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第二十話「砦発見」

 朽ち果てた砦からは禍々しい魔力が辺りに流れており、近くに居るだけで気分が悪くなりそうだ。強力な魔力が砦から侵入者を拒む様に流れている。


「この魔力の感じは魔族だろうか。それに、闇属性の魔物も潜んでいるのだろう。俺は魔物育成に携わって長いが、これ程までに禍々しい魔力は初めてかもしれん……」

「そうね、この魔力の強さは尋常じゃない気がするの」


 ゲルストナーとアイリーンが不安そうな表情を浮かべて砦を見つめた。この砦には高レベルの魔物が潜んでいるのだろうか。キングとルナは平気なそうな表情を浮かべているという事は、幻魔獣程の魔物ではないと言う事だろう。


「サシャ」

「どうしたんだい? キング」

「トリデ……」

「砦に入った方が良いと思うかい?」

「ウン……」


 キングは静かに頷くと、ルナは翼を開いて上空に飛び上がった。砦に潜む魔物と戦いたくて仕方がないといった様子だ。キングは慎重な性格だが、ルナは好戦的だ。きっと戦闘を好む種族の魔物だからだろう。ルナに続いてアイリーンも馬車から飛び上がった。跳躍力は人間とは比較にならない程高く、軽やかに着地すると、槍を構えて微笑んだ。


「俺達も行くか……」

「そうだね。ユニコーンは森で待機していてくれるかな?」


 ユニコーンを森で待たせ。俺達は砦の攻略を始めた。ルナとキングが興味を示す程の魔物が潜んでいるのだ。強い魔物を倒して素材を回収すれば、新しく召喚して仲間にする事も出来る。それから武器と防具を点検し、キングを連れて砦に向かった。


 砦は石造りの二階建ての建物で、周囲には木製の柵が建っているが、何者かに柵を破壊されている。仲間達と陣形の確認をし、ゲルストナーを先頭にして砦に踏み込んだ。


 乱雑に置かれた家具には埃が被っており、かつては人が住んでいた雰囲気だ。一階は大広間になっており、長いテーブルの上には動物の死骸が置かれている。死骸には巨大な爪で引っ掻いた様な痕が付いている。この動物を殺めた魔物がこの砦の中に居るのだろう。敵が強ければ強いほど冒険者として戦い甲斐がある。きっとこの砦に潜む魔物は、元々住んでいた人間を殺めてこの場所を占拠したのだろう。


 人間を襲う魔物を倒す。それが冒険者としての仕事だ。ここで俺達が倒さなければ、砦から出てきた魔物が付近に暮らす人間を襲う可能性もある。それに、俺自身は自分の力を試したい。村を出てから毎日死ぬ気で訓練をしてきたんだ。レベルでは測れない自分自身の強さを知りたい。いつか必ず、俺はこの大陸で最高の冒険者になるんだ……。


 大広間を抜けると、二階に続く階段と地下に続く階段を見つけた。二階を先に探索してみたが、魔物の気配は無く、汚れきった寝室や書斎があるだけだった。地下を探索しよう。これから先はいつ魔物に襲われるかも分からない。右手でグラディウスを抜き、注意深く地下に続く階段を降りる。


 苔むした石の階段を一歩ずつ降りるごとに、力強い魔力を肌に感じる。恐ろしいな……明らかに自分よりも格上の敵が居る。毎日魔法の訓練をしているからだろうか、魔力の強さや性質が手に取るように分かる。


 階段を降りるとそこは牢獄になっていた。錆びついた金属製の牢が並んでおり、牢の中には白骨化した人間の骨があった。どうやら人間が監禁されていたみたいだ。ゲルストナーが骨に対して鑑定の魔法を唱えると、宙に魔法の文字が浮かんだ。


「どうやらこの骨は人間の貴族の物の様だ。ここに監禁されて殺されたのだろう」

「貴族がどうしてこんな場所に?」

「それは分からないが、この先に居る魔物が関係している事は確かだろう」

「そうか……皆、慎重に進むように」

「ルナが居るから大丈夫だよ。先に進もう」


 ルナはレイピアを握り、周囲を警戒している。いつでも攻撃を仕掛けられる様に準備しているのだろう。パーティーで最高の反応速度を持つハーピーは頼りになる。道中で魔物と出くわしても、敵の出現と共にルナの剣技が炸裂する。


 更に地下を進むと、人間の死体を見つけた。真新しい死体の胸部には深々と爪の痕が付いている。ゲルストナーが死体を確認すると、傷跡から魔物を推測した。


「一階の動物の死骸も、この人間の死体にも共通の傷が付いている。攻撃の際に強い闇の魔力を込めたのだろう。こんな芸当が出来るのは幻獣クラスの魔物に違いない。もしかするとブラックドラゴンと同等、それ以上の力を持つ魔物かもしれん」

