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第二十二話「クーデルカ」

 砦を出るとユニコーンとゲルストナーが駆けつけきた。ユニコーンはクーデルカの臭いを嗅ぐと、小さく頭を下げた。仲間として認めるという事だろうか。ゲルストナーにブラックライカンの討伐を伝えると、彼は自分の事の様に喜んだ。


「流石だな……幻獣を倒してしまうとは! それに、隣に居る女は魔族か? 魔族が人間の仲間になるとは信じられないな……俺はゲルストナー・ブラックだ。よろしくな」

「私はクーデルカ・シンフィールドよ」

「まずはこの場所を離れようか」

「うむ。直ぐに出発しよう」


 俺達は馬車を走らせ、次の野営地を探す事にした。馬車の運転をキングに任せて、俺達はクーデルカと話し合う事についた。自分が召喚した相手だが、素性も全く分からない。キングとルナ、それにユニコーンが認めた魔族か……十分に信用出来る相手なのは確かだろう。まずはお互いに自己紹介をして知り合う必要がある。


「俺はさっきも名乗ったけど、幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガー。それから馬車を牽いているのは幻獣のユニコーン。手綱を握っているのが幻魔獣のキング」

「あたしはアイリーン・チェンバーズなの。サシャに命を助けられて一緒に旅をしているの」

「私はハーピーのルナ」

「ゲルストナーと呼んでくれ。戦士をしている」

「クーデルカ、どうして砦で殺されたのか。それから、なぜブラックライカンは君を守る様に地下に潜んでいたのか。色々教えてくれるかな?」


 クーデルカは髪をかき上げて俺を見つめた。見れば見るほど美しい。彼女は俺の手を握ると、静かに語り始めた……。


「私が二十歳の時、砦で暮らしていた盗賊の首領との結婚が決まっていたの。結婚式の日には、大勢の魔族や人間の盗賊達が集まっていたわ。事件は結婚式の当日に起きたの。当時、魔族の長だった私の父には、休戦状態だった幻獣のライカン族が居たんだけど……参加者がお酒に酔って、騒ぎ始めた頃に、ブラックライカン率いる軍団が突然、結婚式会場を襲ったの」

「結婚式をブラックライカンに襲われたのか?」

「そうよ、ゲルストナー。私達はブラックライカンの軍団に皆殺しにされた。ただ一人、私の父を除いた参加者は全員命を落としたの。私はブラックライカンの闇の魔力によって魂を祭壇に封じ込められた」

「それで祭壇の上を漂っていたという訳か」

「そう。父は襲撃を受けて直ぐに逃げ出した。私の死も知らずに……きっと父は私がまだ生きていると思っていたのでしょう。父は私を取り戻すために何度もブラックライカンに挑んだのだけど、父一人ではブラックライカンに敵わなかった」


 ブラックライカンは砦でクーデルカの父を待ち、殺す機会を伺っていたのだろう。クーデルカを生きている様に見せかけて、ただクーデルカの父を続けた。クーデルカの父は、娘が生きていると勘違いをし、何年もブラックライカンに戦いを挑み続けたのだとか。


「クーデルカのお父さんどうなったの?」

「わからない……ブラックライカンとの戦いで体中に傷を負ってからは砦を訪れる事もなくなった」

「お父さんが可哀相なの……」

「そうね。だけど彼は良くやったと思うの。私は魂の状態で父の戦いを見続けてきた」

「クーデルカ。これから君の新しい人生が始まるんだ。俺達と生きよう」

「そうね、これもサシャと皆のお陰だわ。本当にありがとう……」


 クーデルカは涙を流しながらお礼を述べると、俺は彼女の体を抱き寄せた。自分の親がブラックライカンに攻撃される所を魂の状態で見続けてきた。大変な思いをしてきたのだろう。ルナはクーデルカの頭を撫でると、優しい笑みを浮かべた。


「クーデルカの父上は生きているのではないか?」

「そうかもしれないわね。いつか会いに生きたい……」

「うむ。今日はクーデルカの入団祝でもするか!」

「そうだね。キング、適当な場所を見つけたら野営の準備をしようか」

「ワカッタ」


 しばらく移動を続けると、森の中に開けた場所を見つけたので、俺達は早速野営の準備を始めた。キングとルナは水を汲みに行き、俺は土の魔法で家を作り上げた。ゲルストナーは料理をし、アイリーンはユニコーンに乗って野営地の周辺を探索した。魔物が潜んでいないか確認するためだ。クーデルカは俺の傍から離れようとしない。魂の状態で何年も一人で砦に居たんだ。きっと人間が恋しいのだろう。クーデルカは俺の体を後ろから抱きしめると、静かにすすり泣いた。


