第三十三話「フィッツ町の宴」
宴の会場に入ると、大勢の冒険者達が集まっていた。やはりフィッツ町は雰囲気の良い町だ。商人や冒険者が協力して町を活性化させているからだろう。宴が始まると、俺はミノタウロスと共にお酒を飲む事にした。召喚してから殆ど構ってあげる事も出来なかったからな……。
「ミノタウロス、フィッツ町の仕事は大変じゃない?」
「ボリンガー様。特に大変という事はないぞ。町の周囲に生息する魔物の数も減ってきている。最近では魔物が町を襲う事もないからな。平和そのものだ」
「そうか、それは良かった。いつも町を守ってくれてありがとう」
「俺はボリンガー様からこの町を任されているからな。拠点長として町を守るのは当然の事だ」
ミノタウロスは樽に入ったエール酒を持ち上げ、おもむろに飲み始めた。随分豪快にお酒を飲むんだな。ゲルストナーもかなりの酒豪だがミノタウロスには敵わないだろう。ミノタウロスが一気にエール酒を飲み干すと、会場に熱狂的な歓声が沸き起こった。既に町の人達とも親しい様だ。ミノタウロスを慕う冒険者も多い。
「ところでミノタウロス、君を召喚してから一度も遊んであげられなかったね……本当にすまないと思ってる」
俺は心から申し訳ないと思っている。召喚獣は人間の道具ではない。俺がミノタウロスに謝るとミノタウロスは目に涙を浮かべ、俺の体を強く抱きしめた。俺は彼の頭を撫でると、嬉しそうに頬ずりした。ミノタウロスもワイバーンも、間近で見れば恐ろしい魔物の様だが、彼等も俺の大切な仲間だ。いつか召喚獣と人間が豊かに暮らせる村を作りたい……。
「ミノタウロス! 実は君に贈り物を用意しているんだ」
「贈り物?」
俺は鞄の中から「騎士団の戦斧」を取り出した。砦で手に入れた処刑人の斧を、レイリス町で新たな武器に作り変えた物だ。両手で持つのがやっとの重量だが、ミノタウロスは片手で軽々と斧を持ち上げた。瞬間、斧から強い魔力が辺りに流れ始めた。武器と使用者の相性が良いのだろう。ミノタウロスの優しい魔力が室内に流れると、冒険者達は大いに拍手をした。
「素晴らしい武器の様だな。ミノタウロスとの相性も最高だ」
「ありがとうございます! ロンダルクさん」
「ボリンガー様。この武器は最高だ。俺の力を引き出してくれる!」
「気に入って貰えたなら嬉しいよ」
武器とミノタウロスの魔力の波長が一致しているのだろう。まるでルナがサーペントのレイピアを使用している時の様な、強い魔力を感じる。ミノタウロスの斧を見たルナは、「ルナもサシャに武器を作って欲しい!」と言ったが、俺はサーペントのレイピアよりも優れた武器を作れる気がしない。
「ミノタウロスとの再会とクリスタルの入団。ラドフォード姉妹の新たな人生を祝して、乾杯をしよう!」
ゴブレットを掲げると、冒険者達が仲間を祝福した。俺は冒険者達全員に挨拶をして回った。彼等も町を守る仲間だからな。冒険者達と何度も乾杯をし、葡萄酒やエール酒を飲み続けると、心地良い酔いを感じた。
俺はクリスタルの隣に座ると、クリスタルは俺に葡萄酒を注いでくれた。クリスタルは今日から俺の弟子になったんだ。何か特別な贈り物でもしよう。杖が良いだろうか。俺は両手から魔力を放出し、土を作り上げた。土なら既に自在に作り上げる事が出来る。柔らかい土に魔力を注ぎ続けると、硬質化した土の杖が生まれた。杖はまるで石の様に硬く、光沢があって美しい。せめて金属を自在に加工出来れば良いのだが、今の俺には土が限界だ。
「クリスタル。良かったらこの杖を使ってくれるかな?」
「ボリンガー様! 杖をくれるんですか?」
「ああ。それから、俺の事はサシャって呼んでくれよ」
「サシャですか……? それなら、師匠って呼ばせて下さい! 新しい杖、大切にしますね……師匠」
クリスタルは杖を握り締めると、嬉しそうに微笑んだ。ロンダルクさんが俺の隣に座ると、冒険の話を聞きたいと言ったので、俺はフィッツ町を出発してからの出来事を話し始めた……。
アシュトバーン村で村娘を救出した事や、ストーンへルズ砦でブラックライカンを倒した事。レイリス町でラドフォード姉妹とアラスターを買い取った事や、ワイバーンを召喚した事など。俺が冒険の物語を語ると、冒険者達は目を輝かせて喜んだ。
それから俺達は暫く宴を楽しんだ後、明日出発する事を町長に告げてから宿に戻った。久しぶりの冒険者の宿だ。キングやスケルトン達と泊まっていた頃が懐かしい。あの頃はお金が無かったから、一日の食事がパンだけだったり、狭い部屋を大人数で使っていたりした。それに、ルナが生まれたのもこの宿だ。
クーデルカにクリスタルを任せ、俺はルナと共に部屋を使う事にした。今日もルナと共にお風呂に入り、夜遅くまで二人で語りながら、彼女を抱きしめて眠りに就いた……。