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第三十四話「帰郷」

 今日も朝の四時に起きて、日課である訓練を始める。気持ち良さそうに眠っているルナを起こさないように部屋を出ると、外でクーデルカが魔法の練習をしていた。


「おはよう、サシャ」

「おはよう、クーデルカ。随分早くに起きたんだね」

「ええ。ゆっくり寝ている時間が勿体無いからね。せっかく蘇れたのだから……」

「そうだね。今日も訓練に付き合ってくれるかい?」

「勿論。そのために待っていたのよ」

「それじゃ早速出発しようか」


 クーデルカと共に町を出て、久しぶりに廃坑に向かった。もはや廃坑のスケルトンでは俺の相手にはならないだろうが、少しでも多くの魔物を狩りたい。魔物を討伐すれば、地域の人達を守る事が出来るからだ。


 廃坑の入り口には相変わらずスケルトンが巣食っていた。敵は全部で五体。スケルトンの足元に土の壁を作り上げ、スケルトンの体を上空に浮かせた。アースランサーの魔法で槍を作り出し、宙を舞う敵を串刺しにした。俺も随分成長したんだな。もはや剣を抜かなくてもスケルトン勝てる。リーシャ村を出た頃は、スケルトン一体も満足に倒す事が出来なかったのだから……。


 それから俺はクーデルカと共に訓練を始めた。訓練の内容は至ってシンプルで、クーデルカが放つアイスフューリーを剣で切り落とすだけだ。万が一、クーデルカの攻撃が防げなければ俺の体には氷の刃が突き刺さるだろうが、神経を集中させて剣を振れば防げるだろう。


「それじゃいくわよ……」


 クーデルカがアイスロッドを抜き、魔力を込めると、辺りには冷気が発生し、冷気の中からは円盤状の刃が飛び出した。瞬時にグラディウスを構えて垂直斬りを放ち、クーデルカの刃を叩き落とす。


 体中からは冷や汗が流れ、氷の刃を切り裂いた瞬間、俺は自分自身の剣の威力に驚いた。魔力と筋力が上がったからだろうか、以前よりも早い速度で剣を触れる様になり、剣の威力も増幅している。それから俺は集中力が尽きるまで、クーデルカの攻撃を受け続けた。


 クーデルカの魔力が切れた所で、俺は筋力を上げるために森を走り込み、自重トレーニングを行って全身の筋肉をまんべんなく刺激した。体には心地良い疲労と、朝の涼しい風を感じる。クーデルカが俺の火照った体に冷気を吹きかけると、何とも言えない気持ち良さを感じた。


 森を出てフィッツ町に入り、宿に戻ると、俺達はルナとクリスタルを起こした。それから朝食を食べ、町を出る前にクリスタルの装備を整える事にした。俺はクーデルカにクリスタルの新装備を揃えるようにと、お金を幾らか渡してクリスタルを任せた。


 せっかくリーシャ村に戻るのだから、母とサイモンおじさんにお土産を買っていこう。サイモンおじさんには葡萄酒で良いだろう。母にはこの町で一番高価なローブを贈る事にした。魔物を狩り、民を守りながら稼いだお金で、親のために贈り物を買う。これ程幸せな事は無い。きっと喜んで貰えるだろう。全ての買い物を済ませてからクーデルカ達と合流した。


「サシャ。こっちは準備出来たわ。どうかしら? クリスタルの新しい装備」


 クリスタルは魔術師が被るような白い帽子とローブを着ている。革製のブーツとガントレット、手にはアースワンドを持っている。見習いの召喚士にしては十分な装備だろう。俺がリーシャ村を出た時はガントレットとショートソードしか持っていなかったからな。


「師匠! 私の装備、似合いますか?」

「うん。よく似合っているよ」

「装備まで買って下さって、ありがとうございます! お金はいつか返しますね」

「気にしなくて良いんだよ。仲間のための装備を買うのも団長の仕事だからね」

「仲間……ですか。嬉しいです、師匠!」

「それじゃ早速出発しようか」


 出発の前にミノタウロスと町長に挨拶をし、町の外で待っていた貰ったワイバーンに飛び乗った。ワイバーンはクリスタルをじっと見つめると、小さく頭を下げた。自分が認めた相手以外は背中に乗せたくないのだろう。


 ワイバーンは一気に上空に飛び上がると、リーシャ村に向けて飛んだ。懐かしい街道を見下ろしながら飛び続けると、直ぐにリーシャ村に到着した。やはりワイバーンでの移動は時間の短縮になる。リーシャ村の上空を飛ぶと、サイモンおじさんが店から飛び出した。


「サシャか! みんな、サシャが戻って来たぞ!」


 サイモンおじさんが大声で叫ぶと、俺はワイバーンの背中から飛び降りた。村人達は俺を歓迎してくれたが、やはりワイバーンが恐ろしいのだろう、誰もワイバーンに近づこうとはしない。母が家から出てくると、大粒の涙を流しながら俺を抱きしめた。抱擁を交わし、母は俺の頬に接吻の雨を降らせた。