「大丈夫かい? 疲れているなら早めに休もうか」

「いいえ。私は大丈夫……こうしてまた生きられるなんて幸せだなと思ったの。ありがとう、サシャ」

「どういたしまして。これからは俺がクーデルカを守るよ。お父さんの代わりにね」

「頼りにしているわ。サシャ達がブラックライカンを倒した時、私は人生で味わった事も無い程の幸せを感じた。やっと開放されるんだって。そうしたらサシャが魔法で私を蘇らせてくれた」

「召喚魔法を応用して、魂を注いだんだよ。どうやら俺は素材から召喚するのが得意みたいなんだ」

「素晴らしい力ね。私は魔術師として、これからは皆を支えながら生きる事にするわ」


 ゲルストナーが料理を終えると、俺は鞄の中からワイバーンの頭骨を取り出した。ゲルストナーに頭骨を見せると、彼は満面の笑みを浮かべて頭骨に触れた。


「これは……幻魔獣、ワイバーンの頭骨! どこで見つけたんだ?」

「砦の宝物庫にあったんだよ。キングが見つけてくれたんだ」

「幻魔獣の素材が手に入るとは……ワイバーンが居れば騎士団の戦力は大幅に上がるだろう。素材の状態も良く、強い魔力を持っている」

「素材にも魔力の強さがあるんだね」

「そうだ。強い魔力を持つ魔物ほど、大量の魔力を体に秘めたまま命を落とす。強い魔力が籠もった素材から召喚を行えば、魔物が成長しやすくなり、知能も高くなりやすいと言われている」

「やっぱりゲルストナーは召喚学にも精通しているんだね」

「育成学と召喚学は共通している点も多いからな」


 ゲルストナーからワイバーンの説明を聞くと、ドラゴンよりも獰猛で魔力が強い大型の飛竜なのだとか。戦闘力は幻魔獣の中でもトップクラスで、忠誠心も高いらしい。ただし、自分よりも強い人間にしか懐かなく、野生のワイバーンを手懐けられた人間は過去に二人しか居ないのだとか。


「ワイバーンならアレラ山脈に居るブラックドラゴンにも勝てるかな?」

「それは分からないな……個体としての強さなら、幻魔獣のワイバーンの方が上だとは思うが、ブラックドラゴンの戦闘経験や、敵の数が分からない。一対一ならワイバーンが勝つとは思うが」

「魔物も長く生きれば戦闘の経験を積んでいるから、新たに生まれた幻魔獣よりも、長く生きた幻獣の方が強い可能性もあるんだね」

「そういう事だ。魔力の強さや筋力の強さだけが、戦闘における強さではない。低レベルの人間でも、戦い方次第では高レベルの魔物を狩れるだろう?」

「確かにそうだね。ブラックドラゴンを倒す方法を考えなければならないね」

「うむ。ドラゴンを狩ればたちまち俺達の騎士団の名が知れ渡るだろう。幻獣の中でも討伐の難易度はトップクラスだからな」


 ゲルストナーと山脈攻略について暫く話し合うと、クーデルカを歓迎する宴の準備が整った。テーブルにはゲルストナーが調理したブラックウルフの肉と、ブラックライカンの肉が並んでおり、それ以外にもトマトを使ったスパゲッティやチーズ、飲み物は葡萄酒やエール酒等、豪華な料理が所狭しと並んでいる。


「クーデルカ。ブラックライカンの肉を使わせてもらったが、大丈夫だったか?」

「ええ。気にしないわ。むしろいい気味かしら」


 アイリーンが宴の音頭を取ると、クーデルカは葡萄酒を飲んだ。それからブラックライカンのステーキを食べると、嬉しそうに微笑んだ。自分の家族を、自分自身を殺した敵の肉を食べる……どんな気分なのかは本人しか分からないだろうが、クーデルカは上機嫌で肉を食べている。


「なかなか美味しいわね」

「そうか。そいつは良かった」

「ゲルストナーは料理が上手なのね」

「一人暮らしが長いからな」

「まだ結婚はしていないの?」

「うむ。なかなか良い相手が見つからなくてな」

「それは勿体無い。きっと良い夫になれるわ」

「ありがとう。クーデルカ」


 すっかりゲルストナーと打ち解けたのだろう、ゲルストナーは騎士団が出来たエピソードや旅の目的地等をクーデルカに話している。ルナはブラックライカンの肉に齧り付いたが、分厚いステーキを噛み切れず、悲しそうに俺を見つめた。まだナイフを使った食べ方を知らないのだろう。見た目は大人の女性だから、時折、ルナが生まれたての魔物だという事を忘れる時がある。


「ルナ。ステーキは小さく切って食べるんだよ」

「わかった!」


 ルナのは右手をステーキにかざし、風の魔力を放出させると、小さな風の刃がステーキを切り裂いた。とんでもない魔法の使い方だな……キングもルナの真似をして魔力を込めた時、アイリーンが急いで静止した。


