第二話「召喚士」
「助けてくれてありがとう! 俺の名前はサシャ・ボリンガーだよ」
どうやらこのスケルトンは普通のスケルトンではない様だ。墓地で襲い掛かってきたスケルトンは身長百七十センチ程だったが、キングはもう少し小さい。しかも人間の言葉まで理解出来る。
まずは怪我を治そう。ヒールポーションを取り出して飲み込んだ。すると、たちまち足の怪我が消えた。随分強い回復効果がある薬の様だ。怪我が治るとキングの表情が明るくなった。目には青い炎を灯している。確か、さっき俺を襲ったスケルトンは目が赤かった。スケルトンにも様々な種類があるのだろうか?
それから俺はスケルトンが落としたアイテムを回収した。『錆びついたメイス』と『スケルトンの頭骨』だ。俺がスケルトンのドロップアイテムを回収していると、キングは俺の後から付いてきた。俺と一緒に居たいのだろうか。
「キング、俺は旅をしているんだよ。俺と一緒に来るかい?」
「キングイッショ……」
キングと共に旅をするのも悪くないかもしれない。生まれて初めて仲間が出来た。それから俺達は移動を再開した。キングは俺の背後からヨチヨチと付いてくる。可愛らしい弟が出来た様で何だか気分が良い。
初めての冒険、初めての仲間。今は全てが新鮮だ。村の生活も嫌いではなかった。毎日、早朝に起きて母の仕事を手伝い、日が暮れた頃に家に戻る。それから母さんが作った料理を食べる。村に居れば何の苦労もせずに暮らしていけた。だけど俺は外の世界を見たかった。父の様に、冒険者として生きてみたかった。そして俺は旅に出た……。
ゆっくりと暖かい森の中を進む。キングの小さな手を握りながら、俺は生まれ故郷の話を彼に聞かせた。キングは楽しそうに俺を見上げ、興味深そうに話を聞いている。もうすぐフィッツ町に着くだろう……。
町に着いたら冒険者ギルドで登録をしなければならない。それからキングついて調べる。これが今日のスケジュールだ。スケルトンのドロップアイテムも早めに売り捌きたい。暫く歩き続けると、遠くの方に町が見えた。面積はリーシャ村の約五倍はあるだろう。幼い頃に一度来た事があるが、大人になってから来るのは初めてだ。俺とキングは直ぐに町に入った。
〈フィッツ町〉
フィッツ町に入ると様々な種族の生き物が暮らしていた。人間と白狼の中間種だろうか、狼の様な耳と尻尾が生えた人間や、猫と人間の中間種なども居る。それに、魔物を連れている冒険者も多い。召喚獣だろうか。
ゆっくりと町を見物しながら歩く。俺達は一軒の特殊な露店を見つけた。色とりどりの卵を並べているだけの店だが、キングが興味を示した。後で時間が出来た時に寄ってみよう。それから露店街を歩き続けると、俺達はスケルトンの頭骨を販売する露店を見つけた。頭骨の値段は6ゴールドだった。暫く露店を見て歩いた後、俺達は冒険者ギルドに向かった。
〈冒険者ギルド〉
室内に入ると、丈夫そうな鎧に身を包む屈強な男達が居た。何だか場違いの様な気がするが、俺は気にせずにカウンターに進んだ。カウンターには獣人の女性がおり、頭からは茶色の耳が生えている。犬と人間の中間種だろうか。随分獣人が多い町なんだな。カウンターには身分を証明するためにステータスが表示されている。職業は戦士、レベルは21。名前はシンディ・ブラフォードと言うらしい。
「はじめまして、私は受付のシンディ・ブラフォードです! ところで……隣に居るスケルトンは何? 面白い魔物を連れているんだね」
「どうも。俺はサシャ・ボリンガーです。この子とは北の街道の墓地で出会ったんです。何だか他のスケルトンとは違う気がしたので、仲間になって貰いました」
「もしかして、召喚獣?」
「え? この子は召喚獣なんですか? 確かに光の中から現れましたが……」
「私は詳しくないから分からないけど、野生のスケルトンが人間に懐く事は無いと思うの。だからきっと召喚獣に違いないわ」
「キングが召喚獣ですか。誰か魔物に詳しい方が居れば、キングの事を教えて貰えたのですが……」
「一人だけ心当たりがあるわ。鑑定士のロンダルク・ジウバ。雑貨店を経営している店主なの。後でスケルトンの事を聞きに行ったら?」
「そうですね。後で尋ねてみます。それから、冒険者としての登録がしたいのですが」
「そうだったんだ! それじゃ、まず冒険者ギルドについて説明するね」
と言って犬耳のお姉さんは説明を始めた。
「冒険者ギルドは、冒険者の登録をしたり、クエストを受けたりする場所なの。冒険者の登録が済めばクエストの依頼を受けられるようになるわ。冒険者の登録は誰でも可能で、登録にお金はかからないわ。登録の前にあなたの身分を確認しても良いかしら?」
「身分の確認ですか?」
「そう。冒険者登録は『奴隷』や『殺人鬼』などの称号があると登録ができないの。登録をする際に、身分を証明しないと新規の登録は出来ないのよ」
「そうなんですね」
「それじゃあ、この石板の上に右手を置いて頂戴。」
俺は言われるまま、カウンターの上に置かれている石板の上に右手を置いた。石板の上には俺のステータスが表示された。
『幻魔獣の召喚士 LV85 サシャ・ボリンガー』
レベル85だって? きっと何かの間違いだ。レベルは魔力の強さを現すもの。体内の魔力の総量が増えたり、魔力が成長した時にレベルが上がる。
「あなた、凄い人だったのね。冒険者ギルドは、幻魔獣の召喚士、レベル85、サシャ・ボリンガーの登録を認めます」
「レベル85ですか……信じられませんよ」
「あなたは何者なの? 王国の召喚士か何か?」
「召喚士? 俺は田舎の村で農業を営んでいた村人ですよ。きっと何かの間違いでしょう」
「いいえ、石板は絶対に間違えないわ。どんなに優れた魔術師でも、石板を欺く事は出来ないの」
受付のお姉さんからギルドカードを受け取った。
『幻魔獣の召喚士 LV85 サシャ・ボリンガー』
種族:人間
『幻魔獣 LV0 キング』
種族:幻魔獣・スケルトンキング
召喚者:幻魔獣の召喚士 サシャ・ボリンガー
カードの裏側にはキングの情報も書いてある。スケルトンキングって、石碑で祀られていた魔物じゃないか? 俺が石碑の魔物を召喚したのだろうか。
「あ、それからギルドカードは身分証明書にもなるから失くさないでね。万が一、失くしても無料で再発行出来るし、失くしたカードが拾われても本人以外は使えないから安心してね。」
「本人以外は使えないとは、どういう事ですか?」
「本人以外がギルドカードに触れた場合、カードは真っ白になって消滅するの。悪用防止のためにね。それから、ギルドカードのレベルの表示は正しいわ。ギルドカードは持ち主の魔力を計測する物なの。一種のマジックアイテムね」
「そうなんですね。色々教えてくれてありがとうございます!」
受付のお姉さんにお礼を述べてから、キングの事を深く知るために、鑑定士のロンダルク・ジウバという方を訪ねる事にした。