「サシャ……随分早く戻ってきたのね。それに、こんなに逞しくなって……」

「近くに用事が出来たから戻ってきたんだよ。母さんも元気そうで良かった!」

「ええ。私はいつも元気よ。立ち話もなんだから、家に入って話しましょう」


 サイモンおじさんを家に招くと、母は紅茶を入れて俺達をもてなしてくれた。お土産を渡してから、冒険の話を始めた。


 キングとの出会いや、卵からルナを孵化させた事。騎士団を結成してフィッツ町を配下に入れた事。盗賊達のアジトに乗り込んで村娘を助け出した事や、新しい弟子が出来た事など。二人は開いた口が塞がらないと言った様子で、静かに俺の話を聞いていた。サイモンおじさんは俺の肩を叩き、「父よりも偉大な冒険者になったな」と褒めてくれた。


「フィッツ町を配下に入れたという噂はこの村でも流れていたわ。だけど、アシュトバーン村まで自分の配下に入れるなんて。サシャはもう偉大な冒険者になるという夢を叶えたのかしら」

「まだまだだよ。俺はこの大陸で最強の冒険者になる。それから俺は新しい目標を見つけたんだ。召喚獣と人間が共存出来る村を作る。それから奴隷制度を崩壊させる。これが俺の今の目標なんだ」

「村を作る? 信じられない様な話だけど、サシャならきっと上手くやれると思うわ。このまま突き進みなさい。自分が正しいと思う道を歩み、他人を助けながら最高の冒険者を目指しなさい」

「ああ。そのつもりだよ。俺は最高の結果を得るまで満足しない。この大陸に俺達騎士団の村を作った時、また戻ってくるよ」

「楽しみに待っているわ」


 それから暫くの間、俺達は家でくつろぎ、再びレイリス町に戻る事にした。俺の帰りを待つ仲間達が居るからだ。アイリーンにゲルストナー、キングにユニコーン。俺達の帰りを待ちながら、アレラ山脈を越える方法を探してくれているのだろう。


「母さん、サイモンおじさん、俺はそろそろ戻るよ」

「気をつけるのよ」

「元気でな、サシャ。今度は一緒に酒を飲もう」

「うん、それじゃまたね」


 俺達はワイバーンに乗ると、ワイバーンは一気に上空に飛び上がった。出発の指示を出し、レイリス町を目指して飛んだ。ワイバーンに乗って移動すれば、明日にはレイリス町に着くだろう。俺達は日が暮れるまで、レイリス町を目指して飛んだ。暫く上空を飛んでいると太陽が沈み始めた。空から見る夕焼けが美しい……。


「サシャ! 空が綺麗だね」

「そうだね。夕焼けがこんなにも美しいなんて」

「みんなで綺麗な景色を見られて嬉しいわ」

「これが冒険なんですね……師匠!」


 ルナもクーデルカもクリスタルも、幻想的に輝く夕日を見て喜んでいる。今日の移動を終えた俺達は、森で野営の準備を始めた。クリスタルは野営の経験が無いのだとか。俺達が旅をしている時は、ゲルストナーが料理を担当しているが、今日はゲルストナーに替わりにクリスタルに料理を任せるとしよう。


「クリスタル、四人分の料理を作ってくれるかな?」

「お任せ下さい! 私、料理は得意なんですよ」

「本当? それは楽しみだな」

「楽しみに待っていて下さいね! それでは直ぐに準備します」


 クリスタルの料理を完成を待ちながら、俺は土の魔法で家を作り上げた。徐々に大きな家を作れる様になり、屋根の形も自由に変えられる様になった。やはり造形の魔法は面白い。土を作り出し、様々な形を作るだけでも魔力を消費する。毎日土の魔法を使っているからか、家の完成度も高くなりつつある。


 家作りが終わると、クリスタルが獲物を抱えて帰ってきた。野兎を三匹も狩る事が出来たらしい。それからクリスタルは手慣れた手つきで兎を解体し、料理を始めた。


 クリスタルが料理をしている間に、俺はルナと特訓をする事にした。俺とルナの特訓は、俺がアースウォールで土の壁を作り、ルナが攻撃魔法を放つ。ルナが破壊出来なければ俺の勝ちだ。俺は頭の中に丈夫な土の壁を想像した。魔法は想像力が肝心だ。自分自身が想像したものを魔力を使って現実世界に作り上げる。それが創造の魔法だ。


 絶対にルナの魔法を防ぐと決心し、ありったけの魔力を込めて土の壁を作り上げた。三メートル以上もの分厚い壁がそそり立っている。流石のルナもこの壁は壊せないだろう。ルナは左手に風の魔力を集め、魔力から弓を作り出した。


『ウィンドアロー!』


 ルナが魔法を唱えると、突風の様な強烈な魔力が炸裂し、魔力の矢が放たれた。矢は土の壁を捉えると、表面を大きくえぐり取ってから、強い風を撒き散らして消滅した。初めてルナの攻撃を防いだ! 俺が幻魔獣の攻撃を防いだんだ。最高の気分だ。毎日魔法の練習をしていて良かった……。


「サシャはルナが守るのに……」

「ルナ。素晴らしい魔法だったよ。だけど俺も強くなりたいんだ。皆を守るためにね」

「ルナの事も守ってね」

「勿論だよ。そろそろご飯が出来たみたいだね」


 さて……まずは食事だ。俺とルナは家の中に戻り、夕食を頂く事にした。

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