第五十一話「召喚士ギルド」
俺達は暫くギルド区を見て回った後、召喚士ギルドに到着した。木造の二階建て、建物の屋根の上ではガーゴイル達が昼食を摂っている。ギルドの入り口にはギルドマスターのステータスが表示されている。『召喚士 LV46 アルベルト・ブルクハルト』。俺達はユニコーンを召喚士ギルドの前で待たせ、室内に中に入る事にした。
扉を開けると、本屋の様な空間が広がっていた。壁際には本棚が設置されており、召喚や魔法関係の本が所狭しと並べられている。それ以外にも、召喚のための魔物の素材なども陳列されている。落ち着いた雰囲気で、紅茶の爽やかな香りが漂っている。ここが召喚士ギルドか……。
室内には大きなテーブルが四つあり、一番奥にはギルドマスターと思われる男性が座っている。召喚士達は皆ローブを身に纏っており、俺の様な全身を覆う鎧を装備している者は居ない。明らかに場違いな俺達が室内を進むと、召喚士達が一斉に注目した。
ギルドマスターはテーブルの上で何やら本を書いている様だ。難しい顔をしながら羽ペンを本に走らせている。俺達に気がつくと、彼は顔を上げて俺を見つめた。
「すみません。初めて召喚士ギルドに来たのですが……」
「加入希望者か?」
「加入という訳ではないのですが、クエストに関する情報や、召喚のための素材を譲って頂ければなと思いまして……」
「召喚の素材? そんなに若いのに召喚が出来るのか? 小僧。召喚魔法を舐めているんじゃないか?」
「別に舐めている訳ではありませんが、一応召喚魔法は使えます」
年齢は四十代だろうか。召喚士なのに目の前に居るルナを見ても、幻魔獣のハーピーだという事にすら気が付かない様だ。
「それで、今までどんな魔物を召喚したんだ? まさかスライムやゴブリンの様な低級な魔物を召喚して、召喚魔法が使えると言っている訳ではないよな?」
「建物の外に居る魔物の姿が見えますか? あれは俺が召喚した幻獣のユニコーンです。それから隣に居るのは幻魔獣のハーピー。召喚獣ではありませんが、俺が育てた魔物です。それから、アルテミス王国の外には幻魔獣のワイバーンを待機させており、町には幻魔獣のスケルトンキングも居ます。あとはフィッツ町にも幻獣のミノタウロスが居ます」
「なんだって……? 俺を馬鹿にしているのか? 一人の人間が幻魔獣を三体、幻獣を二体も従えているって? 小僧、からかう相手を間違えるなよ。俺は召喚士ギルドのギルドマスターだ!」
ギルドマスターはふんぞり返って俺を見下ろすと、クーデルカが杖を抜いた。
「サシャが小僧ですって? 魔族の私からすれば、貴方も生まれたばかりの赤子同然。私のサシャを愚弄する行為は許さないわよ」
「あぁまぁ、クーデルカ。落ち着いて」
早めに身分を明かしておいた方が良さそうだな。懐からギルドカードを取り出して見せると、ギルドマスターは愕然とした表情を浮かべた。
「まさか……あなた様が幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガー様ですか? 失礼しました!」
ギルドマスターが急いで頭を下げると、クーデルカは杖を仕舞った。俺の正体を知った召喚士達は、一斉に俺を取り囲んだ。どうやら俺の召喚魔法を研究している人が多いみたいだ。
「俺はボリンガー騎士団団長、レベル90。幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーです。今日はクエストについての情報収集と、召喚のための素材を探しに来たのですが……もし迷惑なのでしたら、すぐに退散しますが」
「迷惑だなんてとんでもございません! 我々のギルドに訪問して下さって、ありがとうございます! 私はレベル46、召喚士のアルベルト・ブルクハルトです。まさか、あの天才召喚士、ボリンガー様にお会い出来るとは、夢のようです!」
「天才ではありませんが、突然の訪問を受け入れて下さってありがとうございます」
身分を明かした途端、態度を変える。こういう人は今まで大勢出会ってきた。やはり、他人はレベルや称号でしか俺を判断しないんだ。レベルが高ければ優遇される世の中は単純で良いが、レベルの高さや称号は飾りでしかない。本当の実力は剣を交えなければ分からないし、レベルが高ければ賞賛に値する人物という訳でもない。レベル至上主義もいかがなものだろうか。
「ボリンガー様の噂は耳にしておりました。幻魔獣のワイバーンや幻獣のユニコーンの召喚に成功した天才召喚士。実は私はボリンガー様の召喚魔法についての本を書いています」
「え? 本ですか?」
「はい! どうぞ御覧ください」
と言って、ギルドマスターは一冊の本を俺に渡した。中を見てみると、故郷のリーシャ村や、配下の村や町、使用可能な魔法や戦い方等、様々な事についてまとめられていた。
「この本は何ですか?」
「私は長年、召喚魔法と魔物の研究をしています。ある日、私はボリンガー様の噂を耳にしました。『十五歳の召喚士が幻魔獣のスケルトンキングを連れて旅をしている』と。しかも、その召喚士は幻魔獣だけではなく、幻獣のユニコーンの召喚にも成功したと聞きました。私はその日からボリンガー様の召喚魔法の研究を始めました」
「俺についての研究ですか。自分の本が書かれているなんて、何とも不思議な気分です」
「迷惑でしたか? 召喚士として、天才的な召喚士の生涯をまとめた本を後世に遺したいと思っているのです」
「迷惑ではありませんが、本の内容には間違いの無いようにお願いします。この部分、『十五歳の天才召喚士』と書かれていますが、天才などという言葉は使わないで貰えると助かります。立派な人間だと思われると生きづらくなるだけなので」
「はい、訂正しておきます!」
自分の本を書かれるのは複雑な気分だ。俺はそれからアルベルトさんに対し、本拠地作りの計画を話した。本拠地を作るためにお金を稼ぐ必要がある事、強力な魔物の素材を探している事を伝えると、彼は俺の言葉を全て書き取った。
召喚士達は本拠地作りに興味があるのか、俺とゲルストナーが考えている、召喚獣と人間が共存出来る村についての説明をした。今ここに集まっている召喚士の心を掴む事が出来れば、本拠地作りがスムーズに進むはずだ。本拠地を作るのは流石に俺達だけでは無理だろうから、協力者を集める必要がある。信頼出来る仲間を集めて、力を貸しても貰おう。
召喚士達は目を輝かせながら俺の話を聞いている。アルベルトさんが葡萄酒を出してくれたので、俺達はゆっくりとお酒を飲みながら語り合う事にした……。