第四十九話「召喚士の実力」
俺はルナとクーデルカ、アイリーンを連れてギルド区に来た。ギルド区には様々なギルドが建ち並んでおり、建物の入り口には「ギルドメンバー募集」の紙が貼られている。俺は興味本位でギルド加入の条件を見てみた。
『戦士ギルド』
種族:人間、又は獣人
レベル:20以上
職業:戦士、剣士などの戦闘系の職業
『魔術師ギルド』
種族:不問
レベル:25以上
職業:魔術師、神官など。回復魔法、又は攻撃魔法に特化した魔法系職業
どんなギルドがあるか見ているだけでも面白い。俺は数あるギルドの中から特に気になるギルドを見つけた。
『海賊ギルド』
種族:船長に気に入られた奴
レベル:強ければ強いほど良い
職業:船長が好きな職業
意味が分からない。全てが船長の判断で決められているのだろうか。ここは何か危険な香りがする……だが、海賊ギルドの建物は、ギルド区のどの建物よりも立派だ。室内を覗いてみると、積み上げられた酒樽や金貨がギッシリ詰まった宝箱が見える。葡萄酒のボトルやエール酒のボトル。武器や装備などが丁寧に並べられている。更に、建物の奥にはお酒を提供するためのカウンターがあり、カウンターの奥には外国のラベルが貼られたお酒がいくつも置かれている。まるで酒場の様だな……。
「サシャ、すごいお酒の量ね。少し分けてもらえないかしら」
「それは無理じゃないかな。海賊ギルドか、一体どんな人がギルドマスターを務めているのだろう」
俺達が室内を覗いていると、背後から巨体のドワーフが現れた。身長は二メートル程だろうか、筋骨隆々、腰にはサーベルを差しており、手にはエールの瓶を握っている。随分酒に酔っているのだろうか、顔を赤らめながら俺の肩に手を置いた。
「小僧! 海賊になりたいのか? それにしても、いい女を連れてるな!」
俺の肩をバンバンと叩くと、全身の骨がきしむ様な感覚を覚えた。信じられない力だ。だが、不思議と嫌な感じはしない。彼の体から感じる魔力が清らかだからだろう。
「別に海賊になりたい訳ではありませんよ。ただ、凄いお酒の量だなと思いまして……」
「小僧も酒が好きなのか? 俺と勝負して勝てたら海賊にしてやってもいいぞ! 酒でも金でも好きなだけくれてやる!」
「え? 酒でも金でもですか?」
「ああ! 俺に勝てたらな! 勇気があるなら挑んでみろ!」
「別に俺は海賊になる気は無いんですが……」
ギルド区には次第に野次馬が増えて、百人以上の冒険者が集まった。きっとこの大男はこの地域で有名な冒険者なのだろう。皆がドワーフの男を応援している。
「船長が喧嘩するぞ!」
「十八年ぶりの喧嘩じゃないか? 確か最後に船長を倒したのは、グラディエーターのダリル・ボリンガーだったよな」
「そうだ。歴戦のグラディエーター。闘技場の王者だよ。どんな魔物が現れても怯む事なく、次々とグラディウスで切り刻む。最強のグラディエーターだった……」
まさか、俺の父が以前この男と戦っていたのか? 信じられない。それに、俺の父は随分知名度があるみたいだ。グラディエーターとして有名だったんだな。父と剣を交えた船長か。ギルドマスターと戦ってみるのも面白いかもしれない。
「どうした小僧? 掛かってこい! 怖気づいたか?」
「俺は勝っても海賊になるつもりはありませんが、お酒とお金は頂きますよ」
「ああ、いいだろう!」
船長はエールの瓶を投げ捨てると、サーベルを引き抜いた。まるでルナのサーペントのレイピアの様な魔力が町に流れ始め、強い風が俺達を取り囲むように吹いた。これが船長の力か……とんでもない相手から喧嘩を売られてしまったのかもしれないな。
「小僧! お前が船長に勝てる訳ないだろう!」
