第七十二話「魔王城に潜む敵」
城内を進むにつれ、体には強い魔力が流れてくる。まるで冬の寒さの様な、肌に刺す冷たい魔力が、この先に潜む敵の強さを表している。明らかに幻魔獣クラスの敵が居る。それに、敵の距離もかなり近いみたいだ。
拷問部屋を出て長い通路を進む。日の入らないジメジメした通路を進むと、俺達は大きな扉を見つけた。扉の奥からは俺達を挑発する様な魔力が流れてきている。扉の奥に居る何者かは、既に俺達の存在に気が付いて居るのだろう。
この先に一体どんな敵が潜んでいるのだろうか。扉を開ければ殺されるかもしれない。自分が死なないという保証はない。恐怖で体が震えてきた。絶対に仲間を死なせる訳にはいかないんだ……。
俺がこの戦いを終わらせなければならない。レベルに見合った一流の冒険者になるためにも。アルテミス大陸に住む全ての民を守るためにも。どんな敵だろうが俺が倒すのだ。それに、俺はデュラハンから魔王の討伐を頼まれている。俺が冒険の旅に出て、偶然にも手に入れた力は世界のために使うべきだ。
冒険者とは民を守るために己の力を使う者。自分が授かった数々の力。死ぬ気で鍛え続けた筋力や魔力。俺は強大な敵を倒すために努力をしてきたんだ。俺なら勝てる。そう思う以外に自分を奮い立たせる手段はない。
立ちはだかる敵を倒して進む。俺は今までにも数々の敵を倒し、団長として仲間を守り続けてきた。魔王の強さや、魔王城に潜む敵の強さは、戦わなければ分からない。進むしかないんだ。人生を変えるためには、恐怖を無視し、明るい未来を想像しながら進む。これしかないんだ。
俺は扉を押し開けた。部屋で待ち構えていたのは巨人族の魔物だった。幻獣・オーガだ。幻獣なのにも拘らず、幻魔獣クラスの魔力を体に秘めているのか。厄介な敵だな。
巨大な人型の魔物で、性格は獰猛。知能は高く、武器や防具を巧みに扱い、人間を殺める悪質な生物。皮膚は赤く、頭からは二本の黒い角が生えている。体からは禍々しい魔力を放っており、低レベルの冒険者なら、オーガの魔力を体に受けるだけで気を失ってしまうだろう。
「通りたければ俺を倒せ、無理だとは思うがな」
人間の言葉も理解している様だ。体はブラックドラゴンよりも小さいが、魔力はブラックドラゴンをも遥かに上回る。やはり魔王とは只者ではないのだな。
部屋には人間や魔物の骨が散乱している。骨だけが残っているという事は、肉を喰らったのだろう。なんという事だ。人間を喰らうとは。この魔物だけは生かしておく訳にはいかない。俺は怒りで手が震えた。
人間を殺して喰らう魔物か。俺が葬らなければならないな。オーガは巨大な棍棒を持ち、気味の悪い笑みを浮かべて俺を見つめた。シルフやシャーロットには目もくれず、血走った目で俺だけを見ている。
一撃でこの世から消し去ってやる。人間を殺す魔物は許さない。デュラハンの大剣に雷の魔力を注ぐ。キングの魔法とデュラハンの攻撃魔法を借り、俺自身の魔力を上乗せして最高の攻撃魔法へと作り変える。剣を頭上高く掲げ、魔力を放出しながら振り下ろす。
『グランドクロス!』
大剣からは雷を纏う十字の魔力が飛び出した。十字の魔力は、強烈な雷を散らしながら飛ぶと、オーガは棍棒でグランドクロスを殴りつけた。木の棒で俺の攻撃を防げる訳が無い。俺は勝利を確信した。
グランドクロスは棍棒を木っ端微塵に砕くと、デュラハンの胸部を捉えた。十字の魔力がオーガを部屋の端まで吹き飛ばすと、大きな爆発音を轟かせて消滅した。オーガは口から血を流し、力なく立ち上がった。体には傷一つ負っていない。馬鹿な! 信じられない……グランドクロスを直撃しても生きているとは。
「少しは骨のある奴が現れたか……」
オーガは再び笑みを浮かべると、拳を構え、警戒しながら距離を取った。驚異的な防御能力だな。サンダーボルトのエンチャントを掛けたグランドクロスを喰らっても生きてる。果たして俺はオーガを倒せるだけの力を持っているのだろうか。
俺は剣に炎の魔力を纏わせ、タワーシールドを握り締めた……。