第六話「新装備と卵」
宿を出て夜の露店街に向かった。この町にどんな店があるか知りたかったからだ。この町には召喚獣も随分多いのだろう、武装した魔物を連れている冒険者も居る。流石にスケルトンを連れている人は居ないみたいだ。メイスを片手に俺の後を付いてくるキングを面白そうに指差す人も居る。白骨の体にメイスのみを装備しているからだろうか、少し滑稽に見える。キングのための防具を買った方が良さそうだな。
露店街を回って手頃な価格の武具を扱う店を探した。この町では、低レベルの商人は露店を構え、高レベルの商人は店舗を構えている様だ。レベルを見て歩くだけでも面白い。自分自身が高レベルになってしまい、何の力も無い事が恥ずかしくはあるが、いつかレベルに見合った人間になれば良い。
「サシャ、サシャ」
「どうしたんだい? キング」
「ソコ」
キングが指差す先には一軒の武器屋があった。石造りの立派な建物で、品揃えも多く、今はセール期間中なのだとか。この店に決めようか。店の名前は『シャーローンの武器店』レベル35の鍛冶屋、シャーローン・フィアットという方が経営しているらしい。
店内に入ると暖かい魔力を感じた。武器が持つ力が体に流れる。丁寧に並べられたアイテムを見て回る。ロングソードやショートソード等、一般的な形状の武器から、モーニングスターやククリの様な特殊な形状の武器まで、様々なアイテムが展示されている。防具の種類も豊富で、革製の物から、ミスリルやオリハルコンで作られた高価な防具も展示されている。店主が店の奥で武器を磨いていたので、俺は何かお勧めの防具がないか聞いてみる事にした。
「すみません。スケルトンのための防具を探しているのですが」
「ほう、スケルトン連れとは珍しいな。予算はいくらだ?」
「120ゴールドです。この子に合う防具を選んで頂けませんか?」
「スケルトンの防具を探しに来た客なんて今まで一人も居なかったが……ところで、お前さんのスケルトンはどんな魔法が使えるんだ? 武器や防具は自分の属性、魔法の性質に合った物を使った方が効果が上がるんだぞ」
ギルドカードを取り出してキングの項目を確認する。魔法の欄には、「ヘルファイア」と「サンダーボルト」という魔法が表示されている。これがキングの魔法か。名前から察するに、火属性の魔法と雷属性の魔法だろう。
「スケルトンキングの魔法はヘルファイアとサンダーボルトです」
「なんだって? スケルトンキング? スケルトン族の最上位種、スケルトンの王……人間を遥かに上回る魔力の持ち主で、固有の魔法は攻撃魔法の中でも最強と言われている、あのスケルトンキングか?」
「え? キングってそんなに凄い魔物だったんですか?」
「幻魔獣だろう? どんな幻魔獣も人間を凌駕する魔法能力、魔力を持つと考えて良い。幻魔獣一体で国を一つ滅ぼす程の力を持つと聞いていたが……まさか俺の店に幻魔獣が来てくれるとは!」
店主のシャーローンさんは嬉しそうにキングの手を握った。それからシャーローンさんは俺に深く頭を下げた。
「幻魔獣を手懐ける冒険者にお会い出来るなんて光栄だよ。俺は鍛冶屋のシャーローン・フィアット。レベルは35だ」
「どうも。俺は幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーです」
「幻魔獣の召喚士か……聞いた事もない称号だ。俺は二十五年以上鍛冶屋をしているが、そんなに立派な称号を持った客は初めてだよ。ひょっとして王宮の魔術師か?」
「いいえ、俺は無所属の召喚士です」
「まだ幼いのに幻魔獣を召喚するとは! 天才的な召喚士も世の中には居るんだな」
「いいえ。キングを召喚できたのは偶然ですよ。運が良かったんです」
「運だけでは幻魔獣の様な高位な魔物は味方になる事は無いだろう。そもそも召喚に成功していなはずだ。つい話が脱線してしまったな。スケルトンキングの防具か……魔法の種類から考えると、火と雷に耐性があるに違いない! 少し待っていてくれ」
