第四十一話「山脈のダンジョン」
ブラックドラゴンを倒し、俺達はダンジョン内に逃げ込んだ。メテオストームで魔力を使い果たして仕舞ったからだろう、意識は朦朧としており、体は鉛の様に重い。クーデルカの肩を借りながら、力なく地面に座り込んだ。
どうやらダンジョンの入り口周辺には魔物の姿は無い様だ。アイリーンはクリスタルを連れてダンジョン内の探索に向かった。ブラックドラゴンのとの戦闘で、仲間達も魔力と体力を消耗している。ダンジョンを進む前に暫く休憩した方が良さそうだな。
俺は仲間に休憩を告げると、ゲルストナーは鍋を取り出してポーションを作り始めた。ブラックドラゴンの血を注ぎ、粉末状の薬草を次々と投入した。魔力を回復させる効果があるポーションなのだとか。
俺は暫くクーデルカに膝枕をして貰い、ゆっくりと体を休めた。クーデルカの心地良い魔力が俺の体内に流れてくる。彼女は俺の頭を撫でながら、優しい笑みを浮かべている。やはりクーデルカは美しいな……こうしていると魔力が急速に回復をしている様だ。きっとクーデルカが魔力を分けてくれているのだろう。
ゲルストナーはポーション作りを終えたのか、小瓶に入ったポーションを俺に分けてくれた。ポーションを一気に飲み干すと、ドロドロとした液体が喉を通った。
「サシャ、ドラゴンの血液は強い魔力を持っている。一口飲めばたちまち気分が良くなるだろう」
「この味はなかなか強烈だね」
「まぁ、美味しい物ではないが、魔力が枯渇した状態ではダンジョンの攻略も出来ないだろう? 一気に飲んでしまうんだ」
「分かったよ……」
気味の悪い液体を飲み干すと、体が徐々に暖かくなり、活力がみなぎってきた。暫く横になって休んでいると、ゲルストナーのポーションのお陰か、失われた魔力が回復してきた。
「ゲルストナー、魔力が回復してきたよ!」
「そうだろう。ドラゴンの血は即効性がある。だから強力なマナポーションには必ずドラゴンの血が数滴入っているのだ。今回はかなり多めにドラゴンの血を入れたから、味は悪いだろうが、魔力の回復効果は抜群の筈だ」
「魔力が完全に回復するまで、もう暫く待ってからダンジョンを攻略しよう」
「うむ。クリスタルとアイリーンが戻ってきたみたいだな」
「師匠! ダンジョンの奥にはリビングデッドとグールが数匹いました」
「サシャ、このダンジョンは思った以上に敵が多いの。気をつけるの」
やはりアンデッド系の魔物が巣食っているのか。慎重に進まなければならないな。キングとルナはブラックドラゴンの肉で何かしようとしているのだろう。キングはフライパンを取り出して加熱すると、ルナが豪快に肉を投入した。まさか、ダンジョン内で焼肉でもするつもりなのだろうか。
彼等は普段と変わりないな……ダンジョン内には複数の敵の魔力を感じるが、そんな事もお構いなしに、豪快に肉を焼いている。ルナが「サシャのために焼いたんだよ!」と言って大きな肉の塊を差し出してくれたので、俺はブラックドラゴンの肉に齧り付いた。
鶏肉のような感じで食べやすく、多少の臭みはあるが、食べれば食べるほど体力が回復する。今すぐにでも走り出したい程の活力でみなぎり、瞬く間に魔力が回復した。ゲルストナーの話によると、ドラゴンの肉は高級品で、肉以外にも爪や角、牙なども高値で取引されているらしい。幻獣の肉はやはり格別だな……。
「しかし、サシャがメテオストームを撃った時は心底驚いたぞ。あれがレベル90の召喚士の魔法か……魔法の破壊力、速度、効果。全てが一流。サシャは魔術師としてもこの大陸で最高の実力を持っているのかもしれないな……」
「とっさに思いついたんだよ。一発のメテオではブラックドラゴンには当てられないと思ったから、複数のメテオを落としたんだ」
