第二十六話「新たな仲間」
宿に戻ると仲間達が楽しそうに雑談をしていた。宿のロビーに仲間達を集め、奴隷市での出来事を伝えた。
「奴隷は直ぐに開放するんだろう? これから山脈超えをするのに奴隷を買うとは……」
「きっとサシャには考えがあると思うの。私もサシャに命を助けられた。本来なら奴隷として生きていたと思うの……」
アイリーンは俺に抱きつくと、嬉しそうに頬ずりをした。やはり人間と猫の中間種なんだな。アイリーンのモフモフした猫耳を撫でると、彼女は嬉しそうに俺を強く抱きしめた。ルナとクーデルカとは触れ合う時間は多いが、アイリーンとはあまり触れ合う事もない。もしかすると彼女も今まで寂しい思いをしていたのだろうか。
「どうも俺は奴隷制度が嫌いなのか、手持ちのお金で買える奴隷を衝動的に買ってしまったんだ。だけど俺は君達三人を自分の奴隷にするつもりはありませんよ。今日から俺達と共に、新たな人生を歩み始めましょう。ボリンガー騎士団団長、レベル85、幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーは、セシリア・ラドフォード、アリス・ラドフォード、アラスター・リグリーの奴隷契約を破棄し、皆さん今後の人生を全力でサポートします」
俺がそう言うと、三人は愕然とした表情で俺を見つめた。言葉も出ないのだろう。奴隷契約書を取り出して掲げると、キングが右手から炎を放って契約書を燃やした。幼い姉妹もアラスターさんも、涙を流して喜んだ。
「ボリンガー様、本当にありがとうございます。見ず知らずの私達を開放して下さって……大金を使わせて仕舞って、ごめんなさい……」
「良いんだよ。賭けで手に入れた泡銭だし、俺は奴隷制度が嫌いなんだ。それで、提案なんだけど、良かったら三人共、俺の騎士団で働く気はないだろうか?」
「働く? 開放してもらった事は嬉しいのですが、私達は帰る家もありません。私達に出来る事ならなんでもします! 自由にして下さったのですから!」
「私も同じ意見です。ボリンガー様。闘技会で私を庇って下さって、ありがとうございました。命ある限り、ボリンガー様の剣として生きましょう」
姉のセシリアは十四歳で、妹のアリスは十二歳なのだとか。美しい赤髪を肩まで伸ばしている。服はボロの布を身に着けている。後で三人の装備も整えた方が良いだろう。アラスターさんは元々剣士だったらしく、レベルは29なのだとか。
「ボリンガー騎士団は旅をしながら魔物を討伐し、地域を守りながらアルテミス王国を目指しています。フィッツ町とアシュトバーン村に拠点があるので、三人には騎士団の管理する拠点で働いてもらう事になります」
「仕事まで下さるのですね……ありがとうございます!」
「仕事と言っても、召喚獣のサポート業務です。難しい仕事ではありません。地域の方とコミュニケーションを取って頂き、召喚獣と共に地域を守るのが皆さんの仕事です。勿論、仕事に対する報酬もお支払します」
「私達を開放するために、三万ゴールドも支払って下さったのに……給料まで下さるなんて……申し訳なくてとても受け取れません」
「アリス、セシリアって呼んでも良いかな。お金の事は気にしなくても良いよ。これから俺の仲間として、一緒に明るい未来を歩もう」
「ボリンガー様……」
アリスとセシリアは大粒の涙を流しながら、俺の胸に顔を埋めた。キングは静かに涙を流すアラスターさんの頭を撫でている。アラスターさんはキングの容姿に驚きながらも、キングに対して何度もお礼を言った。どうやら素敵な仲間が三人も増えたみたいだ。
俺はアラスターさんにアシュトバーン村の拠点長を任せる事にした。アシュトバーン村は現在、スケルトンとホワイトウルフが町の警護をしている。低級の魔物だけでは、現地の村人とのコミュニケーションは取れないだろう。村人達を守りながら、召喚獣の世話をして貰う。それから、ラドフォード姉妹にはフィッツ町の拠点でミノタウロス拠点長の補佐をしてもらう事にした。
「やはりサシャは偉大な男だな。奴隷を購入して開放してしまうとは。三万二千ゴールドを、赤の他人のために使える人間はなかなか居ないぞ」
「そうね。私もサシャが誇らしいわ」
「サシャ……イイコトシタ……」
「ありがとう。皆、今日の夜は宴にしようか」
「そうだな。ラドフォード姉妹とアラスターの新たな人生を祝おう!」
ラドフォード姉妹をフィッツ町まで馬車で送ればかなりの時間を浪費してしまう。それならこの機会にワイバーンを召喚し、空から三人を現地まで送った方が良いだろう。明後日の朝にワイバーンを召喚に挑戦する事にした。
それからゲルストナーとキングは宴の会場を探すために宿を出た。まずは三人の新しい服や装備も買わなければならない。流石にボロの服のままでは働けないからな。これから町に買い物に行くとしよう。
「アラスターさん、セシリア、アリス! 買い物に行こうか」
「買い物? これ以上お金を使って貰う訳にはいきません……」
「三人は俺の騎士団の仲間。俺は騎士団の団員を心から信頼し、愛しているんだ。仲間のためならお金だっていくら使っても構わない。今のままの服装では、町で仕事をする事も出来ないし、奴隷時代の服を着ながら、自由民として暮らす事は出来ないだろう?」
「そうですね……それではお言葉に甘えて……」
「あたしが二人の服を選んであげるの」
「アイリーンのセンスだと少し心配ね。私が選んで上げましょう」
「ルナが選ぶ!」
「さて、俺達も行きましょうか、アラスターさん」
三人の服や装備を選ぶために、町で最も上等な装備を扱う店に来た。基本的には、アリスとセシリアには戦闘には参加してもらわない。フィッツ町には戦闘に特化したメンバーが居るからだ。フィッツ町の拠点でお金の管理や家事などを任せよう。アラスターにはアシュトバーン村の護衛をしてもらうから、武器や防具が必要だ。俺達は早速、三人のための買い物を始めた……。