第六十話「魔王城を目指して」
馬車に乗って港に向かうと、そこには黒い金属から出来た巨大な海賊船が停まっていた。エドガーの子分達が大量の荷物を運び入れている。どうやら荷物の大半はお酒と乾燥肉の様だ。酒樽と大きな肉の塊が次々と運ばれている。
「ボリンガー様! あれがエドガーの海賊船ですぞ!」
「随分大きいんですね。船の上に家が建ちそうです」
「はい。アルテミス大陸で最も大きい海賊船として有名なんですよ。船内には酒場やレストランなどもあり、客室も数え切れない程あります」
「これが旅行だったら良かったですが……」
「そうですね。まぁ、快適に船で移動出来る事は間違いないでしょう」
ワイバーンは俺達の到着に合わせて、エドガーの海賊船の上に着地した。翼を広げ、爆発的な咆哮を上げると、海賊の子分達が青ざめた顔で俺を見た。エドガーはワイバーンの頭を楽しそうに撫でると、ワイバーンはエドガーの顔を舐めた。エドガーの事を気に入っているのだろう。
俺はワイパーンに魔王討伐に行く事を伝えると、彼はもう一度咆哮を上げて返事をした。自信に満ち溢れた表情を浮かべ、俺の体を翼で包み込んだ。
出港の準備が整うと、エドガーは戦士ギルドのマスターを連れて来た。戦士ギルドのマスターは俺の前に立ち、手を差し伸べた。
「俺は聖戦士のヘルフリート・フェラーだ。レベルは57、戦士ギルドのマスターをしている。エドガーとの戦いを見ていたぞ」
「俺はボリンガー騎士団、団長。幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガー。レベルは90です」
「レベル90か。大陸最高レベルの冒険者が同行してくれるとは心強いな。それにしても、戦士の装備を着た召喚士か……面白い! 後で手合わせをしようか」
長く伸びた黒髪に茶色の目。柔和な表情を浮かべているが、体からは強烈な魔力を感じる。全身を覆うプレートメイルを身に着け、タワーシールドとロングソードを背負っている。随分防御力が高そうだ。手には美しい装飾が施されたヘルムを持っている。きっと戦闘時はヘルムを被って戦うのだろう。
ヘルフリートさんは笑みを浮かべて船に戻って行った。強そうだな……。デュラハンの様な底知れない強さを感じる。レベルでは俺の方が勝っているが、きっと戦闘の経験はヘルフリートさんの方が上だろう。戦士ギルドのマスターか。それに、聖戦士という職業も初めて聞いた。並みの戦士ではないだろう。
エドガーと共に船内に入り、部屋に案内して貰った。俺とルナ、クーデルカ、シルフは四人で一部屋使う事にした。部屋は余っているが、皆俺と一緒に居たいと言ったからだ。
室内はかなり広く、浴室も付いており、四人で使っても余裕がありそうだ。荷物を置いてから、暫く休んでいると、シャルロッテさんが迎えに来た。
「皆さん、エドガーがお呼びですよ。自己紹介をするみたいです!」
「分かりました。それでは行きましょうか」
俺達はシャルロッテさんに案内されて、船内の酒場に案内された。酒場には葡萄酒の樽が山の様に積まれており、お酒の瓶も大量に飾られている。簡単な料理も提供しているのか、エドガーの子分の海賊が手際よく料理をすると、テーブルには次々と料理が並んだ。
エドガーが子分に指示をすると、船は走り始めた。シャルロッテさんと共に席に付くと、エドガーはゴブレットに葡萄酒を注いで飲み始めた。緊張を和らげるためだろうか。
酒場には今回の魔王討伐作戦の主要メンバーが集まっている。エドガー、アルベルトさん、シャルロッテさん、ヘルフリートさん。意外と少人数なんだな。少数精鋭で魔王を倒す計画なのだろう。それから船にはエドガーの子分達が二百人近く乗っているらしい。船に対して風の魔法を掛けて、移動速度を強化しているのだとか。
「皆、よく集まってくれた! 俺達はこれから魔王を倒しに行く! 世界のために、王国のために! 俺達が力を合わせれば魔王だって倒せる筈だ。より良いパーティーになるためにも、お互いの事を知る必要がある!」
と言って主要メンバーの自己紹介が始まった。名前、レベル、得意な魔法など。俺はシルフとワイバーンの事も紹介しておいた。
「俺は聖戦士のヘルフリート・フェラーだ。ヘルフリートと呼んでくれ。敬語も必要ない。聖戦士というのは、今回の様な緊急事態にのみ動く戦力だ。アルテミス王国の国王から国の防衛を命じられている。他にも四人の聖戦士がアルテミシアに滞在しているが、聖戦士の中でも一番戦力の高い俺に白羽の矢が立ったのだろう」
ヘルフリートは戦士ギルドのマスターをしながら、国の防衛もしているのか。「一番戦力が高い」と自分で言えるのは、相当自信があるからだろうか? もしかしたら俺はヘルフリートには敵わないかもしれないな。
それから全員が自己紹介をすると、甲板に出て海の様子を見に行く事にした……。