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第三十五話「サシャの魔法剣」

 夕食は兎を串に刺して焼いた料理と、乾燥野菜を使ったスープだった。やはり、こうして外で仲間達と食事が出来るのは幸せだな。冒険者をしていると実感出来る瞬間でもある。クリスタルにはゲルストナーと共に料理を担当して貰う事にした。


「クリスタル。美味しい料理をありがとう」

「師匠のお口に合ったなら良かったです! 師匠はいつもどんな訓練をしているんですか?」

「そうだね……まずは朝の四時に起きて体力を付けるために走り込む。その後は剣の稽古か、筋肉を鍛えるために運動をする。体が動かなくなるまで三時間ほど体を動かしてから、魔力を高めるために土の魔法を練習する。これが朝の日課で、四時間以内に済ませる事にしているよ」

「朝の日課に四時間ですか? 信じられないですね……そんなに努力して、疲れないんですか?」

「勿論疲れるよ。疲れるという言葉では表現出来ない程さ。体だって重いし、途中で投げ出したくなる。それから魔力が回復するまで待って、夕方の七時頃から三時間ほど稽古をする」

「一日に七時間は魔法と剣の稽古をしているんですね。やっぱり私の師匠は凄いです……」


 クリスタルは俺を賞賛してくれたが、俺は全く凄くない。実力も無いのにレベルだけが上がってしまった。幻魔獣の召喚士などと言う、俺には勿体ない程の称号も偶然手に入れた。だから俺はレベルと称号に見合う冒険者になるために努力をしている。


「クリスタル、俺は元々村人なんだよ。つい最近まではスケルトンすら満足に倒せなかったんだ。でも、必死に訓練を積んでいるからか、最近は自分の魔力を制御出来る様になってきたし、剣もある程度自由に使える様になってきた。肝心なのは今の強さではなくて、強くなると決意して努力する事だと思うんだ」

「強くなると決意する事……そうですね。私は最高の召喚士になります。だから師匠、戦い方を教えて下さい! 魔物も召喚してみたいです」


 俺はしばらく考え込んだ。幻獣のブラックドラゴンが巣食う山脈に挑戦するのに、クリスタルが魔物を召喚したところで、召喚獣はたちまちブラックドラゴンとの戦いで命を落とすだろう。クリスタルがブラックドラゴンを超える程の魔物を召喚出来る可能性は極めて低い。魔物の召喚はもう暫く待って貰おう。


 魔力を使って武器を召喚する魔法を教えるのはどうだろうか。以前召喚魔法に関する書物で読んだ事がある。魔力から剣や盾を召喚する魔法だ。頭の中に装備を想像し、魔力を放出すると、想像した装備を召喚する事が出来る。


「クリスタル。魔法の盾の召喚に挑戦してみないかい? 自分の魔力から盾を召喚するんだ」

「魔法の盾ですか? それは面白そうですね!」


 俺自身、試した事は無かったが、毎日の様に土の家を作っているんだ。小さな盾を作る事は造作も無いだろう。戦してみようか。俺は頭の中に魔法の盾をイメージした。敵の攻撃から身を守ってくれる盾。形状を細部まで想像し、体内から魔力を集めて右手から放出する。


『マジックシールド!』


 瞬間、頭の中で想像した盾が目の前の空間に現れた。青白い光を纏う美しい魔法の盾が完成した。俺の召喚を見たクリスタルは嬉しそうに喜んだ。初めてにしてなかなかの出来だ。どれだけの耐久性を持つ盾なのかは分からないが、魔力から作り出した魔法の盾で、敵の攻撃を一撃でも防ぐ事が出来るなら、戦術に取り入れるべきだろう。明日からは俺もマジックシールドを学ぶ事にしよう。


「サシャ、美しい盾ね。私が同じ魔法を使ったらどんな盾で出てくるかしら」

「きっと冷気から作られた盾じゃないかな?」

「氷で盾を作る事は出来るんだけど、防御魔法はあまり得意じゃないの。だから私は攻撃魔法と回復魔法しか使わない」

「そうだったんだね」

「ルナが盾の強さを確かめてあげる」

「ああ。頼むよ」


 俺はルナに盾を渡すと、ルナは強度を確認するためにサーペントのレイピアで突いた。盾は魔力を散らして粉々に砕け散った。流石にルナの剣を受けられる程の力は無いみたいだ。やはりアースウォールの方が防御力は遥かに高い。


「さて、クリスタル。今日からマジックシールドの練習を始めようか」

「わかりました!」


 クリスタルは嬉しそうに微笑むと、直ぐに魔法の練習に取り掛かった。俺自身も新しい戦い方を考えなければならないな。自分の武器に属性魔法を掛ける事は出来ないだろうか? 剣に土のエンチャントを掛けられたら、破壊力が上がるのではないだろうか。


 俺は右手でグラディウスを抜き、左手で魔族のクリスを抜いた。クーデルカから頂いた短剣を使うのは初めてかもしれない。これが俺の新しい構えだ。長さが異なるの剣での二刀流。左手のクリスで敵の攻撃を防ぎ、右手のグラディウスで仕留める。更に武器に対して土のエンチャント掛ける事にした。


『エンチャント・アース!』


 剣に土の属性を注ぐと、剣は強い土の魔力を纏った。二本の剣に同時にエンチャントを掛けているからだろうか、体内の魔力が一瞬で枯渇した。これは良い魔法の訓練になりそうだ。


「凄いわ……魔法剣を使うなんて。あなたは才能の塊だわ!」

「サシャ、凄い!」

「二人共ありがとう。もっと練習して使いこなせるようになるよ」


 魔力を使い果たしてしまったので、今日の訓練を終えて、寝るまでに間になるべく多くの栄養を摂取しよう。その方が効率良く筋肉を増やせるからだ。ゲルストナー曰く、「運動だけをしても、栄養が不足していれば筋肉は増えない」らしい。


 クーデルカはクリスタルの魔法の練習に付き合っているみたいだ。俺は早めに眠る事にしよう……今日もルナを抱きしめながら俺達は眠りに就いた。



 早朝に目を覚ますと、クリスタルは既に朝食の支度を済ませていた。どうやら、朝食を作ってからマジックシールドの練習をしていた様だ。クリスタルは何度魔法を唱えても盾を作る事が出来なかったのだとか。


「クリスタル。魔法は頭の中ではっきりと完成形を想像する事が大切だよ」

「完成形を想像ですか……なかなか難しいですね」

「毎日続けていればきっと出来るはずだよ。最初は自分の魔力で作り出せるサイズの盾を想像するんだ」

「試してみます!」


 クリスタルは暫く精神を集中させ、杖から魔力を放出すると、光に包まれた銀色の盾が現れた。手のひらサイズの小さな盾だが、間違いなく魔法は成功した。


「おめでとう! クリスタル!」

「随分小さいですね……だけど、魔法が成功しました!」

「魔法が成功して良かったね。俺はこれから朝の訓練を始めるから、戻ってきたら移動を再開しよう」

「分かりました! 私はマジックシールドの練習を続けます」


 クリスタルは俺よりも早い時間に起きて魔法の練習をしていたのか。素直で勤勉、将来はきっと一流の召喚士になるだろう。それから俺は朝の訓練を四時間行った後、ワイバーンに乗ってレイリス町に向けて出発した……。

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