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第二十七話「剣士と姉妹」

 武器屋に入ると、クーデルカ達がラドフォード姉妹の装備を選び始めた。クーデルカは一着の紅色のローブを姉妹に渡すと、二人は嬉しそうに新しい服を身に付けた。彼女達は戦いには参加しない訳だから、防具は必要ないだろう。しかし、騎士団の団員なのだから、簡単な武器を持っておいた方が良い。実際に使う事は無いと思うが、見た目のためだ。


 広い店内をゆっくりと見て回り、女性でも使える武器を探した。俺が選んだのは護身用の剣、スティレットだ。ローブを着ていても装備できるタイプの小さい剣だ。それから俺はアラスターさんの装備を選ぶ事にした。


「アラスターさん。剣士時代にはどんな装備をしていたんですか?」

「剣士をしていた頃は、ライトメイルを着てフランベルジュを使っていました」

「フランベルジュですか、かなり本格的なんですね。」

「大きめの剣が好きでした。私の剣は一撃必殺。小さくて軽い剣はどうも馴染みません」

「闘技会でのスラッシュは見事でしたよ」

「ありがとうございます。グラディウスは初めてだったので上手く使えませんでしたが……」


 俺は武器屋の店主を呼んで、アラスターさんの装備について相談した。店主は防具一式と剣を持ってくると、アラスターさんは直ぐに装備を身に付けた。アラスターさんの装備は鋼鉄のフランベルジュ、それから鋼鉄のガントレット、グリーヴ、メイルの三点セットだ。


 俺がアラスターさんの装備を選び終わると、ラドフォード姉妹も装備を選び終わったよ様だ。姉妹の新装備は、紅色のローブ、スティレット、革のブーツだ。ローブ姿もなかなか美しい。


 武器屋の店主に代金を払って店を出た。アレラ山脈でブラックドラゴンに挑む前に、アイリーンとキングの装備も作らなければならない。アラスターさんとラドフォード姉妹が出発するまでに作るとしよう。素材は白銀のインゴットを使う事に決めた。砦でインゴットを大量に入手したからだ。宿に戻ると、ゲルストナーとキングが今日の宴の会場を決めた様だ。宴の会場は宿のすぐ隣のアルテミス大陸料理の店だった。


 席に着くと、俺はメニューを片っ端から注文した。お金にはかなり余裕があるし、奴隷生活をしていた三人をもてなしたい。奴隷の時は一日パン一つしか与えられない事もあったのだとか。日頃から浪費をせずに、魔物討伐で得たお金をしっかり貯金していて良かった。俺の席の右側にはルナ、左側にはクーデルカが座っている。信頼できる仲間に囲まれて食事を出来るのはやはり幸せだ。


「ルナは肉が食べたい!」

「あたしも美味しい肉が食べたい。スノウウルフの唐揚げが欲しいの」

「ニク……」

「私はサシャと同じ物で良いわ」

「俺はステーキと葡萄酒があればいい……」

「それじゃ、肉料理を追加で頼もうか」


 料理を多めに頼むと、テーブルの上には溢れんばかりの肉料理が並んだ。俺はアリスとセシリアの皿に料理を盛ると、目の前の料理を見て彼女達は涙を流した。体にボロの布を纏い、食事すら満足に食べられず、奴隷として生きていたんだ……俺が彼女達の頭を撫でると、二人は嬉しそうに微笑んで食事を始めた。


 ゲルストナーはアラスターさん皿に大量の肉を乗せると、「剣士時代の体に戻るには大量の栄養が必要だ」と言って、次々と料理を差し出した。アラスターさんはゲルストナーと打ち解けたのか、二人は葡萄酒を飲みながら語り合っている。


 山盛りの肉料理を見て、キングとルナは目を輝かせた。俺はルナの皿に料理を盛った。クーデルカが「私にも料理を盛って頂戴」とせがむと、俺は彼女のためにも料理を盛った。そんな様子をアイリーンは寂しそうに見つめている。


「アイリーンはスノウウルフの唐揚げで良いんだよね」

「そうなの。私も料理を盛って欲しいの……」

「わかったよ。さぁ、どうぞ」


 スノウウルフの唐揚げを盛った皿を差し出すと、アイリーンは目をキラキラを輝かせて肉を食べ始めた。キングはまるでアリスとセシリアの兄の様に、二人に騎士団の話をし、料理を次々と差し出している。全く、面倒見の良いスケルトンの王だ。そう言えば、フィッツ町のスケルトン達は元気にしているだろうか。ミノタウロスとも随分会っていない気がする。


 召喚獣達に会いたい……召喚獣は俺の魔力で生み出したのだから、俺の家族の様なものだ。家族といえば、リーシャ村の母さんやサイモンおじさんは元気だろうか。フィッツ町にラドフォード姉妹を送る時に、リーシャ村にも寄ってみようか。一流の冒険者になった時に戻ろうと思っていたが、近くに寄るのだから、顔を出しておこう。