「素晴らしい魔法だった……サシャは偉大な冒険者になるだろう! やはりサシャに付いて来て正解だった。まさか複数のメテオを同時に落とすとは……全く信じられん男だ」
「ありがとう。なんだか恥ずかしいな」
褒められるのは良い気分だが、まだ俺は自分の魔法に満足していない。メテオストームを使うには魔力が足りない。それに、複数の土の塊を制御する事も難しい、単発のメテオよりも遥かに難易度が高く、精確に対象に当てるのは至難の技だ。しかし、俺はついに自分のレベルに見合う魔法を身に付けた。メテオストームなら、レベル90の冒険者としても恥ずかしくない魔法だろう。
アースランサーやアースウォールは、レベル90の冒険者が使うには地味過ぎると思っていた。使い勝手は良いが、爆発的な破壊力も無く、空中の敵に対しては効果もない。これからはメテオとメテオストームを改良し、更に少ない魔力で使用出来る様にならなければならない……。
「師匠……新しい魔法、凄かったです! 感動しました!」
「ありがとう、自分でも驚いてるよ」
「そうですよね。本当に凄かったですよ。メテオの群れが大地に激突した瞬間、立っていられない程の振動を感じました」
「威力を高めて撃ったからね。だけど魔力の消費が激しすぎた」
「私も早く強くなりたいです……師匠の様に……」
「なれるよ。俺よりも強くなれる。魔法も剣も、毎日続けれいれば必ず強くなれるんだ。だから、自分なら出来ると思って頑張るんだよ」
「はい! 分かりました!」
クリスタルはいつも俺の事を褒めてくれる。素直で努力家。話しているだけで気持ちが明るくなる良い弟子だ。
しかし、このダンジョンは不気味だ。アレラ山脈の麓には清らかな魔力が流れていたが、この空間は禍々しい魔力が蔓延している。外と内側で魔力の雰囲気があまりにも違い過ぎる。この場所の雰囲気を例えるなら墓地だろうか。山脈周辺で命を落とした冒険者や魔物がダンジョンの闇の魔力に寄ってアンデッド化し、蘇る。案外、ブラックドラゴンとの戦闘よりも激しい戦闘を行う事になりそうだ。
久しぶりにギルドカードが更新された様だ。先ほどの戦いで魔力が上昇したのだろう、仲間のレベルが大幅に上がっている。
『ボリンガー騎士団』
団長:『幻魔獣の召喚士 LV90 サシャ・ボリンガー』
団員:『幻魔獣 LV41 キング』
団員:『幻魔獣 LV37 ルナ』
団員:『幻魔獣 LV30 ワイバーン』
団員:『幻獣 LV5 ユニコーン』
団員:『魔術師 LV44 クーデルカ・シンフィールド』
団員:『育成士 LV41ゲルストナー・ブラック』
団員:『鍛冶屋 LV33アイリーン・チェンバーズ』
団員:『召喚士見習い LV8 クリスタル・ニコルズ』
レベル40超えのメンバーが四人。騎士団も徐々に強くなってきたな。それから俺は自分のステータスを確認した。
魔法:メテオストーム
効果:ドラゴンライダー(ドラゴン騎乗時の魔力上昇)
メテオストームがギルドカードに表示されている事は分かるが、効果の項目に「ドラゴンライダー」と表示されている。効果はドラゴン系の魔物に騎乗した時に魔力が上がるらしい。
「サシャ! 随分珍しい効果を習得したんだな。ドラゴンライダーか……書物でしか見たことは無かったが……きっとワイバーンの共に訓練を積んだお陰で習得出来たのだろう。それほどサシャとワイバーンの絆が強いという訳だ」
「レイリス町で毎日様にワイバーンのメテオの練習をしていたからね。ところで、ワイバーンは何処に行ったのだろう……」
「きっと上空から山脈を超えるんだろう。俺達を見送ってからすぐに飛び立ったぞ」
「そうか……皆、もう暫く休んだらダンジョンの攻略を始めよう」
仲間に指示を与えてから、俺はクーデルカの膝の上で眠りに就いた……。