第三十一話「アシュトバーン村とフィッツ町」
ワイバーンの背中に乗ってレイリス町を出発し、空の旅を始めた。空を飛ぶ事がこんなに気持ちの良い事だとは知らなかった。クーデルカは怖がりながら俺の鎧を握り締めているが、ルナは心地良さそうに風を受けている。ユニコーンの馬車で時間を掛けて来た道を、空から一気に戻る。やはり地形に左右されない移動は楽だ。ギルドカードでワイバーンの項目を確認してみよう。
『幻魔獣 LV0 ワイバーン』
種族:幻魔獣・ワイバーン
召喚者:幻魔獣の召喚士 サシャ・ボリンガー
スキル:フレイムブレス トルネード
『幻魔獣の召喚士 LV90 サシャ・ボリンガー』
どうやらワイバーンを召喚した事によって、俺自身のレベルが上がったみたいだ。強力な幻魔獣の召喚に成功して魔力が大幅に上がったのだろう。レベル90か……もしかして俺はこの世界で最も高レベルの冒険者なのではないだろうか。レベルだけが高くても意味が無い。レベルや称号に見合った強さを身に付けなければ、一流の冒険者とは言えない。キングのレベルは45に、ルナのレベルは35まで上がっていた。
ワイバーンの固有魔法はフレイムブレスとトルネードか。名前から察するに、フレイムブレスは炎を吐く魔法。トルネードは竜巻を起こす魔法だろうか。今度、ワイバーンに魔法を見せて貰おう。暫く空を飛び続けると、アシュトバーン村に到着した。
アシュトバーン村の上空を旋回し、ゆっくりと降下すると、村の人達が駆けつけてきた。ワイバーンから飛び降りて、彼に手持ちの乾燥肉を渡すと、嬉しそうに食べ始めた。見た目はかなり怖いが、性格は優しい様だ。
「ボリンガー様! お久しぶりです!」
「お久しぶりですね、皆さん」
「よく戻って来て下さいました! ボリンガー様の拠点があるおかげで、盗賊達が村に近づく事もありません!」
「それは良かったです。今日は新しい仲間を連れてきました。彼はアラスター・リグリー、拠点長として皆様をお守りする剣士です」
「剣士のアラスター・リグリーです」
アラスターさんを紹介すると、村人達は彼を歓迎した。村の警護をしていたスケルトンとホワイトウルフが近づいてくると、ホワイトウルフは俺の体に飛びついた。モフモフした白い毛を撫でると、ホワイトウルフは嬉しそうに俺の顔を舐め回した。スケルトンは久しぶりに俺に会ったからだろうか、目の中の炎を嬉しそうに揺らして喜んだ。
「アラスターさん、アシュトバーン村を頼みましたよ! 俺達はフィッツ村に向けて出発します」
「勿論です、ボリンガー様! この村の警護はお任せ下さい」
しばしの別れを告げてから再びワイバーンに乗り、フィッツ町を目指した。クーデルカはもうワイバーンでの飛行に慣れた様だ。紫色の綺麗な髪をなびかせてワイバーンの背中に乗っている。青紫色の飛竜と紫色の髪をした魔族。美しい組み合わせだ。
ルナはワイバーンの背中から飛び降りると、翼を開いてワイバーンと共に並んで飛んだ。ハーピーの飛行能力ではワイバーンに追いつけないのか、暫くすると、ルナはワイバーンの背中に降りた。
「ワイバーンってハーピーよりも早く飛べるんだね」
「ルナも随分早く飛べるんだね。ワイバーンの速度とほとんど同じじゃないか」
「だけど体力が持たなかったよ」
「空が飛べるなんて羨ましいな」
暫くワイバーンに乗ってフィッツ町に向かうと、見慣れた町に着いた。フィッツ町の上空でワイバーンを旋回させていると、町の人達が駆けつけてきた。
「幻魔獣の召喚士様だ!」
「ボリンガー騎士団のボリンガー様だ!」
町の正門の前でワイバーンから降りると、俺は手持ちの食料を全てワイバーンに渡し、暫く待つようにと伝えた。彼は静かに頷くと、目を閉じて眠り始めた。長旅で疲れたのだろうか。
「ここがフィッツ町なのね……」
「この町は初めてなんだね?」
「ええ。随分栄えているのね。レイリス町よりも雰囲気が良いわ」
「俺もそう思っていたんだよ。騎士団の配下にある町で、冒険者の数も多く、豊かな自然に囲まれている良い都市だよ」
久しぶりに町を見て歩いていると、町長とミノタウロスが駆けつけてきた。ミノタウロスは俺の体を抱き上げると、涙を流して抱きしめた。全身の骨が折れそうだ。力が強すぎる……。
「ボリンガー様……会いたかった……」
「久しぶりだね、ミノタウロス。俺も会いたかったよ」
ミノタウロスを初めて見たクーデルカとラドフォード姉妹が固まっている。赤い皮膚に筋骨隆々、人間の様に二足歩行し、頭部には角が生えている。獰猛な魔物の様に見えるが、彼はフィッツ町を守る拠点長だ。アリスとセシリアにミノタウロスを紹介すると、彼はラドフォード姉妹を歓迎した。
「町長、お久しぶりです。新しい騎士団の仲間を連れて来ましたよ」
「アリス・ラドフォードです」
「セシリア・ラドフォードです」
「フィッツ町の町長、ルシウス・アルバーンです」
「ボリンガー様、今日は宴にしないか? 新しい仲間も増えたんだ。盛大に祝おう」
「それは良いアイディアですね。是非私の屋敷を使って下さい! 直ぐに宴の準備をしましょう」
「ありがとうございます。アリス、セシリア、ミノタウロスと町長の手伝いを頼んだよ」
「分かりました!」
ラドフォード姉妹をミノタウロスに任せると、久しぶりにロンダルクさんの店に顔を出す事にした。
〈ロンダルクの雑貨店〉
「ロンダルクさん、お久しぶりです!」
「サシャじゃないか! 久しぶりだな! 上空から只ならぬ魔力を感じたと思ったが……今日帰ってきたのか?」
「はい、ついさっき戻ってきたんです」
「また力を付けた様だな、それに、隣に居るのは魔族か……? 全く、サシャはどこまで強くなるんだか……」
「あれから仲間も増えて、旅は順調なんですよ。今はアレラ山脈を越えるための準備をしています」
「山脈超えか。すると、幻獣のブラックドラゴンと戦うという訳か。きっとサシャなら負けはしないだろう」
ロンダルクさんは微笑みながら俺の肩に手を置いた。久しぶりに店内を見て回り、召喚書を買い足した。それから、今日の夜の宴の事を伝えると、彼は二つ返事で了承した。
「それではまた夜に会いましょう!」
「うむ。また後でな」
今日は久しぶりに冒険者ギルドの宿に泊まる事にしよう。冒険者ギルドのシンディさんも宴に誘わなければならないな。俺はクーデルカとルナと連れて、久しぶりに冒険者ギルドに向かった……。