シャーローンさんはカウンターの奥の倉庫に入った。暫く待つと、金属製のメイルを持ってきた。美しく光り輝く高級そうなメイルで、綺羅びやかな装飾が施されている。派手な見た目とは裏腹に、重量は随分軽い。シャーローンさんの説明によると、水属性の攻撃に耐性があるアイテムなのだとか。値段は120ゴールドだった。
値段が安いのは、シャーローンさんの弟子である見習いの職人が作った物だからだとか。しかし、品質は良く、キングも気に入っている様なので、俺はシャーローンさんに代金を支払って、キングの新たな防具を購入した。これで貯金を殆ど使って仕舞った。更にお金を貯めてから、自分のための防具を購入しよう。新しい防具をキングに着させると、ギルドカードが光り出した。
『幻魔獣 LV3 キング』
種族:幻魔獣・スケルトンキング
召喚者:幻魔獣の召喚士 サシャ・ボリンガー
装備:メイス 水耐性のアイアンメイル
装飾品:霊力のシルバーリング
魔法:ヘルファイア サンダーボルト
武器屋を出た俺達は、露店街を見物しながら宿に向かった。露店で美味しそうなパンがが売っていたので、一つ買って鞄に仕舞った。露店街には本当に様々な露店がある。肉屋に宝飾品店、それから魔法関係の店に服屋など。この町で買い物をすれば大抵の物は手に入るだろう。
数ある店の中でも、俺が最も気になっている店は『幸運の卵ガチャ』という店だ。明らかに胡散臭そうな雰囲気が何とも言えず、この店はただ路上に座り込んで、小さな看板を出しているだけだ。商店街の中でも特に人気が無く、薄暗い場所で違法で店を出している。店の表札を見てみる。
『飼育士 レベル15 フレドリック・ストーム』
レベル15の飼育士か。俺とキングは「幸運の卵ガチャ」の店の前で立ち止まった。地面に置いた木箱の上には、色とりどりの卵が乱雑に載せてある。
「卵ガチャは一回100ゴールドだよ……何が当たっても文句なし。返品もなし」
「これって何の卵なんですか?」
「魔物の卵だよ。種類については教える事は出来ない」
100ゴールドか。魔物を買って育てれば、更に効率の良い狩りが出来るかもしれない。卵は新鮮な物から腐敗が始まりかけている物まで様々だ。しばらく卵を見ていると、キングが一つの卵を指さした。
「コレ……」
「これが欲しいのかい? だって中身が分からないんだから、もしかしたら俺達の敵になる魔物が生まれるかもしれないじゃないか」
「ダイジョウブ」
「キングがそう言うなら良いんだけど……」
キングが指差す先には紫色の卵があった。何の卵かは分からないが、幻魔獣のキングが選んだ卵だ。低級の魔物の卵ではないだろう。自分よりも劣る存在の卵を欲しいと言う訳が無いと思ったので、俺はこの卵を購入する事にした。しかし、手持ちのお金が足りない。
「俺達はこの卵が欲しいのですが、お金がないんです……何かアイテムと交換してくれませんか?」
「それじゃ……そのガントレットと交換でどうかね?」
「このガントレットは大切な物なのでお譲りする事は出来ません。ですがこの指環なら……」
俺はガントレットを外し、指に嵌めていた指環を抜いた。霊力のシルバーリングを店主に渡すと、店主は目を輝かせて指環を受け取った。指環の相場は分からないが、キングが初めて欲しがった卵だ。キングには狩りを手伝って貰っているから、この卵はキングのために買ってあげよう。
俺は紫色の卵を手に取った。卵は人の体温よりも少し暖かい。優しい風の様な魔力を感じる。俺達の支えになってくれる魔物が生まれてくれれば良いのだが。卵をキングに渡すと、目の中の青い炎が嬉しそうに揺れた。卵を大切そうに抱えると、俺とキングは店を後にした。
「他にも色々な卵があったけど、その卵で良かったのかい?」
「ウン……」
「そうか。それじゃ宿に戻ろうか」
「アリガト……サシャ」
「良いんだよ。この卵はきっと特別な物なんだろうね」
明日も早朝に起きて廃坑に行こう。お金を稼がなければ生きていけない。それに、キングの魔法も見てみたい。お金を稼いだら装備を買い足し、防御力を上げなければならない。卵を孵化させる方法も調べなければならないな。魔物に関する本や、幻魔獣に関する本も買いたい。
宿に戻った俺達は、ベッドに横になると、俺とキングは卵を間に挟むようにして眠りに就いた……。