「サシャ、殺したらダメなの。手加減してあげるの」
「馬鹿な……船長相手に手加減だと? こんなガキは五秒も持たないだろう」
「サシャ、私は強い男が好きよ。もし負けたら許さないからね」
クーデルカが俺の耳元で呟くと、俺は無言で剣を抜いた。デュラハンの大剣を右手で持ち、左手に土の魔力を込める。最初から本気で仕掛けなければ、絶対に船長には勝てないだろう。魔力の強さは明らかにブラックライカンを上回っている。圧倒的な威圧感と、隙きの無い構えが恐ろしい。騎士団の団長として、いかなる敗北も許されない……俺は船長と距離を取りながら、ゆっくりと相手の出方を伺った。
「エドガー! お前、もし負けたらギルドマスターを辞めろよ」
「うるさいわい! だまって見ていろ、ヘルフリート!」
戦士ギルドから出てきた白髪の男が船長を挑発した。この男はデュラハンの様な独特な雰囲気がある。かなりの実力者に違いない。魔装クラスの装備を全身セットで着ている。兎に角……せっかく野次馬が増えたんだ、とっておきの技を披露しよう。サンダーボルトの魔力を剣に流す。
『エチャント・サンダーボルト!』
魔法を唱えると、大剣には強烈な雷が纏った。船長は防御の構えを取った。最初の一撃を受けるつもりなのだろう。俺の力を試しているのか? 敵の攻撃をわざわざ受けるとは……俺は随分舐められているみたいだ。睡眠時間を削り、徹底的に鍛え込んだ俺の剣技を放つ!
爆発的な魔力を剣に流した状態で、水平斬りを放つと、船長は俺の剣を受けた。船長はサーベルに魔力を込めてダメージを軽減しようとするも、俺の剣はいとも簡単に船長の防御を崩した。船長は大きく跳躍して後方に下がると、楽しそうに笑みを浮かべた。
「これ程までに強い男はデュラハン以来だ……今度は俺から攻めさせてもらうぞ!」
船長はサーベルを頭上高く掲げ、辺りに爆発的な風を吹かせると、風は一気にサーベルへと流れ込んだ。
『ウィンドブロー!』
船長がサーベルを振り下ろすと、剣の先からは圧縮された魔力の刃が飛んできた。まさか、ウィンドカッターか? これはハーピーの固有魔法の筈だが。この攻撃を剣で受けると事は出来ないだろう。俺は急いで地面に手を付け、土の魔力を放出した。
『アースウォール!』
魔法を唱え、土の壁を作り上げると、風の刃は突風の様な魔力を散らして消滅した。危なかった……きっとルナのウィンドカッターと同系統の魔法なのだろう。威力はルナの方が高いが、船長の攻撃も驚異的な威力だった。俺の父はこんな相手の剣を小さなグラディウスで受けていたのか。
「信じられねぇ! 船長の必殺技を防ぎやがった!」
「何者なんだ? 船長の剣を防ぐとは……!」
俺達の喧嘩を見ていた海賊の子分が驚きの声を上げた。この戦いは長引かせるとまずい。魔力の消費量が多いエンチャントを使いながらアースウォールを使ったせいか、かなりの魔力を消費してしまった。ここは魔族の固有魔法を使う事にしよう。
『マジックドレイン!』
左手を船長に向けて魔法を唱えると、船長の魔力が俺の体に流れ込んだ。瞬間、船長は膝を付くと、微笑みながら俺を見つめた。
「小僧……本当にデュラハンにそっくりだな……あいつを思い出すぜ」
船長はどうやらデュラハンの知り合いなのだろう。俺は次の一撃で勝負を決める事にした。俺は剣に掛けていたエンチャントを解いた。エンチャントを掛けたままだと、確実に船長を死なせてしまうからだ。
『グランドクロス!』
魔法を唱えながら剣を振り下ろすと、デュラハンの大剣からは巨力な十字の光が飛び出した。グランドクロスは船長の体に当たると、強烈な光を放ちながら船長の体を飛ばした。船長は建物に激突すると、頭から血を流し、自分の負けを認めた……。