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召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -   作者: 花京院 光
第二章「アルテミス王国編」
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第四十六話「クリスタルの修行」

 ワイバーンと合流した俺達は、アルテミス王国を目指して馬車を進めた。ルナはワイバーンと競う様に空を飛んでいる。御者台には俺とクリスタルが乗っており、ゲルストナーはクーデルカと共に今後の計画について話して合ってる。キングはお気に入りのメイスを布で磨き、アイリーンは俺の膝に頭を乗せて眠っている。俺はアイリーンの形の整った猫耳を撫でると、彼女は気持ち良さそうに喉を鳴らした。


「師匠。もう間もなくアルテミス王国ですね!」

「そうだね。地図を見る限り、二週間以内には到着出来ると思う。順調に進めたらだけどね」

「アルテミス王国ですか……楽しみだなぁ。私は両親を亡くしてから、ずっとフィッツ町に住んでいたので、あまり他の地域に行った事が無いんです」

「俺もだよ。人生の大半をリーシャ村で過ごしたんだ。こうして旅をしているから、毎日新しい地域を見られて嬉しいよ」

「そうですね! 自分がいかに狭い世界で暮らしていたか、実感します」


 クリスタルは御者台に座りながらマジックシールドの練習をしている。馬車での移動中に、何度かスケルトンやゴブリンと遭遇したが、敵はクリスタルのマジックシールドに阻まれて俺達に襲いかかる事も出来なかった。盾の魔法を相手にぶつければ、対象の移動を阻害する事も出来るみたいだ。


 クーデルカがチーズと乾燥肉を持って御者台に来ると、アイリーンは直ぐに目を醒ました。食べ物の臭いには敏感なのか、アイリーンはクーデルカからチーズを受け取ると、美味しそうに食べ始めた。俺はそんなアイリーンの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに頬ずりした。小さな猫の様でとても可愛らしい。


 アルテミス王国までは約二週間の距離。ゆっくり移動する事にしよう。俺達は特に急いで旅をしている訳ではない。仲間と馬車で移動したり、野営をするのは楽しいからな。それに、移動の最中にも訓練を行えるんだ。こんなに良い環境はない。


 やはり旅に出たのは正解だった。十五歳の誕生日を迎えた日、ほんの少しのお金とショートソードを持ち、父のガントレットを身に付けて旅に出た。リーシャ村を出た事が遥か昔の事の様に思えるが、まだ旅に出て数ヶ月しか経っていない。


 旅に出てから色々な事を学んだ。自分の力でお金を稼いで生きていく事。仲間を守るために己を鍛える事。親元を離れて暮らすのは大変だが、仲間が居るから寂しくはない。毎日忙しくはあるが、これも最高の冒険者になるため。騎士団の仲間を養っていくために、団長として努力を続ける。


 将来の目標がはっきり決まっているから、努力する事が面白い。俺は大陸で最強の冒険者になり、魔物と人間が暮らせる村、騎士団の本拠地を作る。これが俺の人生の目標だ。目標を達成するためなら、寝る時間を削ろうが、体を限界まで鍛え込もうが、苦しくはない。生きる目標を持っているからこそ、努力するための活力が湧いてくる。


 村に居た頃は村人達に守られ、家に居れば母が食事を用意してくれたが、今は自分一人で全てを賄わなければならない。仲間が満足に食事を食べられるように、積極的にクエストを受け、地域を守りながら魔物を狩り続ける。強くなるためにひたすら剣と魔法の訓練を続ける。俺が望んでいたのはこんな生活だったんだ。仲間が誇れる団長にならなけらばならないな……。


「師匠。今日はこの辺りで野営をしませんか?」

「そうしようか」


 森の中で開けた場所を見つけたので、馬車を停めて野営の準備を始めた。いつも通り、俺はアースウォールの魔法で家を作り、キングはワイバーンの背中に乗って獲物を探しに行った。クリスタルとゲルストナーは夕食の支度をし、クーデルカはアイリーンと稽古をしている。


 家造りが終わると、俺は剣の稽古をする事にした。デュラハンから授かった力を使ってみたかったからだ。それに、エンチャントの練習もしたい。


「ゲルストナー! 稽古に付き合ってくれるかな?」

「うむ。良いだろう」


 ゲルストナーと剣を交えるのは随分久しぶりだ。レイリス町で模擬戦を行っていた頃は、毎日の様に剣を交えていたが、最近ではキングと稽古をする事が多かったからな。


「サシャ! いつでも来い!」


 ゲルストナーの防御の構えは隙が無い。大きな体に立派なメイル。長く伸びた美しい金色の髪が風になびき、周囲にはゲルストナーの魔力が流れている。武器を構えている姿がこれ程まで絵になる男はゲルストナー以外に居ないだろう。俺達が稽古を始めると、仲間達が集まって来た。


 俺は大剣を両手で構え、魔力を込めて切りかかった。戦士の基本的な剣技であるスラッシュを放つと、ゲルストナーは俺の剣を受けずに後方に一歩下がり、ロングソードを構えてハックを放ってきた。隙きの無い構えからの高速の突きは、受けるだけで精一杯だ。ゲルストナーの攻撃を間一髪の所で受け、大剣を頭上高く振り上げ、垂直斬りを放つ。ゲルストナーはいとも簡単に俺の剣を受けると、俺の腹部に蹴りを放った。


