第六十七話「生まれ変わる者」
炎の壁で敵の炎を何とか防ぐ事が出来た。もし俺がヘルファイアを習得していなかったら、今の一撃で命を落としていただろう。危なかった……隣でスケルトンキングの攻撃を受けたヘルフリートを確認する。
俺は彼の体を見た瞬間、恐ろしさの余り震え上がった。ヘルフリートの体は下半身が全て失われている。体は胴から上、左半身と顔だけが残っている。
「シルフ! ヘルフリートに回復を!」
シルフはヘルフリートに回復魔法を掛けたが、炎で失われた体が元に戻る事は無かった。ヘルフリートは力なく微笑んでいる……。
「サシャ。俺は間もなく死ぬだろう……」
「嘘だ……ヘルフリート!」
「肉体は死んでも魂は死なない。俺の力を使え。お前と旅が出来て良かった……お前は俺の力にふさわしい男だ……」
「ヘルフリート! 死ぬなよ!」
「サシャ、俺の手を握れ……」
俺はヘルフリートに言われるまま左手を握った。
「俺の魔力、技、経験。全てを授ける……」
ヘルフリートが呟いた瞬間、爆発的な魔力が俺の体内に流れ込んできた。これが聖戦士、ヘルフリート・フェラーの力か。彼は辺りに魔力を放ちながら、まるで眠りに就く様に息絶えた。死の間際まで柔和な笑みを浮かべていた。
俺は絶対にスケルトンキングを許さない。この世界にスケルトンキングはキング一人で良い。俺はヘルフリートの体に布を掛けた。後で魔王を討伐したら回収するとしよう。ヘルフリートの亡骸を抱えながら魔王と戦う訳にはいかないからな。
ヘルフリートは死んだが、俺の体には彼の力が宿っている。デュラハンとヘルフリート。父、ダリルの力を借りて悪を討つ。俺はデュラハンの大剣に魔力を込めた。
『ソニックブロー!』
ヘルフリートの得意技であるソニックブローを放つ。魔力の刃を飛ばし、スケルトンキングを吹き飛ばした。左手で攻撃を受けたスケルトンキングは、攻撃の威力に耐えられなかったのか、左手は砕け散った。
スケルトンキングは反撃するために、右手に雷の魔力を込めた。サンダーボルトなら俺には通用しない。俺自身がスケルトンキングの固有魔法の使い手だからだ。スケルトンキングは右手から強烈な雷を放出させると、俺は剣に雷を纏わせた。
『ソニックブロー!』
雷を纏う圧縮された魔力の刃は、スケルトンキングの雷撃を切り裂くと、敵の体を捉えた。辺りに強い雷を撒き散らしながら、魔力の刃はスケルトンキングを木っ端微塵に砕いた。随分あっけないな……。
ヘルフリートの仇は取った。俺は涙を堪えながら、彼の遺品であるタワーシールドを拾い上げた。仲間を死なせてしまった……俺がもっと強ければ、ヘルフリートを守れただろう。俺が弱いからいけないんだ。自分自身とシルフを守る事で精一杯だった……。
「サシャのせいじゃないよ」
「俺は仲間を守れなかった……」
「サシャは私を守ってくれた。それに。ヘルフリートは死んでないよ」
「そうだろうか……」
「そうよ。ヘルフリートの力はサシャの体内で生き続ける」
俺はヘルフリートを死なせてしまった。人間は脆いな。こんなに簡単に死んでしまうのだから。俺はヘルフリートの力を受け取った。ヘルフリートは死んでしまったが、彼の力は俺の中で生き続ける。ギルドカードでステータスを確認しておこうか。
『幻魔獣の召喚士 LV100 サシャ・ボリンガー』
魔法:ソニックブロー ショックウェーブ シールドバッシュ
効果:聖戦士ヘルフリートの誓い(攻撃力・攻撃速度・回避速度上昇)
聖戦士のみが使用を許される、ショックウェーブも習得している。レベルが100まで上昇しているが、仲間すら守れなけれないなら、いくらレベルが高くても意味がない。
「サシャ。ヘルフリートは最期まで微笑んでいた。自分の力を渡せて嬉しかったのだと思う」
「だけど、俺がもっと強かったら……ヘルフリートを守れていたかもしれない」
「聖戦士は民を守る戦士。彼だって大陸を守るために命を賭けて戦っていたのよ。それを守れなかったからといって落ち込むのは、彼に失礼だと思うよ」
「それはそうだね……」
「これからヘルフリートの力を使って、彼の代わりにアルテミス大陸を守ればいいじゃない」
ここで弱音を吐いていても状況は変わらない。俺は大陸を守る冒険者。魔王を倒すためにここに来たのだ。仲間達が、全ての民が安全に暮らせる世の中を作るために、命を賭けて戦う。
ここは魔王城の地下だろう。仲間と合流してから魔王を倒したいが、今はそんな余裕は無い。まずは消耗した魔力を回復させ、動揺している心を沈めなければ、これから先の戦いで命を落としてしまうだろう。
俺は地面に座り込み、魔王城攻略のための作戦を練る事にした……。