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第二十四話「レイリス町」

 レイリス町に入ると、山脈超えのための食料や、日用品の買出しをする事にした。町はフィッツ町程の広さだろうが、全体的に活気が無く、どこか薄暗い雰囲気だ。様々な店が建ち並んでおり、一見豊かそうに見えるが、この町の奴隷市では奴隷が売買されている……。


 乾燥肉や乾燥フルーツ、堅焼きパンやチーズ、乾燥野菜などの保存が利く食料を大量に買い込み、ユニコーンの馬車に積む。それから装備作りに必要な金属をアイリーンと相談して購入した。暫く町を進むと、立派な外観をした宿を見つけたので、暫くこの宿に滞在する事にした。


 外で野営をするのも良いが、たまには宿を利用するのも良いだろう。土のベッドの上で寝続けているからか、なかなか疲れが取れない。砦の宝物庫で手に入れ戦利品を売り払うと、かなりの金額になったので、暫くは宿に滞在しながら、山脈を超えるための準備をする事にした。


 それから宿の受付で代金を支払い、部屋を二部屋借りた。お金にはかなり余裕があるが、必要以上の部屋を借りたくなかったので、部屋決めをしてパーティーを二つに分ける事にした。


「それじゃ部屋決めをしようか」

「ルナはサシャが居ないと眠れないから、一緒の部屋に泊まる!」

「私もサシャと一緒よ。常に私の主と居たいからね」

「あたしも……一緒でいいかな……?」

「それじゃ俺はキングと部屋を使う事にするよ」


 部屋割りは俺、クーデルカ、ルナ、アイリーン。それから、キングとゲルストナーに決まった。室内にはベッドが二つあったので、一つは俺とルナで使う事にし、もう一つはアイリーンとクーデルカが使う事にした。部屋に荷物を置き、町を見て回るために宿を出る事にした。奴隷の取引が行われている市場を見に行きたかったからだ。


 奴隷市には誰を連れて行くべきだろうか? 生まれたばかりのルナには奴隷市は刺激が強すぎるだろう。キングとアイリーンは装備が整っていないから、奴隷市のような物騒な場所には連れて行けない。ゲルストナーにはアレラ山脈に関する情報を集めて貰いたい。パーティーで自由に動けるのはクーデルカだけだ。


「クーデルカ、これから奴隷市を見に行くんだけど、一緒に来てくれるかい?」

「勿論良いわよ。初めてのデートという訳ね」

「デートではないんだけどね」

「それは残念だわ」

「ルナは何をしていたらいいの?」

「ルナはアイリーンとキングと一緒に居てくれるかな? アイリーン、二人を頼むよ」

「分かったの。気をつけて行ってくるの」


 俺はアイリーンにお金を渡すと、アイリーンはキングとルナを連れて町に出た。念のため、武器と防具の点検をしてから奴隷市に向かう事にした。俺達はアシュトバーン村のむら娘を誘拐した盗賊達を殺めている訳だから、もしかすると、奴隷商が俺達を襲うかもしれないからだ。


「クーデルカ奴隷市に行こうか」

「そうね。ちゃんとエスコートするのよ。デートなんだから」

「分かったよ……」


 クーデルカは俺の手を握り、まるで恋人同士の様に指を絡めると、俺を見上げて微笑んだ。彼女の体温と優しい魔力を感じる。近くで見ると一段と美しい……太陽の光が紫色の髪に反射して輝き、きめ細やかな白い肌は透明感に溢れ、思わず触れたくなる程のツヤがある。服の胸の部分は窮屈そうに大きく盛り上がっており、町を歩いているだけで、男達がクーデルカに色目を使う。


「そんなに見つめてどうしたの?」

「綺麗だなと思って……」

「馬鹿……こんなに人が居るのに。サシャは大胆ね」

「やっぱりクーデルカはサキュバスだから、人間とは違う魅力がある気がするんだ」

「そうかもしれないわね。私はもっと美しくなるわ」


 クーデルカは満面の笑みを浮かべながら、上機嫌で町を歩いている。俺は女性の事は素直に褒める事にしている。これは村で暮らしていた時からの習慣だ。村の女性が料理を作ってくれれば、すぐに料理の味を褒める。服を新調すれば服を褒め、髪型が変われば「いつも美しいですね」と一言伝える。これだけで人間関係はより良くなるから不思議だ。母の言葉だが、「女性の変化に敏感でありなさい」俺は常にこの言葉を意識して女性と接している。


 暫く歩くと、俺達は奴隷市に繋がる裏路地を見つけた。薄暗く、禍々しい闇の魔力が蔓延している。気味の悪い魔力を感じる路地を進むと、ついに奴隷市に辿り着いた。奴隷市では、奴隷商達が奴隷を壁際に並ばせている。奴隷の中には幼い人間の女や獣人の女等が居る。やはりルナを連れて来なくて正解だった。クーデルカは悲しげな表情で奴隷達を見つめている。