「キング。私が切ってあげる。ここで魔法を使うと皆死んでしまうの」

「アリガト……」


 キングとルナには一般常識を教えた方が良さそうだな。アイリーンは歯が良いからだろうか、分厚いステーキをそのまま噛み切っている。やはり彼女も人間ではないんだな。よく考えてみれば、俺とゲルストナー以外は皆種族が違う。ユニコーンが寂しそうに室内を覗いていたので、俺はアシュトバーン村で頂いた果物をユニコーンに食べさせた。満足そうに食事をすると、ユニコーンは野営地の見張りを続けた。頼りになる召喚獣だ。


「サシャは私の主なのに、どうしてルナに肉を切ってあげるの?」

「ルナは俺が育てているからね。実はまだ生まれたばかりなんだよ」

「そんなでたらめな嘘、私が信じると思う?」

「クーデルカ、サシャは嘘を付いていないんだよ。ルナはつい最近まで卵の中に居た。サシャが育ててここまで大きくなったんだ」

「それじゃ、私のためにも肉を切って頂戴。いいでしょう? 私もあなたのものなんだから」

「俺のものではないけど、ステーキは切ってあげるよ」


 それからクーデルカのためにステーキを切ると、彼女が肉を食べさせてと言ったので、肉をフォークに刺して差し出した。クーデルカは俺を見つめながら肉を頬張った。随分色っぽいな……彼女を見ているだけで胸が高鳴る。キングはそんな俺達の様子を楽しそうに見つめている。


「クーデルカ、実はサシャはルナと共に風呂を入る仲なんだ。あまり二人の邪魔をしてやるなよ」

「なんですって? サシャ! どういう事?」

「ああ。ルナはまだ幼いから俺が風呂に入れているんだよ」

「そう。ルナはサシャとお風呂に入るの」


 クーデルカは静かに赤面すると、俺の耳元で「今日から私も一緒に入るわ」と言った。彼女の言葉を聞いた瞬間、砦で見たクーデルカの裸体を想像して恥ずかしくなった。暫くクーデルカの好きにさせよう。人と関わる事も出来ずに、地下の教会に幽閉されていたんだ。自分の体すらなく、父が何度もブラックライカンに負けるところを見続けてきた。俺が彼女を満たしてあげよう。俺が出来る事なら何でもしてあげたい。


 仲間との団欒を楽しんだ後、俺はルナを風呂に入れてから寝る事にした。俺がルナと風呂に入っていると、途中でクーデルカが浴室に入って来た。タオルを体に巻いたまま湯船に浸かると、白いタオルが水に濡れ、クーデルカの体つきが強調された。まずい……見てはいけない……。


 クーデルカの体を見ない様に天井を見上げていると、クーデルカは俺の体を抱きしめた。彼女の豊かな胸が俺の胸板に当たり、優しい魔力が体に流れ始めた。


「サシャ、私はあなたのもの。好きにしていいのよ……」

「そんな……! 好きにするだなんて……」

「サシャ、好きにするって何? 二人で何をするの?」

「ルナ、別に何もしないんだよ。さぁ、体を洗おうね」

「うん!」


 俺が浴槽から出ようとすると、クーデルカが俺の体を強く抱きしめた。


「ルナの体を洗うなら私も洗って頂戴」

「そんなの無理だよ……!」

「ルナだけ洗って貰うなんてずるいわ。さぁ、早く洗って頂戴」


 クーデルカがタオルを外すと、彼女は強気な言葉とは裏腹に、顔を赤らめて俺を見つめた。俺はタオルに石鹸を付けてクーデルカの体を洗い始めた。手にあまる程の豊かな胸をタオルで擦り、丁寧に石鹸を付けると、クーデルカは恥ずかしそうに俯いた。もう興奮を抑えられそうに無い。早めに浴室から出なければ……。


「本当に洗うなんて……だけど大胆な人は好きよ」

「クーデルカ……そろそろ恥ずかしいから先に上がるよ……」

「うん……」


 クーデルカは顔を真っ赤にすると、俺はルナの体を洗ってから浴室を出た。それからルナの翼を丁寧に拭き、髪を乾かすと、ルナはベッドに潜った。ルナの隣に横になり、ルナを抱きしめながら目を瞑っていると、浴室から出てきたクーデルカが俺を叩き起こした。


「どうして一緒に寝ているの? サシャは本当に浮気者ね」

「違うんだよ! これは卵の頃からの習慣なんだ」

「何が違うの……女なら誰でもいいの?」

「ルナは女じゃなくてハーピーなんだけどな……」

「ハーピーもサキュバスも女みたいなものよ。私もサシャと寝る事にするわ」

「サシャ、腕枕して」

「わかったよ、ルナ」


 俺はルナに腕枕をすると、クーデルカもベッドに入った。俺に密着すると、彼女の豊かな胸が俺の体に触れた。興奮して眠れそうにないな。明日からも早朝に起きて訓練をしなければならないのに……。


「私にも腕枕をして頂戴」

「わかったよ……」


 こうして俺は二人の美女を抱いて眠りに就いた……。

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