「ブラックドラゴンと同等? そんな相手と戦うのか……」

「狼系の魔物だろうな。幻獣のブラックライカンだろうか……」


 ゲルストナーが呟いた瞬間、アイリーンが槍を構えた。地下の暗闇の中からは巨体の魔物が姿を現した。全身が黒い毛で覆われており、赤く血走った目が俺達を睨みつけている。体長二メートル程の巨大な狼だ。敵はゲルストナーに標的を定めたのか、一気に距離を詰めてゲルストナーに体当たりを放った。


 敵がゲルストナーの体をいとも簡単に吹き飛ばすと、ゲルストナーは壁に激突した。頭部からは血が滴り落ちている。ルナはゲルストナーを守るかの様に敵の前に立ちはだかり、鬼のような形相を浮かべてレイピアを振り下ろした。


 突風の様な強烈な魔力が炸裂すると、レイピアの先からは三日月状の魔力の刃が飛び出し、敵の胴体を切り裂いた。敵が深手を負って逃げ出そうとした瞬間、俺は敵の背後にアースウォールを作り、魔力を込めたグラディウスで水平斬りを放った。


『スラッシュ!』


 グラディウスで狼の首を捕らえ、そのまま力ずくで剣を水平に振る。筋力に魔力と武器の性能が上乗せされた水平斬りは、一撃で狼の首を飛ばした。俺の剣技はここまで強くなっていたのか……直ぐにゲルストナーに駆け寄ると、彼は力なく微笑んだ。鞄からヒールポーションを取り出してゲルストナーに飲ませると、頭部の傷は塞がったが、随分血を流してしまったみたいだ。


「全く……不甲斐ない姿を見せてしまった……だが、俺はもう大丈夫だ。先を進もう」

「ゲルストナー。無理はしなくても良いよ。ここから先は俺達で攻略する。ゲルストナーはユニコーンと合流して休んでいてくれよ」

「そうだな……それなら俺は一足先に戻るとしよう。久々に戦いの最中に死を意識した。皆、気を抜くなよ。この魔物はブラックウルフ。魔獣クラスの魔物が通路を守っていると言うことは、やはりこの先には幻獣クラスの魔物が潜んでいるだろう……」


 ゲルストナーは疲れきった表情を浮かべて砦を後にした。防御力の高かったゲルストナーがブラックウルフの一撃を受けていなかったら、もしかしたら仲間は殺されていたかもしれない。鍛え上げられた体に、パーティーで最も防御力の高い鎧を身に着けていたから即死は防げたのだろう。魔獣クラスの魔物にも、これ程までに強い魔物が存在したとは……。


 俺はブラックウルフの牙を回収し、ブラックウルフを解体して肉を取った。今晩の夕食にするためだ。陣形は俺とルナが前衛としてキングを守り、アイリーンが遊撃として俺達をサポートする事になった。ゲルストナーが一人抜けるだけで、パーティーの防御力が大きく落ちた。改めて彼の強さを実感する。


 魔物の気配を辿りながら、薄暗いジメジメした地下の通路を進む。地下にはいくつもの部屋があり、拷問に使う様な器具が置かれた部屋を見つけた。血の臭いと怨霊のような魔力を感じる。きっとここで人が殺されたのだろう。


 拷問道具を見てみると、大ぶりの斧が立て掛けてあった。手に触れてギルドカードでアイテム名を確認する。武器の名称は処刑人の斧。只ならぬ力を感じたので、俺はマジックバッグに仕舞って持ち帰る事にした。やはりこの鞄は便利だ。鞄の口を広げれば、かなり大きな物でも仕舞う事が出来るからな。


 更に通路を進むと、教会のような広間を見つけた。ここが最深部だろうか。白い石畳が敷かれている美しい空間には、祭壇が設置されており、祭壇の上には白骨化した死体が横たわっている。


 教会に足を踏み入れた瞬間、爆発的な咆哮が轟いた。全身に刺すような強烈な魔力と、空間を震えさせる悍ましい魔物の声が響くと、俺の体は固まった。強さの次元が違う……俺が戦いを挑んで良い相手ではない。本能が逃げ出せと言っている。


 教会の奥からはブラックウルフを二倍程大きくした様な人型の魔物が姿を現した。幻獣のブラックライカンだろう……長く伸びた爪は大勢の人間の血を吸っている様だ。まるでサーペントのレイピアの様な強い魔力を感じる。


 ここで逃げ出す訳にはいかない……俺は最高の冒険者になると誓って村を出たんだ。俺は震える手でグラディウスを握り締め、戦いを挑んだ……。

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