第四十三話「炎と雷」
室内に入ると、心地良い魔力と空気が充満していた。暖かい魔力が蔓延しており、大広間とは雰囲気が大きく異る。広い室内には墓があり、まるで何かを封印するかの様に墓の前には剣が刺さっている。黒い金属から出来た大剣は俺を呼ぶかの様に魔力を放っている。
今日はこの場所で野営をする事にしよう。この先、ダンジョンがどれだけ長く続いているか分からない。休める場所で休んだ方が良いだろう。俺はアースウォールの魔法で小さな家を作った。
「師匠! 私は夕食の支度を始めますね!」
「ああ。頼むよ、クリスタル」
「お任せ下さい!」
クリスタルは夕食の支度を始めた。アイリーンとルナは剣の稽古をし、ゲルストナーとキングは墓を調べている。クーデルカは俺と共に室内の探索。
「サシャ、この墓は人間の物ではない。おそらく強い力を持った魔物の墓だろう」
「ゲルストナー。この魔力の感じは、私達魔族のものだと思うわ」
「確かに、クーデルカの魔力と良く似ているが、なぜこの様な場所に魔族の墓があるのだ……?」
「それは分からないけど、うかつに近づかない方が良いと思うの。墓からは強い魔力を感じるから」
「それが良さそうだな。今は体を休めよう」
ゲルストナーはひどく疲れた表情で言った。魔族の墓か。まるで俺を呼ぶように魔力を放ち続けているが、暫く様子を見る事にした。今の疲れ切った状態で、招待不明の墓に近づくのは危険だからな。
今日はブラックドラゴンとの戦闘に、大広間での戦闘。皆よく頑張った。すぐにでも体を休ませ、体力と魔力を回復させなければならないだろう。俺は大広間の戦闘で自分の弱さを思い知った。閉鎖的な空間ではアースランサーとアイアンメイデンしか攻撃の手段がない。二刀流で戦う事も出来るが、剣の技術や威力ならルナやアイリーンの方が勝る。早めに俺だけの戦い方を編み出さなければならないな……。
野外ではワイバーンと連携して、メテオやメテオストームを落とす事が出来るが、自分だけの力ではない。ワイバーンが居なくても、最高の威力の攻撃手段があれば良いのだが。
新しい魔法剣を開発するか。今は土のエンチャントを掛けた魔法剣を使っているが、土のエンチャントはあまり強力ではない。攻撃力だけを考えるなら、炎や雷が良いだろう。この機会にキングから魔法を教わってみようか。俺はキングに炎と雷の作り方を教えてもある事した。炎が出せるようになったら、一人でもメテオやメテオストームが撃てるからだ。
「キング。新しいエンチャントを作るために、雷と炎の出し方を教えてくれないかな?」
「ワカッタ……」
キングは静かに頷くと、両手に魔力を込めて、左手には炎を、右手には雷を作り出した。魔法の属性には波長がある。果たして人間の俺が、幻魔獣の固有魔法を習得出来るかは分からないが、試してみる価値はあるだろう。
俺はキングの魔力を感じながら、両手に魔力を込めた。精神を集中させながら、キングの属性を忠実に再現する。ヘルファイアとサンダーボルトを強く想像し、魔力によって魔法を現実世界に作り上げる。暫く両手に精神を集中していると、左手の上には小さな炎が生まれた。
空中には小さな炎が浮いている、この炎はヘルファイアの炎と同じだ。どうやら俺はスケルトンキングの固有魔法を習得したみたいだ。これが幻魔獣クラス魔法か。俺は更に魔力を高めた。左手の炎を更に大きくし、右手には雷を作り出す。キングのサンダーボルトの様な雷を……。
『サンダーボルト!』
魔法を唱えると右手からは小さな雷が現れた。強い静電気のような雷は、俺の手の中で楽しそうにバチバチと音を立てている。俺が魔法を作り出すと、騎士団のメンバーは集まってきた。
「サシャ! まさか……それって幻魔獣の固有魔法?」
「人間がスケルトンキングの魔法を習得するとは! やはりサシャは石碑からスケルトンキングに選ばれた冒険者……世の中にはこんな天才も居るのだな」
「凄いです、師匠! 幻魔獣の魔法を覚えてしまうなんて!」
仲間が俺を称賛した。そうだ。思い出せば、リーシャ村からフィッツ町に向かう道中で、俺はスケルトンキングに選ばれたんだ。石碑に祀られていたスケルトンキングが俺を認めてくれ、キングとして俺の召喚獣になってくれた。通常の召喚魔法とは少し違う。
それに、召喚の際に一気に魔力が上昇した。これは生前のスケルトンキングの力だろう。もしかすると、スケルトンキングは俺と魔力の波長が近かったのかもしれない。民を守り続けながら鍛えた魔力を、俺に授けてくれたのではないだろうか。そう考えると辻褄が合う。魔法は波長が合っていなければ使えない。
よし……これを応用して魔法剣を作ろう。俺はクリスに炎の魔力を注ぎ、グラディウスに雷の魔力を注いだ。クリスは炎に包まれ、グラディウスには強い雷が纏った。新たなエンチャントの完成だ。これが俺の戦い方なんだ。二本の剣に別々の属性のエンチャントを掛けたのは、自分自身の属性を増やすためだ。戦闘の際には属性が多い方が有利に戦える。
「サシャ、スゴイ……」
「ありがとう、キング。きっと俺とスケルトンキングは相性が良いんだね」
「ウレシイ……」
キングは目の中の青い炎を揺らしながら微笑んだ。きっと自分と同じ魔法が使える人間が現れて嬉しいのだろう。魔法剣は魔力の消費が多いから、今日の訓練はここまでにしておこう。ギルドカードで新たな魔法を確認する事にした。
魔法:ヘルファイア サンダーボルト エンチャント・ヘルファイア エンチャント・サンダーボルト
「スケルトンキングの固有魔法が表示されている……」
「師匠! 師匠は間違いなく偉大な魔術師です!」
「幻魔獣の魔法をエンチャントに変えて使いこなす……俺達の団長は大陸で最強の冒険者なのかもしれんな」
「ありがとう。きっとこれは石碑に祀られていたスケルトンキングの力だと思うんだ。民を守り続けた神聖な魔物が、俺を選んで力を貸してくれているんだと思う。だから俺は冒険者として、地域を守れる人間になるよ」
「うむ。きっとスケルトンキングはサシャの願望と魔力の性質を読み取り、キングとして召喚獣になったのだろう。自身の魔力をサシャに分け、新たに生まれ変わったのがキングという訳だ」
俺はキングの頭を撫でると、彼は嬉しそうに俺に抱きついた。一日で二種類の属性を習得出来るとは運が良い。これからは更に訓練を積んで自分の技術として定着させなければならないな。
「師匠! 食事の支度が出来ましたよ!」
俺達は土の家に入り、早めの夕食を摂る事にした……。