第七十三話「幻獣・オーガ」
剣に炎を纏わせて構える。オーガは拳を構えると、強い炎を纏わせて俺を睨んだ。得意属性が被っているのか。どうやら敵も火属性の使い手の様だ。
俺はシャーロットを守る様に彼女の前に立ち、シールドを構えた。次のオーガの一撃をタワーシールドで受け流し、間髪容れずに大剣で反撃をする。シールドバッシュなら大抵の攻撃の軌道を逸らす事が出来るだろう。
オーガが拳を構えて殴りかかってきた瞬間、俺は左手に持った盾をスイングした。敵の拳を弾くと、オーガの拳を包み込んでいた炎が消えた。すぐに大剣での垂直斬りを放つと、オーガは一瞬で後退した。攻撃に対する反射速度もかなり早い。厄介な敵だな……。
ヘルフリートの剣技、ソニックブローを借りよう。俺は大剣に強い炎を纏わせ、炎を飛ばすように水平斬りを放った。圧縮された魔力の刃がオーガを襲うと、オーガは両手でソニックブローを受け止めた。一体どれだけ頑丈なのだろうか。素手でソニックブローを防いでしまうとは……。
オーガは力づくで魔力の刃を封じ込めようとしているが、攻撃を受けるだけで精一杯なのか、防御が手薄だ。シャーロットは右手に魔力を込め、拳を地面に叩きつけた。瞬間、床からは無数の大鎌が飛び出し、オーガの体を貫いた。
オーガは体中から血を流すと、ついにソニックブローに耐えられなくなったのか、炎を纏う魔力の刃は、オーガの胸部を深々と切り裂いた。辺りに血が飛ぶと、オーガは力なく倒れ込んだ。
全く、驚異的な防御力だな。防御力なら俺のアースウォールと同等だろうか。攻撃力は低い様だが、信じられない強さを持つ魔物だった。幻獣のオーガか。俺が召喚していれば、民を守る神聖な魔物として生まれていただろう。
「サシャ! 勝ったのね!」
「ああ。助かったよ、シャーロット!」
「幻獣って随分弱いのね」
「多分、シャーロットが強すぎると思うんだよ。オーガは十分強かった……」
シャーロットは初勝利を喜んでいる。初めての戦闘で幻獣を軽々と倒してしまうとは。やはりシャーロットは強い状態で生まれているみたいだ。俺やデュラハン、ヘルフリート。それから装備が持つ力を糧に生まれたのだ。ダリルの首飾りや、魔装などの強力なアイテムの魔力を吸収している。レベル自体は低いが、魔法能力は抜群に高い。
それから俺はオーガの素材を回収する事にした。今は召喚のために魔力を使う事は出来ないし、これ以上魔物を増やす訳にはいかない。いつか機会があればオーガを召喚しよう。きっと良い仲間になってくれる筈だ。
「サシャ、その素材はどうするの?」
「いつかオーガを召喚しようかなって思ったんだ。それに、幻獣の素材は高値で取引されているからね、なるべく素材を多く持ち帰りたいんだ」
「そうだよね。団長として、仲間を養っているんだから……」
「ああ。お金が無いために、仲間に貧しい生活を送らせたくないからね。ここで幻獣が倒せたのは運が良かった」
素材にヘルファイアを掛けて肉を燃やし、骨の状態にした。この方がマジックバッグの中でかさばらないからだ。強い魔力を感じる腕や頭骨を鞄に仕舞うと、残りの素材はヘルファイアで燃やし尽くした。魔王城内に幻獣の素材を放置しておくのは危険だと思ったからだ。
しかし、シャーロットは幻獣をも圧倒する魔法能力を持っているのか。魔王と戦う前に、シャーロットの実力を知れて良かった。攻撃力は既にアースウォールで試したから知っていたが、実際の戦闘で実力を発揮出来るかは分からなかった。彼女は強力な敵を前にしても逃げ出さず、恐れる事もなく、適切なタイミングで最高の攻撃魔法を使用した。戦闘時の性格はかなり冷静。魔力を温存しながら幻獣を倒してしまうとは。
召喚時の魔力によって、生まれてくる魔物の性格は決まるのだろうが、ヘルフリートの様に戦況を冷静に判断していた。やはり召喚獣は野生の魔物よりも強い状態で生まれるのだ。同じレベル0のデスが居るならば、強い魔力を糧に生まれたシャーロットの方が、知能も高く、魔法能力も高いだろう。
シャーロットがこの調子で魔物を狩り続ければ、俺の様な人間では到底敵わない最強の魔物に成長するだろう。これからのシャーロットの成長が楽しみだ。
「サシャ、何だかこの部屋は気味が悪いね……」
「そうだね、先に進むとしよう……」
俺は装備の点検をしてから部屋を出た。オーガ以上の強い魔物が居なければ良いのだが……。アルテミシアを守るゲルストナー達は大丈夫だろうか。早く魔王を討伐し、ゲルストナー達に加勢した方が良いだろう。俺達は警戒しながらも、薄暗い魔王城を進み始めた……。