第七十五話「砕かれるストーンゴーレム」
ストーンゴーレムの頭上に漂う冷気の中に、無数の巨大な氷柱を作り上げて攻撃の機会を待つ。氷柱の数は多ければ多いほど良い。一度に大量の氷柱を降らせてダメージを与え、敵に隙を作る。そうすれば仲間がとどめを刺してくれる筈だ。
ストーンゴーレムはエドガーとガーディアンの攻撃を全て防いでいる。ルナはワイバーンの背中に乗り、高速で移動しながらウィンドアローを次々と浴びせている。アルベルトはルナの攻撃に合わせて、魔法の槍を上空から落としている。
流石のストーンゴーレムも全ての攻撃を防ぐ事は出来ないのか、ダメージが徐々に蓄積され、ついに膝を付いた。しかし、まだ体力には余裕があるのだろう。決め手になる一撃がない。
エドガーに目配せをすると、彼はサーベルに強い魔力を込め、一瞬でストーンゴーレムの背後に回り、至近距離からウィンドブローを放った。エドガーの必殺技が命中すると、ストーンゴーレムは地面に両手を付いた。傷口からは魔力が流れ出している。召喚士が注いだ魔力さえなくなれば、ストーンゴーレムは意思を持たない只の石に変わる筈。魔族の魔法を使う時が来た。ストーンゴーレムに左手を向けて魔法を唱える。
『マジックドレイン!』
魔法を唱えると、ストーンゴーレムの体から流れ出た魔力が、全て私の体に吸収された。この魔力をそのままアイシクルレインに注ぐ。上空に浮かぶ無数の氷柱は、更に大きさを増し、強い冷気を放ちながら攻撃の時を待っている。今が攻撃のチャンスだわ。杖を振り下ろし、氷柱をストーンゴーレムに降らせる。
『アイシクルレイン!』
魔法を唱えると、上空に作り上げた無数の氷柱がストーンゴーレム目がけて一斉に落下した。巨大な氷柱は爆音を立ててストーンゴーレムの体に刺さり、石の体はバラバラに砕け散った。思ったより魔法の威力が高かったみたい。
砕けた体からは、召喚士が注いだ魔力が流れ出している。私は再びマジックドレインを使用して魔力を回収した。アイシクルレインで使用した魔力は全て回復出来たみたい。一体どれだけ膨大な魔力を注いでゴーレムを作ったのかしら。
「クーデルカ! よくやったぞ!」
「流石、ボリンガー騎士団の魔術師ですねぇ。とてつもない威力の魔法でした……」
「ありがとう。皆が攻撃の機会を作ってくれたから勝てたのよ」
私はサシャを守る魔術師。石のゴーレムくらい訳ないわ。こんな場所で負ける訳にはいかない。私は早くこの戦いを終わらせて、仲間達との幸せな生活を送る。
「門番は倒したが、これから先は更に厳しい戦いが続くだろう。少し体力を回復させてから進むとしよう」
「そうだな。シャルロッテ、皆に料理を振る舞ってくれるかな?」
「分かったわ、アルベルト」
ルナは直ぐに魔王城に入ろうとしたけど、エドガーとアルベルトが制止した。まずは魔力と体力を回復させ、気持ちを落ち着かせてから魔王城に入る。万全の状態で魔王討伐に挑まなければ、たちまち命を落とすでしょう。魔王との戦いに勝てるかも分からないのだから……。
「ルナ、少し休んでからサシャを探しに行きましょう」
「わかった……」
私は疲れて地面に座り込むルナを抱きしめた。体からはサシャの香りがする……。きっとサシャが寝る時にルナを抱きしめていたからね。ルナは泣きそうな顔をしながら私を見つめている。ルナはまだ幼いのだから、私が守らなければならない。見た目は私と殆ど変わらないけど、ルナは幻魔獣のハーピー。孵化してから急速に成長した訳だから、見た目よりも精神は幼い。
アルベルトとシャルロッテはスープを作り始めた。乾燥させたドラゴンの肉と乾燥野菜、それから薬草を投入して煮込む。二人が作ってくれたスープを飲むと、体が温まり、気持ちが落ち着いてきた。
スープの効果だろうか、ルナの体から感じる魔力が高まり始めた。戦闘で消耗した魔力が回復しつつあるみたい。私達は魔王城の前で休憩をしながら、魔王城攻略の作戦を練り始めた……。