 奴隷の首には値札が掛けられており、容姿が整った若い女は値段が高く、服装も綺麗だ。男の高齢の奴隷は、ボロの布で肝心な部分を隠しているが、体は汚れきっており、虚ろな目で地面を見つめている。


 安い奴隷でも最低五千ゴールド、容姿の整った若い女性の奴隷が二万ゴールドだ。俺とクーデルカが奴隷を見ていると、でっぷりと太った奴隷商が近づいてきた。随分儲けているのだろう、金の指環をいくつも嵌め、首には太い白金の首飾り巻いている。手には宝石が散りばめられたステッキを持っており、クーデルカの体を舐め回すように見つめている。


「旦那様、本日はどういった奴隷をお探しでしょうか?」

「別に奴隷を探している訳ではありませんよ」

「左様でございますか。旦那様はグラディエーターを育ててみる気はないでしょうか? 私の奴隷は、どれも強くて強靭ですよ。こちらの奴隷は剣士でした! 冒険者時代のレベルは35。値段は一万ゴールド。いかがでしょうか?」

「だから、奴隷を買いに来た訳じゃないんですよ」


 俺の言葉を無視しながら、奴隷商は一人の奴隷を連れてきた。身長百九十センチ程の屈強な男で、鋭い眼差しで俺を睨みつけている。他の奴隷は人生を諦めた様な表情をしているが、この奴隷だけは鋭い視線で辺りに居る人間を睨んでいる。


「それから、こちらの姉妹は本日入荷した人間の姉妹。冒険者ではありませんが、性奴隷や家政婦としていかがでしょうか! 名はアリスとセシリア。男の経験も無く、セットで買って頂けるなら割引しますよ」


 奴隷商が気味の悪い笑みを浮かべると、クーデルカは露骨に軽蔑した顔で奴隷商を見た。しかし、性奴隷とは可愛そうな人生だ。姉妹の奴隷の値段は三万ゴールドだった。買えない金額ではないが、奴隷を買う必要はない。姉妹が気の毒だとは思うが、命を賭けて幻獣と戦い、手に入れた財産をわざわざ使う必要は無いだろう。だが、このまま見捨てるのは可哀想だ。なんとかして彼女達を救う方法はないだろうか。


 暫くすると、奴隷市には人が増え、奴隷商達が集まり始めた。何か催し物でもあるのだろうか。金属製の大きな檻が市場の中央に運ばれると、一人の奴隷商が話し始めた。


「お集りの皆様! これより闘技会を行います! 闘技会を見て頂ければ、私の奴隷の強さが分かるでしょう。グラディエーターとして育てるも良し! 魔物討伐をさせるのもよし! 使い方は皆様次第です!」


 奴隷の闘技会? 奴隷同士を戦わせるのだろうか。奴隷商が檻を開け、一人の奴隷を放り込んだ。体は痩せこけており、生気を失った男は涙を流しながら観客を見つめた。足元にはグラディウスが投げ込まれ、男はグラディウスを拾うと、体を震わせながら檻の隅に座り込んだ。それから先程の長身の男が檻の中に入ると、集まった人達は賭けを始めた。


 どう考えても長身の男が勝つだろう。奴隷同士に殺し合いをさせるなんて、許して良い事ではない。どうにかして奴隷制度を崩壊させる方法はないだろうか。賭けは大いに盛り上がり始めたが、貧弱な男に賭ける者は殆ど居ない。


「私なら好きな方を勝たせられるわよ。私のマジックドレインを使えば、相手の魔力を吸収して弱らせる事が出来る……」

「好きな方を……?」

「そうよ」


 クーデルカは静かに頷くと、俺は直ぐに作戦を立てる事にした。サキュバスの固有魔法、マジックドレインを使えば、対象の魔力を奪う事が出来る。クーデルカの魔法によって魔力を失えば、大きな隙きが出来るだろう。どちらでも勝たせられるのなら、俺は貧弱な奴隷に勝って欲しいと思う。


「クーデルカ、俺が指示したタイミングで長身の奴隷にマジックドレインを掛けてくれるかな?」

「任せて頂戴」


 ここ芝居を打って馬鹿なギャンブラーを演じる事にしよう。明らかに負ける方の奴隷に大金をつぎ込む。


「俺は痩せている男に五万ゴールド賭けるぞ! 誰かこの賭けに乗らないか!」

「五万ゴールド? お前は頭がイカれてるのか? 長身の奴隷が勝つに決まっているだろう」

「若造がどこでそんな大金を手に入れたんだ? よし、俺様がお前の幼稚な賭けに乗ってやろう」


 身なりの整った貴族の様な男が近づいてくると、賭けが成立した。これで五万ゴールドの儲けが確定した。儲けたお金で姉妹の奴隷を開放してあげよう。観客が賭けを終えると、ついに闘技会が始まった……。

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