するのは魔術師や召喚士の様な魔法攻撃を得意とする仲間と組んで戦う時。こんな時にサシャが居れば、ルナとサシャならこんな相手……。
「ほう。やっと面白くなってきたな」
魔王は私達との戦闘を楽しんでいるみたい。嫌な奴ね。実力は計り知れないわ。こんな所では絶対に死ねない……。私は早くアルテミス大陸に戻ってサシャと暮らすの。邪魔をする奴は全員殺すまで。私は右手に持ったアイスロッドに魔力を集中させた。