第三十二話「新たな出会い」
冒険者ギルドに入ると、室内は冒険者達で溢れていた。以前訪れた時よりも冒険者の数が多いのは気のせいだろうか。
「サシャ・ボリンガー様だ!」
「ボリンガー様って、幻獣のユニコーンを召喚した人?」
「そうだよ。フィッツ町を配下に入れて下さったお方さ。町が彼の配下に入ってからは、盗賊や魔物が町を襲う事もなくなったんだ」
この町では既に俺の面が割れているらしい。ギルド内の冒険者が一斉に俺達に駆け寄ってきた。どうやらミノタウロス達の活躍により、フィッツ町はより安全な都市に生まれ変わった様だ。これも召喚獣達のお陰だ、後でミノタウロスを褒めてあげよう。
それから俺はシンディさんを宴に誘った。彼女は嬉しそうに俺の手を握り、必ず参加すると言ってくれた。せっかくだから冒険者達も宴に招待しよう。騎士団の団員と共に、冒険者としてフィッツ町を守ってくれている人達だからな。
「皆さん、俺はボリンガー騎士団、団長、幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーです。実は今日の夕方に、町長の屋敷で宴を開く事になりました。ボリンガー騎士団が料理とお酒を提供しますので、良かったら皆さんも参加して下さい」
「え? ただでお酒が飲めるんですか?」
「はい! 皆さんにはいつも町を守って貰っていますから、この機会におもてなしをさせて下さい」
「ありがとうございます! 俺達は全員参加で良いよな?」
「ああ! 行くしか無いだろう。レベル90の冒険者と同じ席で酒を飲めるんだぜ!」
「それでは夕方の五時頃に町長の屋敷でお待ちしていますね!」
冒険者達が大いに盛り上がると、俺はギルド内で一人だけ居心地の悪そうにしている少女を見つけた。青く美しい髪に、宝石の様に澄んだ青い目。年齢は十二歳程だろうか。手には木製にワンドを持っており、ワンドを両手で握り締めると、少女は顔を赤らめながら席を立った。ゆっくりと俺の方に近づいて来ると、顔を上げて俺を見つめた。魔術師なのだろうか。清らかな魔力を感じる。
「ボリンガー様。あの……」
「どうしたの? 俺に何か用かな?」
「あの……その……」
「何か言いにくい事でもあるのかな?」
「弟子にして下さい……」
「え? なんだって?」
「私を弟子にして下さい!」
少女は急に大声を出して俺の弟子にしてくれと頼んだ。俺は弟子を取るほど優れた冒険者ではない。俺が教えられる事も少ないだろう。
「サシャ。この子、弟子になりたいんだって」
「サシャの弟子になりたいなんて、大胆な女の子ね。だけど私は大胆な人が好きよ」
「二人共、俺は弟子を取れる様な人間じゃないよ。俺自身、つい最近まで村人だったんだから」
「ですが……ボリンガー様は幻魔獣や幻獣を召喚し、騎士団を作りあげ、フィッツ町とアシュトバーン村を配下に入れたではありませんか。私はボリンガー様の様な召喚士になりたいんです……」
「買いかぶりすぎだよ。俺はまだ駆け出しの冒険者。毎日の訓練だけでも忙しいし、他人に教えられる程の技も知識も無いんだ」
俺がそう断ると、少女は涙を流して俯いた。ルナが少女の頭を撫でると、クーデルカが小声で「話だけ聞いてみましょう」と言った。まずは食事でもしながら、ゆっくりと話を聞いてみよう。
「昼食を食べに行こうか。冒険者ギルドの隣にある宿の料理が絶品なんだ」
「はい……」
少女は緊張した表情で俺を見つめ、ルナは少女の手を握ってギルドを出た。ルナから他人に触れるなんて、珍しい事もあるんだな。幻魔獣が認めた魔術師か……。
それから俺達は宿に移動すると、肉料理と葡萄酒を注文した。葡萄酒を一口飲み、少女に料理を差し出すと、ゆっくり食べ始めた。俺が弟子を取るのか……これからブラックドラゴンが巣食う山脈を超えなければならないのに。強さすら分からない少女を弟子にするのは危険過ぎる。
「私はクーデルカ・シンフィールドよ。あなたの名前は?」
「申し遅れました。私はクリスタル・ニコルズと申します」
「俺はサシャ・ボリンガー。この子はハーピーのルナだよ」
「急に弟子になりたいなんて言ってしまって、ごめんなさい……私はボリンガー様の召喚魔法に憧れているんです」
「クリスタルって呼んでも良いかな。どうして俺の弟子になりたいのか、聞いても良いかな?」
クリスタルはゆっくりと肉料理を食べ、決心した様に俺を見つめた。ルナの様な素直な目つきだ。魔力の雰囲気も悪質なものではなく、信頼出来そうな人物だ。
「ボリンガー様が町で幻獣のユニコーンを召喚したところを見たんです。私も召喚獣と共に旅をしたいと思っているんです」
「召喚獣と共に旅か……だけど、自分の召喚獣を守るためには力も必要だし、お金も必要なんだよ。自分の寝る時間を削って、仲間を守るために訓練を積む。旅は楽しい事ばかりじゃないんだ」
召喚獣と共に旅をして、人生で何を成し遂げたいか聞いてみよう。一番重要な質問だ。この質問の答えが、もし人を傷つけたり、人の助けにならない答なら、俺が彼女を弟子にする事はないだろう。そもそも、俺にとって弟子を取るメリットが無い。自分自身の鍛錬だけでも、寝る時間を削って早朝から訓練をしているというのに……。
「私は幼い頃に両親を亡くしました。両親が亡くなってから、今日まで冒険者の皆様に守って頂いていました。私はお世話になった冒険者様の役に立てるような人間になりたいのです!」
「冒険者を守るために召喚魔法を学ぶという事かい?」
「はい……! 私はボリンガー様の様な強い召喚士になりたいんです! 力を付けて他人を守れる召喚士になるのが目標なんです」
「誰かを守るために強くなりたいと思うのは良い事だと思うよ。俺達はアルテミス王国を目指している。旅の途中で命を賭けて戦う事もあるだろう。自分よりも遥かに強い幻獣や、盗賊等と戦う事もあると思う。もしかしたら、俺自身、旅の途中で命を落とす可能性もあるんだ」
「覚悟なら出来ています……命を賭けて最高の召喚士になるために生きます!」
「そうか……俺と同じ目標を持っているんだね。俺がクリスタルに教えられる事は少ないと思うけど、俺はクリスタルを弟子として育てる事を約束するよ」
「本当ですか? ボリンガー様!」
「ああ。ボリンガー騎士団へようこそ! 歓迎するよ、クリスタル」
クリスタルは嬉しそうに涙を流した。ルナが微笑みながらクリスタルの頭を撫でている。まさか俺が弟子を取る事になるとは。それから俺はクリスタルに対し、ボリンガー騎士団の活動や、団員の情報などを説明した。しばらくすると宴の準備が整った様だ。アリスとセシリアが迎えに来てくれたので、俺達はクリスタルを彼女達に紹介した。
冒険者ギルドでシンディと合流してから、ロンダルクさんを迎えに行き、町長の屋敷へ向かった……。