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召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -   作者: 花京院 光
第二章「アルテミス王国編」
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第五十八話「勇者になるために」

 宿の一階にあるレストランに入り、席に着く。これから暫く仲間と別れる事になるんだ。今日はゆっくりと語り合いながら食事をしよう。値段を気にせずに、仲間達が食べたい物を全て注文した。俺は葡萄酒とステーキを頼むと、料理が来るまでクリスタルの召喚について話し合う事にした。


「クリスタル。旅の間は召喚を許可しなかったけど、これからは仲間を守るために召喚魔法を使っても良いよ。ただし、自分の召喚獣は決して死なせてはならない。召喚獣は召喚士の道具ではないからね」

「ついに魔物を召喚出来るんですね! ずっと待っていました!」

「随分待たせてしまったね。これからの人生を共に歩む仲間を召喚するんだ。ゲルストナー、クリスタルの召喚にはどんな魔物が良いだろうか?」

「そうだな、手持ちの素材を確認してみようか。フィッツ町の店を畳んだ時、高価な素材は全てサシャに譲ってしまったが……」


 ゲルストナーは部屋から鞄を持ってくると、魔獣クラスの魔物の素材をテーブルに並べた。彼が店を畳む時、高価な素材は全て俺に譲ってくれたが、魔獣クラスの魔物の素材はいつも持ち歩いている。


 見た事も無い魔物の手や、牙。綺麗に磨かれた角や、液体に浸かった目玉など、様々な魔物の素材が並んでいる。クリスタルは一つずつ素材の持つ魔力を確認すると、彼女は小さな牙を手にした。どうやらガーゴイルの牙の様だ。


「私、ガーゴイルを召喚します!」

「うむ。それは良い考えだな。ガーゴイルは知能も高く、召喚士の命令を忠実に聞く」


 俺はクリスタルのために召喚書を渡すと、クリスタルは召喚書の上に素材を置いた。クリスタルはエイブラハムから頂いた白銀の杖を握ると、目を瞑ってから魔力を注ぎ始めた。旅の間にも、クリスタルは毎日魔法訓練を積んで来たんだ。きっと知能が高く、仲間を守る力を持つ魔物が生まれてくるだろう。


『ガーゴイル召喚!』


 召喚書と素材は優しい光を放つと、光の中からは小さなガーゴイルが飛び出した。肌は大理石の様な色で、頭からは二本の黒い角が生えている。青く澄んだ目に、美しい翼。ガーゴイルは翼を広げて飛び上がると、クリスタルの肩の上に着地した。体からは清らかな魔力を放っており、ルナやキングもガーゴイルに興味を持っている。幻魔獣に認められた魔獣という訳か。


 ルナはガーゴイルの頭を撫でると、ガーゴイルは無邪気に微笑んだ。クリスタルは新たに生まれたガーゴイルを抱きしめると、ガーゴイルはクリスタルの胸に顔を埋めた。


「私はクリスタル。あなたは今日から私の召喚獣よ」

「……」


 ガーゴイルはクリスタルの言葉を理解しているのだろう。小さく頷くと、クリスタルは涙を流して喜んだ。旅の間も、毎日の様に魔物を召喚したいと言っていたからな。やっと召喚魔法を許可する事が出来て嬉しいが、新たに生まれたガーゴイルはこれからアルテミシアを守る事になる。もしかすると魔王の手下とも戦う事になるかもしれない。生まれたばかりで辛い経験をする事になるだろうが、彼にはクリスタルを守って貰おう。


「ガーゴイル。クリスタルを頼むぞ」


 ガーゴイルは微笑みながら頷くと、テーブルに運ばれてきた料理を次々と食べ始めた。俺は肩の上にシルフを乗せて食事を始めた。シルフのために料理を小さく切って渡す。体が小さいから人間の料理は上手く食べられない様だ。


 クリスタルはガーゴイルを膝の上に乗せ、幸せそうに食事をしている。俺は葡萄酒を飲みながら、そんな仲間の様子を眺めている。こうして仲間と食事を出来るのも最後かもしれないな。生きて戻れる保証はないんだ。仲間と過ごせる時間を大切にしよう。


「サシャ。そう思いつめるな。魔王はまだ動き出していないのだろう?」

「それはそうだけど、いつ動き始めるかも分からないし、敵の強さも分からないんだ……」

「サシャ。今までの自分の訓練を信じるんだ。自分と仲間の力を信じ、必ず勝てると思うしかないだろう。正直に言えば、俺はブラックドラゴンとの戦いが恐ろしかった。だが、サシャが居れば必ず勝てると思ったんだ」

「そうだったんだね……」

「うむ。自分と仲間を信じて生きるしかない。魔王は大陸の歴史上、様々な姿で大陸を支配しようとしてきた。実際に魔王に支配されていた時代もある。今より八百年以上も前の時代だがな。しかし、いつの時代にも強い力を持つ者が魔王を討伐してきた。彼等は勇者と呼ばれ、幻魔獣をも凌駕する魔法と戦闘技術を持っていた……」


 魔王とは不当に人間を殺め、大陸の支配を試みる者。アルテミス大陸の歴史上、何度か魔王に支配されていた時代があったらしいが、俺が生きている時代に魔王が生まれるとは不運だな。


 前向きに考えるなら、魔王討伐を成功させれば、真に一流の冒険者になれる。「幻魔獣の召喚士」などという分不相応の称号も、大陸で最高と呼ばれているレベルも、本当の俺の力ではない。旅の間に鍛えた剣の技術と土の魔法、キングから教わった炎と雷で魔王を討つ。俺が生きている時代に、大陸の支配なんてされてたまるか。


「サシャ。俺はお前さんが勇者になるに相応しい人間だと思っているぞ。幻獣のブラックライカンやブラックドラゴンを倒し、盗賊に捕らわれた娘を救出したな。地域を守るために、フィッツ町とアシュトバーン村を配下に居れ、奴隷市では不当に捕らわれた奴隷を開放したな。今までの功績を考えても、俺はサシャが勇者なのではないかと思う時がある」

「そんな、買いかぶり過ぎだよ」

「俺は事実を言っているまでだぞ。俺が十五歳の時とは大違いだ。幻獣や幻魔獣を従え、魔王討伐に乗り出すのだからな。サシャよ、勇者になれ。お前なら出来る」

「分かったよ。俺が魔王を倒す」


 俺がそう言うと、仲間達は大いに盛り上がった。キングは俺の肩に手を置いて微笑んでいる。キングとも暫く別れる事になるのは寂しいな。


 それから俺達は豪華な夕食に舌鼓を打つと、各自の部屋に戻った。俺はシルフとルナを連れて風呂に入る事にした。小さなシルフの体を丁寧に洗い、ルナの翼を石鹸を付ける。二人の体を洗ってから、ゆっくりと湯に浸かって疲れを癒やす。


 まだ旅の疲れもとれていないのに、明日からは魔王城を目指して移動を始める。こんな幸せな時間が続けば良いのだが、魔王との戦いを考えると憂鬱になる。部屋に戻ると、アイリーンは寂しそうに俺を見つめた。


「今日はあたしもサシャと一緒に寝るの」

「そうしようか」


 クーデルカはアイリーンを連れて風呂に入ると、俺はルナとシルフの髪を乾かしながらクーデルカ達を待った。それからクーデルカとアイリーンの髪も拭いてあげると、俺達は五人で一つのベッドに入り、これまでの旅の話や、これから作る本拠地について話し合った……。

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