「サシャ、また考え事をしているの? あなたはいつも私達の事を考えてくれている」

「え? どうしてそれを……?」

「見ていれば分かるわ。他人を救う事ばかり考えている。奴隷を解放したのも、サシャは弱い相手を見過ごせないから。そうでしょう?」

「そうだね……自分の力で救える相手は救いたい。勿論、そのために自分の人生を棒に振るつもりは無いよ。今日も少し無理をすれば奴隷をあと一人か二人は買えたと思うんだ」

「三人の命を救っただけでも十分よ。私はあなたを誇りに思うわ」

「ありがとう。俺はレベルや称号に見合った冒険者になるよ」

「称号に見合った冒険者? 仲間と強力して幻獣のブラックライカンを倒したでしょう? それだって凄い事なのよ」

「まだまだだよ。俺は大陸で最高の冒険者になると決意して旅に出たんだ。だから俺はこの大陸で最強の冒険者になる。それまでは絶対に自分の力に満足しない。そう決めているんだ」

「そう……私があなたを支えてあげるわ」

「ありがとう、クーデルカ。頼りにしているよ」


 俺はクーデルカの頭を撫でると、彼女は俺の頬に口づけをした。素晴らしい仲間達と出会えただけでも、旅に出た意味があった。だけど俺は最高の冒険者になりたい。それが俺の夢だ……。


「サシャ! ステーキ切って!」

「分かったよ、ルナ」


 ルナがいつものように俺に甘える。レストランの天井に漂う魔法の光がルナの金色の髪に反射し、キラキラと美しく輝いている。やはりルナは美しい。俺はルナに恋をしているのだろう。雛の頃から大好きだった。これからも俺はルナを、仲間達を守り続けるだろう。


「サシャ、私のステーキも切って頂戴」


 俺がルナのステーキを切ると、クーデルカはルナに対抗意識を燃やした。いつからだろうか、俺は毎日の食事の時間が楽しみになった。リーシャ村で暮らしていた時も、勿論俺は幸せだった。母さんやサイモンおじさんも居た。


 しかし、ここに居る仲間達は、俺を信じて命を賭けて戦ってくれる。俺は騎士団の団長としても、仲間が誇れる人間にならなければならない。レベルだけが高くても意味はない。仲間との温かい生活を守る。これが人生で一番大切なのではないだろうか……。


 それから暫く食事とお酒を楽しむと、俺達は宿に戻る事にした。人数が増えたので、部屋を追加で借り、ラドフォード姉妹に使って貰う事にした。アラスターさんはキング達と同じ部屋だ。


「ボリンガー様! 美味しい食事をありがとうございました!」

「気にしなくて良いんだよ。アリス、セシリア。今日はゆっくり休むんだよ」

「はい! おやすみなさい。ボリンガー様」

「おやすみ」


 俺はルナとクーデルカ、アイリーンを連れて自分達の部屋に戻った。防具を外して武器を壁に立てかける。今日も長い一日だった。早朝から起きているからだろうか、夕方の早い時間には猛烈な眠気に襲われる。明日も朝から訓練をしよう。


「ルナ、お風呂に入ろうか」

「うん!」

「サシャ、私も入るわ」


 俺達はいつもの様に皆でお風呂に入った。三人で湯船に浸かっていると、アイリーンが恥ずかしそうに浴室の扉を開けた。


「あたしも……サシャと入るの!」

「おいで、アイリーン。皆で入ろうか」


 アイリーンは体をタオルで隠しながら湯船に浸かった。俺の体には彼女達の豊かな胸が触れている。ルナ一人でも興奮を鎮めるのがやっとだというのに……アイリーンの大きな胸が俺の胸板に当たる。アイリーンが顔を赤らめると、クーデルカは「体を洗って頂戴」と言った。


 俺は恥ずかしさを堪えながら、なるべくクーデルカの体を見ない様に彼女の体を洗った。石鹸を付けたタオルをゆっくりと擦り、豊かな胸に触れた瞬間、クーデルカは俺を上目遣いで見つめ、唇に唇を重ねた。


「え……? クーデルカ……?」

「良いじゃない……私のサシャなんだから」

「サシャはルナのだよ!」


 ルナは俺をクーデルカから引き離すと、俺の唇に唇を重ねた。もう何が起こっているのかも分からない。


「みんな……俺は先に上る事にするよ……」


 逃げるように浴室から出ると、鞄から葡萄酒をの取り出して、一気に飲み干した。全く、クーデルカは何を考えているんだ。ルナ以外と口づけをしたのは初めてだ。暫くすると、アイリーンが浴室から出てきた。彼女は恥ずかしそうに俺に近寄ると、俺の頬に口づけをした。


「あたしの事も見て欲しいの……」

「アイリーン……」

「髪を拭いてほしいの」

「わかったよ」


 アイリーンの髪をタオルで丁寧に拭くと、眠たそうに欠伸をして、ベッドに潜り込んだ。しばらく枕に頬ずりをすると、彼女は一足先に眠ってしまった。子猫の様でとても可愛らしい。


 それから俺はルナとクーデルカの髪を乾かし、丁寧にブラシを掛けると、酔いと睡魔に襲われてベッドに倒れ込んだ。三人の女性を満足させるのは大変なんだな。だけど俺の大切な仲間だ。俺が彼女達を大切にしなければならない。ルナのしなやかな体を抱きしめながら目を瞑っていると、いつの間にか眠りに落ちていた……。

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