 やはりゲルストナーは強い。魔力を込めた一撃でさえも、簡単に受け止めてしまう。攻撃の威力なら俺の方が上だろうが、経験が違う。それに、筋力もあるからだろう。彼の剣は一撃が非常に重く、受け止めるだけで体の筋肉を総動員させなければならない。


 俺は新しく覚えたエンチャントを使う事にした。サンダーボルトのエンチャントだ。両手から雷の魔力を放出して大剣に流し込む。


『エンチャント・サンダーボルト』


 魔法を唱えると、大剣からは激しい雷が発生した。ゲルストナーは俺の魔法剣を見て狼狽した。手加減しなければ一撃でゲルストナーを葬ってしまう。威力を最小に弱め、ゲルストナーを傷付けない様にスラッシュを放つ。


 雷を纏う強烈な水平斬りは、ゲルストナーの防御を軽々と崩し、彼の体は遥か彼方まで飛んだ。想像以上の威力だ。かなり魔力を控えた筈だが、これがサンダーボルトの力なのか。


「サシャ、強いな……」


 ゲルストナーはゆっくりと立ち上がると、ユニコーンが回復魔法を掛けた。ゲルストナーの体が銀色の魔力に包まれると、ゲルストナーは直ぐに剣を構えて切り掛かってきた。


 俺はゲルストナーの剣を受けると、グランドクロスを使用する事にした。まるでデュラハンの剣が俺に戦い方を教えてくれる様だ。剣を両手で掲げ、剣に魔力を集中させると、剣からは強い光が発生した。剣を振り下ろしながら魔法を唱える。


『グランドクロス!』


 剣からは巨大な光が発生し、魔力の塊は十字の光へと姿を変えた。グランドクロスはゲルストナーの頬をかすめると、木々をなぎ倒しながら、遥か彼方へ飛んでいった。驚異的な破壊力だな……。


 もし、グランドクロスを使う時にサンダーボルトのエンチャントを掛けていたらどうなっていたのだろう。エンチャントを掛けなくても、幻獣クラスの魔物を一撃で仕留める威力があるのは間違いない。幻獣のブラックライカンなら、確実に今の一撃で仕留められただろう。


「サシャ……凄い威力なの! サシャは最強なの!」

「驚異的な威力だな……きっと今の一撃は俺には防げなかっただろう」


 アイリーンが興奮した様子で駆け寄ってきた。俺も自分自身で驚いている。デュラハンの技と俺の魔力が融合して、最強の攻撃魔法へと進化したのだろう。これからはグランドクロスとメテオを中心に鍛える事にしよう。


「今のサシャならブラックドラゴンも一撃で倒せるだろうな!」

「師匠! 私にも戦い方を教えて下さい!」


 クリスタルは少し怒ったように俺に言った。そろそろクリスタルに戦い方を教える時期だろうか。魔力も増え、防御魔法もかなり上達した。あとは攻撃手段があれば良い。


「サシャ、アースウォールはどう?」

「いい考えだね。アースウォールは防御にも使えるし、槍に作り変えれば攻撃にも使える。土の属性を習得するのも良いかもしれない」

「師匠と同じ属性ですか? 私、挑戦してみます! アースウォールもいつか覚えたいと思っていましたから!」

「それじゃ早速始めようか」

「はい! 宜しくお願いします!」


 俺は今日からクリスタルにアースウォールを教える事にした。最初は小さくて薄い土の壁を作り出す練習をさせよう。


「クリスタル、まずは右手を地面に着けて、土の魔力を感じる。それから頭の中で土の壁を想像し、魔力を込めて魔法を完成させるんだ。魔法は想像が重要だよ。完成形をしっかり頭の中で想像出来れば、魔力によって魔法を作り上げる事が出来る」

「わかりました。挑戦してみますね!」


 クリスタルは暫く土を触りながら、魔法の完成形を想像し、地面に右手を付けた。


『アースウォール!』


 クリスタルが地面に魔力を注ぐと、目の前には背の低い土の壁が現れた。随分薄い土の壁だが、魔法は成功している。クリスタルは土の魔法と相性が良いのだろう。試しにルナが挑戦してみると、土はピクリとも動かなかった。


「凄いよ、クリスタル! 一発で完成させるとは。毎日練習すれば更に大きく、厚い壁を作れる様になるよ。まずは土の魔法に慣れる事。魔法は使い続ければ必ず強くなる」

「分かりました! 今日から毎日練習しますね!」


 クリスタルは初めてのアースウォールに興奮しているようだ。それから夕食までの間、俺とクリスタルはアースウォールの練習を続けた。


「サシャ、クリスタル。食事の用意が出来たわよ」

「分かったよ。クリスタル、続きは明日にしようか」

「そうですね、今日は魔力を使い果たしてしまいました」


 俺達は今日の練習を終えて土の家の中に入った……。

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